10億当たったから、60歳の私は夫と娘を捨てた

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10億当たったから、60歳の私は夫と娘を捨てた

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もうすぐ60歳だというのに、私も流行りに乗ってみて、娘の夏川美咲(なつかわ みさき)と指折りゲームを始めた。 私は得意な気持ちを隠しもせず...

Chương (1)

第1章

もうすぐ60歳だというのに、私も流行りに乗ってみて、娘の夏川美咲(なつかわ みさき)と指折りゲームを始めた。 私は得意な気持ちを隠しもせず、笑いながら手をあげた。 「私にはね、すっごく賢い娘がいる!」 それを聞いて、美咲はほぼ顔色ひとつ変えずに、指を一本だけ曲げた。 「私、新しいお母さんができたの」 その言葉に私は固まってしまい、顔に浮かべていた笑みもこわばった。 だが美咲は落ち着いた目で私を見つめ、静かに言葉を続けた。 「その人、お父さんの初恋の相手なんだって」 それを聞いて私は強張った指を宙に浮かせたまま、頭の中が真っ白になった。 そして、さっきまで言おうとしていた言葉もろとも、この突然の告白で全部吹き飛んでしまったようだ。 しまいには、喉まで出かかっていた言葉までも、ぐっと飲み込んでしまった。 本当は……宝くじで、10億円も当たったの。 それを全部、あなたにあげようと言おうと思ったのに。 第1話 もうすぐ60歳だというのに、私も流行りに乗ってみて、娘の夏川美咲(なつかわ みさき)と指折りゲームを始めた。 私は得意な気持ちを隠しもせず、笑いながら手をあげた。 「私にはね、すっごく賢い娘がいる!」 それを聞いて、美咲はほぼ顔色ひとつ変えずに、指を一本だけ曲げた。 「私、新しいお母さんができたの」 その言葉に私は固まってしまい、顔に浮かべていた笑みもこわばった。 だが美咲は落ち着いた目で私を見つめ、静かに言葉を続けた。 「その人、お父さんの初恋の相手なんだって」 それを聞いて私は強張った指を宙に浮かせたまま、頭の中が真っ白になった。 そして、さっきまで言おうとしていた言葉もろとも、この突然の告白で全部吹き飛んでしまったようだ。 しまいには、喉まで出かかっていた言葉までも、ぐっと飲み込んでしまった。 本当は……宝くじで、10億円も当たったの。 それを全部、あなたにあげようと言おうと思ったのに。 「なに、その顔」 美咲の態度はとても冷たくて、まるで小さい頃からずっと天塩をかけて育ててきた子だと思えないくらい。 彼女はスマホから一枚の写真を出して、私の目の前に突き出した。 「自分で見てみたら?」 そう言われ、私は手を震わせながらもスマホを受け取った。 そして、一枚の高級ホテルの個室で撮られた集合写真が目に入った。 写真の中で美咲と、私の婿・夏川誠(なつかわ まこと)が、私の知らない女の人の後ろに立っていた。 さらに美咲は、その女の人の肩に親しげに手を回しているのだ。 写真が撮られた日は、ちょうど私の誕生日だった。 あの日、私は朝早くからスーパーへ行って、新鮮な食材を選んで、美咲の好物のスペアリブと、そして誠が好きなローストチキンを作った。 でも、何度も電話したのに、夜になっても誰も帰ってこなかった。 美咲は残業で帰れないって、誠は友達とご飯だって。夫の道明寺慎吾(どうみょうじ しんご)なんて、どこへ行ったのやら、連絡もなかった。 そして、自分は結局、たくさんの料理を前にして、たった一人で夜中まで待ちぼうけだった。 そう思っていると、美咲がスマホを取り返してから、馬鹿にしたように言った。 「まだゲーム、続ける?」 私は喉の奥の詰まりを必死に堪え、震える声で言った。 「どうして、そんなことを私に言うの?」 小さい頃から、私は美咲を目の中に入れても痛くないほど可愛がってきた。 