妻に18回も入籍をすっぽかされた俺

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妻に18回も入籍をすっぽかされた俺

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結婚式挙げてから3年。パイロットの妻・小林遥(こばやし はるか)は、俺・高梨蓮也(たかなし れんや)との入籍を18回もキャンセルした。 最初...

Chương (1)

第1章

結婚式挙げてから3年。パイロットの妻・小林遥(こばやし はるか)は、俺・高梨蓮也(たかなし れんや)との入籍を18回もキャンセルした。 最初は、彼女の男性の後輩・九条恭弥(くじょう きょうや)のテスト飛行があると言われ、俺は役所の前で一日中待たされた。 二度目は、道中でその後輩から電話が入り、彼女は慌てて引き返し、俺を路上に置き去りにした。 それ以降、入籍の約束をするたびに、必ず彼女の後輩にトラブルが起こった。 そして、俺はついに彼女のもとを離れる決意をする。 だが、パリ行きの飛行機に乗り込んだ俺を、彼女は狂ったように追いかけてきた―― 第1話 結婚式挙げてから三年間、パイロットの妻・小林遥(こばやし はるか)は一度も俺・高梨蓮也(たかなし れんや)と入籍してくれなかった。 今日は、遥が千回目のフライトを無事に終えた記念すべき日だ。 そして、俺と入籍すると十七回目の約束をした日でもある。 しかし、祝賀パーティーで、俺が彼女の直属の上司に酒を注がれている時、彼女は男のパイロットの後輩・九条恭弥(くじょう きょうや)と互いに料理を取り分け、酒を酌み交わしていた。 俺が高熱を我慢して意識を失いかけるほど飲んでいるのに、彼女は全く俺を見ようともしなかった。 会社の多くの同僚はため息をつき、舌打ちをし、俺を見る目に同情の色を浮かべていた。 誰の目にも明らかだった。俺が体調の悪さを我慢して酒を飲み続けていたのは、誰のためだったのか。 しかし、祝賀パーティーが終わった後、本来なら俺と役所に入籍しに行くはずの遥は、またしても約束を破った。 彼女はレストランの入り口に車を止め、片手で車に乗ろうとする俺を制止した。 「恭弥が私の代わりに飲みすぎてしまったから、彼を送って帰るわ。あなたはタクシーで帰ってちょうだい。 午後の入籍は間に合わないかもしれないから、また今度ね」 そう言うと、彼女は俺の反応を全く気にせず、急いで車を降り、慎重に恭弥を助手席に座らせた。 恋人になって八年、結婚式から三年。これは、遥が恭弥のせいで入籍を延期した十七回目の出来事だった。 往々にして、こんな時の俺は、取り乱して声を荒げ、彼女に詰め寄っていたはずだ。いったい誰が彼女の夫なのか。さっき、誰が彼女の代わりに酒を飲んだのか。 だが今回は違った。ただ、微笑んで言った。「……ああ、気をつけて」 遥はそれを聞いて一瞬驚いたようだった。今日の俺の落ち着いた態度に戸惑いを見せたが、すぐに冷たい表情に戻り、こう言った。「夜に帰る時、お土産を買って埋め合わせするわ」 そう言うと彼女はすぐに車を発進させた。出発前、わざわざその後輩のために窓を閉めた。酔っ払った彼が風に当たらないように気を遣ったのだろう。 以前の彼女なら、車に酒の匂いが残るなんて絶対に許さなかった。 俺が代わりに酒を飲んだ日には、真冬でも幌を開けたままだった。窓を閉めるなんてありえなかった。 今になって思う。きっとあの気遣いは、ただ車に乗っていたのが俺だったからに過ぎない。 夕凪市の昼は、汗が滲むほど暑かった。それでも、俺の心の奥は妙に冷えていた。 深く息を吸い込み、戸籍謄本をバッグに戻す。 わかっていた。この八年間で積み上げてきた想いも、ここで手放すべきなのだと。 第2話 午後、俺は会社に直行し、上司に退職願を差し出した。 「お前が辞めること、奥さんは知っているのか?」 上司は目を丸くした。無理もない。俺はこの航空会社で七年連続、トップクルーの評価を受けてきた。ここに残れば、将来は約束されたようなものだったからだ。 俺は苦笑いを浮かべた。「今夜彼女に話すつもりです。でも、多分彼女は気にしないでしょう」 「ああ、この数年、お前たち二人は一緒に新しい路線を飛び、一緒に会社のベストクルーを取ってきた。三年前の結婚式には、社長まで顔を出したじゃないか。みんなお前たちを羨ましがってたのに……」 上司はそう言って、深いため息をついた。その顔には、惜しむような色が浮かんでいた。 ああ、確かにあの頃はいい思い出だった。 けれど、思い出はあくまで思い出だ。もう戻ることはない。 退職届を出して家に帰ると、すでに夜の十時を回っていた。 家の中は、ひどく静かで、誰の気配もなかった。 その時、スマホの画面に通知が弾むように現れた。恭弥のSNS投稿だ。わざわざ俺をメンションしてきたらしい。 「美女先輩、今日は一日中そばにいてくれてありがとうございました。 お礼に、明日は美女先輩を、チケットが取れないことで有名なライブに連れていきます〜!楽しみ」 昼に「家に帰る」と言っていた遥が、戻らないことはわかっていた。 こんなことは、結婚式を挙げてからの三年間で何度も繰り返されてきた。 俺はカップ麺を作りながら、ゆっくりとメールボックスを開いた。 画面には、十数カ国の航空会社からのオファーが並んでいた。マウスカーソルは迷うことなく、フランス航空の招待状の上で止まる。そのまま承諾をクリックし、二日後にパリへ向かう便のチケットを予約した。 五年前、遥はパリ行きのフライトで、キャリア最大の事故に遭った。それ以来、「パリ」という言葉は、彼女にとって禁句になった。 彼女自身が二度とその空を飛ばなかっただけでなく、俺もまた、一度も飛ぶことはなかった。 遥、もし俺がパリへ行くなら、もう二度とお前に会うことはないだろう。 第3話 翌日の午前、目を覚ますと、俺は荷物をまとめ始めた。 半分ほど片付けたところで、遥が疲れた顔で帰ってきた。 その瞬間、部屋の中に濃いオーデコロンの香りが漂った。 思わず息を止める。 遥は肌が繊細で敏感で、多くの化粧品にアレルギーがあり、香水の匂いが大嫌いだった。 そのせいで、彼女と暮らしたこの数年間、俺はシャンプーひとつ使うのにも気を遣っていた。スキンケアなんて、当然一度もしたことがない。 今になって思えば、彼女は化粧品が嫌いだったんじゃない。俺が使うのが、嫌だっただけなんだろう。 帰宅した彼女は、荷物をまとめている俺を見て、少し驚いたように言った。「昨夜はね、恭弥の酔いがなかなか醒めなくて……仕方なく一人でホテルに部屋を取って泊まったの」 俺は顔を上げて彼女を見た。少し意外だった。 結婚して三年、彼女のほうから弁明するなんて、これが初めてだった。 俺は軽く頷き、それ以上は何も言わなかった。 遥はゆっくりと俺の前に歩み寄り、目を伏せたまま聞いてきた。「荷物をまとめてるのは……仕事でどこか行くの?」 俺は頷いた。「まあ、そんなところだ」 俺の言葉を聞いた彼女は、なぜかほっとしたように息をつき、続けた。「今日はちょっと用事があって、物を取りに帰っただけ。お昼は食べないわ」 「ああ」 俺は顔を上げず、荷物の整理を続けた。 本当は、昼食のときに彼女に退職したことを伝え、八年続いたこの関係に、きちんと終止符を打つつもりだった。だが、もうその機会はなさそうだ。 そう言って、遥は赤い袋を手に取り、玄関に掛けてあったコートをつかむと、足早に出ていった。 パタン! ドアの枠に八年間掛けてあった写真立てが、彼女が出ていった直後、突然床に落ちた。 ガラスの破片が散らばった。 視線を向けると、それは俺と遥が初めてライブに行った時の写真だった。写真の中の俺たちは手を合わせ、満面の笑みを浮かべている。 あの日、彼女は言った。どんなに忙しくても、これから毎年一緒にコンサートへ行こう――と。 だが、恭弥が彼女の後輩になってから、その約束も、きっと彼女の記憶から消えてしまったのだろう。 静まり返った部屋に、時計の針の音だけが響く。 俺はしばらくその場に立ち尽くし、やがて床に散ったガラスの破片を拾い集めた。