この子を産んでから、慎吾と彼の家族には何度も、跡取りがいないと困るからという理由で、男の子も産んでくれって言われた。 だけど、私はその度にきっぱり断ったの。 だって、私自身が男の子ばかり大事にする家で育ったから。軽く扱われるのが、どれだけつらいか身をもって体験してきたのだ。 だから、自分の娘にだけは、同じ思いをさせたくなかった。 ここ何年か、美咲は確かに少しわがままになって、事あるごとに私に向けた言い方もきつくなってきたけれど、それでも私はいつも彼女を大目に見てきた。 女の子は少しぐらい気が強くて、自信がある方が、将来いじめられないって思ってたから。 そして、親からの無条件の愛こそが、この子の自信にも繋がると信じていた。 だから、あの10億円の宝くじが当たったとき、一番に教えたいと思ったのは彼女だった。 わざわざ、若い子の間で流行ってる指折りゲームまで覚えて、こういう方法で嬉しいニュースを伝えたら、きっと喜びも倍増するだろうなと思っていた。 それなのに、今、美咲の冷たい横顔を目の前にして、10億円の当たりくじを握りしめながら、私は言葉が出てこなかった。 一方で、美咲はスマホをいじりながら、開き直った様子で返事した。 「別に知られても構わないから。今更、お父さんと離婚なんてしないでしょ?」 それを聞いて、私はなんとか笑顔を崩さないようにしながら言った。 「お父さんと別れたら、私、生きていけないとでも思ってるの?」 美咲はやっと顔を上げて私を見ると、とんでもない冗談でも聞いたかのような口調で返してきた。 「本気で離婚なんて考えてるの? もう年だし、年金だってないでしょ。この家を出て、どうやって生きていくわけ?」 実は、美咲がこんな話し方をするのは、今に始まったことじゃなかった。 いつからだろう。この子は、どんどん慎吾に似てきた。 言葉の端々に、どこか私を馬鹿にするような響きがある。 一番身近であるべき家族なのに、その口から出た言葉はいつも私を酷く傷つけているのだ。 私は鼻の奥がツンとするのを必死にこらえて、この息が詰まりそうな場所から、一刻も早く逃げ出したくなった。 でも、背を向けて立ち去ろうとした瞬間、また美咲の声が後ろから聞こえてきた。 第2話 「少しは自覚をもったらどうなの?あなたと彩花さんは大分かけ離れているんだから……」 だが、私は振り向きもせず、あの胸に突き刺さるような言葉を締め出そうとするかのように、早足で寝室へ駆け込んで、ドアを閉めた。 それから震える手で、書いておいた買い物リストを取り出した。 そこには、美咲に、彼女が何度も見に行っていた車を、慎吾に、新しい高級マッサージチェアを、そして誠の住宅ローンの返済を……と書いてあった。 私はそれを何度も見返して、やっと気づいた。そこにはみんなが欲しがっているものが書いてあったが、自分のためのものは、一つもなかった。 そして気が付くと、紙をびりびりと破る音が、静かな部屋によく響いた。 一枚、また一枚と。願いでいっぱいだったリストが、二度と元に戻らない紙切れになるまで、私は破り続けた。 …… やがて午前3時。いつもの痛みを感じ、私は時間通りに目を覚した。 長年の家事で苦労していた、私の体はとっくにぼろぼろだったから、肩も腰も、どこもかしこも痛かった。 私は慣れた様子で、隣で眠る慎吾を起こさないようにそっとベッドから抜け出した。 救急箱から痛み止めを探しているとき、うっかり古いノートを床に落としてしまった。 開いてみると、それは慎吾が30年以上も前からつけている日記だった。 【彩花が大学に受かった。俺の家には病気の母がいる。この子の足手まといになるわけにはいかない】 【親が決めた相手と結婚した。よく働くし、おだやかな人だ。でも、どうしても好きにはなれないのだ】 【娘が生まれた。道明寺美咲と名付けた。彩花のことを、想いながら……】 私はそれを一ページ目からめくっていきながら、指の震えが止まらなくなっていた。 そして、ついに一番最近書かれているページにたどりついた。 【彩花が帰ってきた。俺の心は、今も彼女のためだけに高鳴っているのだ。 娘と婿に俺と彩花のことを知られたが、驚いたことに、二人は俺たちが一緒になるのを応援してくれているらしい。 二人はもう彩花を『お母さん』と呼ぶようになったが、残念なことに、一家団欒で堂々と暮らせる日がまだ来ないのだ】 それを読み切ったあと、私は身も心も冷え切るのを感じながら日記を元の場所に戻した。 そうだったんだ。30年以上も連れ添ったこの男は、一度も私を愛したことがなくて、むしろ彼らが新しい生活を迎えるのに私という存在を邪魔だと思っているようだ。 思えばこの30年、たしかに慎吾は私にそっけなかった。 でも、私はずっと、彼はそういう性格の人なんだと思っていた。 姑とのことで揉めたときも、彼は一度も私の味方をしてくれなかったし、言葉の端々では、いつも私を見下しているようなところがあった。 だけど、お給料は毎月ちゃんと渡してくれたし、外で浮気することもなかった。 美咲の成長にも、ちゃんと父親として関わってくれていたから、私は、これが普通の夫婦の暮らしなんだと信じていた。 でも今になってやっとわかった。この男に人を愛する気持ちがなかったわけじゃない。情熱がなかったわけでもない。 ただ、その愛情と情熱のすべてを、別の女の人に注いでいただけだったんだ。 そして今では、命より大事な娘さえも私を裏切って、あの女を選んだ。 そう思うと私は力が抜けたように床にへたり込んだ。胸にぽっかりと穴が空いて、気力も家族を思う温かな気持ちも、すべてが底が抜けたように感じた。 そして、夜中にトイレに起きてきた慎吾は、私を見ると、何事もなかったかのように通り過ぎていった。 さらに、トイレから出てきても、私がまだ座り込んでいるのを見て、彼は苛立ったように眉をひそめて言った。 「またどうかしてしまったのか?」 それを聞いて、私は涙をぬぐって、すっと立ち上がった。 「慎吾、私に何か言うことはないの?」 慎吾の目に一瞬だけ後ろめたそうな色が浮かんだ。でも、すぐにまた苛立った表情を見せた。 「こんな夜中に寝ないでごちゃごちゃと……わざといちゃもんつけているのか?」 その表情は見慣れたもので、30年も一緒にいたからわかるんだが、それは彼が本気で怒り出す前のサインだ。 案の定、私が答えるより先に、慎吾は上着を掴むと部屋を飛び出していった。 「お前と話にならん!」 その乱暴に閉められたドアの音で、美咲が起きてきた。 寝室のドアの前に立つ美咲は、眠そうな目をしていたけど、その声は氷のように冷たかった。 「お母さん、何を騒いでるの?お父さんに本当に離婚を切り出されないと大人しくできないの? どうせまた更年期なんでしょ」 そう言い捨てて、彼女もまたドアをバンと閉めて自分の部屋に戻っていった。 一番愛していた二人に立て続けに言葉で突き刺され、ざわついた私の心は、逆にすっと静まり返った。 そして、固く閉ざされたドアに向かって、私はついに、小さいけどはっきりとした声であの言葉を口にした。 「離婚する」 第3話 「離婚?」 次の日の夜、誠と慎吾はほとんど同時に声を出して、信じられないという顔で私を見た。 美咲も一瞬おどろいたようだったが、すぐにふっと鼻で笑うと、また俯いてお椀のお味噌汁をかき混ぜはじめた。 それを見ても私は至って平静でいた。そしてお味噌汁をすすりながら、二人の反応を見て見ぬふりした。 一方で、それを見た慎吾はイライラを必死でこらえながら、誠と目くばせをした。 そしてテーブルの下からくしゃくしゃのビニール袋を取り出した。中には安っぽい腕輪が一つ入っている。 それを見てすぐに、私は慎吾が私の機嫌を取ろうとしているのだと気が付いた。 これまでも、喧嘩をするたびに、彼はいつもちょっとしたプレゼントをくれた。 それは安物のワンピースだったり、お店の宣伝がプリントされたコップだったりした。 大した物じゃなくても、私はいつも喜んでそれを受け取って、そしてまた、文句ひとつ言わずにこの家のために尽くしてきた。 でも今回に限って、私は受け取ろうとしなかった。 その様子を見て、誠もあからさまにイライラした口調で言った。 「お父さんがプレゼントを渡そうとしてるのに、何が不満なのか?やっぱり……比べ物にならないな」 「なにが比べられないって?」 私がさえぎると、誠はおどろいて言葉につまり、こわばった表情になった。 すぐに、私は彼から視線をそらして、言葉を続けた。 「彩花さんと比べているの?」 すると、その言葉にダイニングは一瞬静まり返った。 そして、その様子を見た慎吾は、私がここ数日おかしかった理由にすぐに気が付けたようだ。 彼はとっさに美咲の方を見た。 でも美咲は、お椀をつつくだけで、顔を上げようとはしなかった。 見かねて私は言った。「彼女を見る必要はない」 慎吾は少し黙っていたが、やがて口を開いた。 「お前……どこまで知っているんだ?」 私が何か言おうとしたその時、誠が先に口を挟んだ。 「お父さん、もう知られちゃったなら仕方ないよ。隠したって意味ないでしょ? それに、そろそろ彩花さんとの関係もハッキリしといた方がいいんじゃない」 慎吾はその言葉に後押しされたのか、急に開き直った態度になった。 「茜、どうしてそんなことを言うんだ?お前と離婚しようなんて、一度も考えたことはない。 この30年以上、お前には妻という立場でのうのうと暮らせてきたじゃないか。それに、俺はただこれから、彩花と静かに晩年を過ごしたいだけなんだ。 お前が黙って、彩花の邪魔さえしなければ、この結婚生活を続けてやっても構わないんだけど」 よく言うよ、「続けられる」だなんて、そんなのただのきれいごとじゃないか。 本当は、憧れの女性と一緒になりたいけど、私という無料の使用人も手放したくないだけじゃないか。 その時、私のスマホが鳴って、沈黙が破られた。 銀行からの電話だ。 当せん金の一部を寄付しないかと、よく連絡が来ていた。 今までは家族と相談しないと、と思って、いつもやんわり断っていた。 でも今回は、はっきりと答えた。 「はい、一部を寄付させていただきます」 すると電話を切った途端、慎吾が血相を変えて私の前に駆け寄ってきて、問い詰めた。 「何を一部寄付するだ?相手は男の声だったじゃないか。お前は、浮気してるのか?」 慎吾のその反応がおかしくて、でも私は不思議と腹は立たなかった。 「してないわ。でも、あなたがそう思うなら、それでもかまわない」 そうよね、どうせ離婚すると決めたんだから、もうすぐ他人になる人がどう思おうと、気にすることないもの。 誠も、私を責めるように言った。 「どうしてお父さんに急に離婚だなんて言い出したのかと思えば、次の相手を見つけてたってわけ」 慎吾はますますかっとなって、私の腕をぐっとつかむと、無理やり外へ連れ出そうとした。 「いい年をして恥知らずめ!本当に吐き気がする!」 ずっと楽をして暮らしてきた慎吾の力は強くて、体のあちこちが痛む私に抵抗する力なんてなかった。 そして美咲と誠も冷たい顔で後ろについてきて、まるで他人事みたいにその様子を眺めていた。 マンションの下まで来ると、慎吾は私を花壇のふちに叩きつけるように突き飛ばした。 ざらざらしたコンクリートで手のひらをすりむいて、痛みで私はしばらく声がでなかった。 慎吾は通路の真ん中に立つと、集まってきた近所の人たちに向かって大声で喚いた。 「みんな見てくれ!この女が、どれだけ恥知らずか! こいつは俺の稼ぎで食って、一日も働いたことがないんだ!ずっと俺に養われてきたくせに! この歳になって外に男を作って、おまけに離婚したいだって?家族まで捨てるつもりらしいじゃないか!」 第4話 ぼんやりとした街灯の光が、好奇と驚きに満ちた人たちの視線を照らしていた。 私は地面に手をついて立とうとしたけど、ひざに鋭い痛みが走った。 そして、いつもは会うと挨拶してくれる近所の女たちも、今はまるで別人のように近寄ろうとしなかった。 それに伴ったトゲのあるひそひそ話も、耳に入って来るのだ。 「まさかあんな人だったなんてね。ずいぶん厚かましいわ!」 「幸せな暮らしに慣れすぎちゃって、感謝ってもんを知らないのよ!」 「昔だったら大変なことになってたわよ!私だったら、恥ずかしくて生きていけないわ!」 次から次へと浴びせられる言葉は冷たいナイフみたいで、私のちっぽけなプライドに突き刺さった。 彼女たちだって誰かの妻で、母親で、それぞれ大変な思いをしているはずなのに。 それなのに今は、我先にと正義の味方みたいな顔をして、日頃のうっぷんを全部私にぶつけてきているのだろう。 私はなんとか体を起こして、弁解しようとした。 「浮気なんかしてない!さっきのは……」 でも、誠に大声で遮られて、最後まで言わせてもらえなかった。 「さっきのは何だって?まだ言い訳をでっちあげるつもり?」 その言葉に誘われるように野次馬はどんどん増えていって、マンションの上階の住人までベランダから身を乗り出して見てきた。 私は悲しくてたまらなくなって、小声でお願いした。 「ねえ、お願いだから家に入って話さない?みんなに笑いものにされたくない……」 私が弱気になったのを見て、慎吾はかえって威張るように言った。 「家だと?冗談じゃない!お前がどんなに恥知らずか、みんなに知ってもらうんだ! もうこの家には入れさせない。どうせ離婚したいんだろ?ちょうどいい。俺はもうお前みたいな恥知らずな妻はいらない!」 そう言い捨てると、慎吾は美咲と誠を連れて、さっさと家に入ってしまった。 私は足の激しい痛みをこらえながら、びっこを引いて玄関まで追いかけた。 でも、ドアは「バン」という音を立てて、私の目の前で固く閉ざされた。 無駄だとわかっていながらも玄関のドアを叩いたけど、中から返事はなかった。 外はいつの間にか小雨が降り始めていた。廊下を吹き抜ける風が、骨の髄までしみるように冷たい。 結局、私は雨に濡れながら近くのボロい宿を探して、そこに泊まるしかなかった。 まず、熱いシャワーで惨めな自分を洗い流した。それから、ネットで手当ての方法を調べて、消毒液とガーゼで擦りむいた手のひらとひざを丁寧に巻いた。 全部やり終えたあと、私は疲れ果ててベッドに倒れ込んだ。 スマホを手に取ると、いわゆる「家族グループ」から、私はとっくに追い出されていた。 でも、SNSのタイムラインには、慎吾が投稿したばかりの写真が流れてきた。 私がいつもきれいに掃除していた家で、慎吾と、美咲、誠、そして植田彩花(うえだ あやか)という女が、テーブルを囲んでにこやかに笑っていた。 添えられた言葉は、【やっと家族が揃って一家団欒できた】というものだった。 写真の中の幸せそうな「一家団欒」は、私がさっき味わった屈辱や惨めさとは、まるで別世界の出来事のようだった。 私はスマホの電源を切り、ぐっすりと眠った。 次の日、銀行に行って当せん金を受け取り、その一部を寄付した。 そしてロビーを出たとき、不意に、聞き慣れた声がいくつも耳に入ってきた。 慎吾だ。 「やっぱり俺たちはついてるな!何気なく買っただけで、20万円も当たったんだから! そうだ、美咲。このことはお母さんには言うなよ。この金は、俺たち家族4人の連休の旅行資金にするんだからな」 すると、誠はうらやましそうな声で言った。 「この市で、10億円の一等が当たった人もいるらしいじゃないか! もし俺たちが当たってたらなあ。家のローンや車のローンどころか、でっかい別荘に引っ越して、世界一周旅行だって余裕なのに!」 慎吾もそれに相槌を打った。 「まったくだ。どこの誰だか知らないが、とんでもなく運がいいやつもいるもんだ。一度会って、幸運をあやかりたいもんだよ」 慎吾がそう言った時、顔を上げた美咲は、ちょうど階段の下に立っていた私に気づいた。 彼女は思わず足を止め、口を開いた。 「お母さん?どうしてこんなところに?」