そして、幸福に満ちたあの一枚を、残った未練ごと、静かにゴミ箱に投げ入れた。 第4話 夕方、すべてを片付け終えた俺は、疲れ切ってベッドに横たわった。その時、親友から電話がかかってきた。 「遥はどういうつもりなんだ。いくらなんでも酷すぎるだろう。お前のSNS見てみろ、あの恭弥って男とベタベタしやがって。 お前ら、まだ離婚してないんだろ?そんなの許されるのかよ!」 親友の愚痴を聞きながら、俺はスマホを手に取った。 画面の一番上に表示されたのは、恭弥が投稿したばかりの写真だった。 彼の手首にはパテック・フィリップの腕時計。その手には、昼に遥が家に取りに帰ったあの赤い袋が握られていた。 その瞬間、ようやく理解した。 ――昼に帰ってきたのは、恭弥へのライブのお返しを取りに来ただけだったのだ。 写真の下には、こんなコメントが添えられていた。「出会って三年。あなたがいてくれて本当に良かったです。遥さん、これからもよろしくお願いします!」 その時、俺はぼんやりと思い出した。 三周年……? その言葉を見て、ふと思い出した。そうか。今日は俺と遥の結婚三周年の記念日でもあるじゃないか? もっとも、記念日を祝ったことなど一度もなかった。気づけば俺自身、そんな日があったことさえ忘れていた。 深く息を吐き、親友に答えた。「彼女は離婚する必要なんてないよ。だって、俺たちはまだ入籍してないんだから」 「えっ? 結婚して三年なんだろ?遥、まだお前と入籍してないのか?」 電話の向こうで、親友の驚き混じりの声が耳に響く。 そうだ。式を挙げて三年。けれど彼女は、俺との入籍を一方的に十七回も取り消してきたんだ。 第5話 夜の11時、遥は珍しく家に帰ってきた。 玄関に入ってコートを脱ぎ、ドアの後ろにかけようとした時、いつも俺たちの写真が飾ってあった場所ががらんとしていることに気づき、突然ハッとして立ち止まった。 「ドアの後ろの写真はどうしたの?」 彼女はコートも置かずに、少し慌てた様子で寝室にいる俺に尋ねた。 「落ちて割れた」 それを聞くと、彼女はドアのそばのゴミ箱の中にあるガラスの破片を見て、安心したような表情を浮かべ、コートを脇に置き、グッチのベルトが入った袋を取り出した。 「昨日プレゼントするって言ってたけど間に合わなかったから、今日はちょうど結婚三周年だし、このベルトをプレゼントするわ。結婚記念日、おめでとう」 彼女はベルトをベッドの上に置いた。俺は一瞬、自分の耳を疑った。 結婚して三年、彼女が俺たちの結婚記念日を覚えていたなんて。 だが、レシートに記された購入時刻が三十分前だったのを見て、すぐに察した。おそらく恭弥の「三周年記念」の投稿を見て思い出し、ついでに買ってきたのだろう。 けれど、彼女は知らない。このブランドのベルトは、俺のクローゼットにすでに二本ある。 俺は何も言わず、ただ静かに彼女を見つめた。 「そうそう、もうすぐ年末だけど……今年の社内表彰、あなたは辞退してくれないかしら?恭弥は入社して三年になるけど、あなたみたいにベストクルーに選ばれるのが夢なの。あなたは何年も連続で受賞してるでしょ?今年くらい、譲ってあげられない?」 そう言う彼女の声には、どこか言いにくそうな迷いが混じっていた。 俺は心の中で、かすかに笑った。やっぱり、このついでに買ってきたプレゼントにも、すでに裏で値段がつけられていたんだな。 「いいよ」 俺は冷静に頷いた。 今年だけじゃない。来年も、再来年も、これからの社内表彰は、俺は彼と争うつもりはない。なぜなら、今夜が終われば、明日にはもうここを去るからだ。 「……え、いいの?」 あまりにもあっさりと承諾した俺に、彼女は意外そうな顔をした。その後もしばらく、何度も横目で俺の様子を伺っていた。 そして、また自分から口を開いた。 「恭弥は私の後輩だから、面倒を見るのは当然なのよ。それに、あなたも彼にとっては半分、先輩みたいな存在でしょ?そうあるべきだと思うわ。 そうそう、明日はフライトがないから、午前中に役所に行って、入籍を済ませましょう」 俺は何も言わなかった。 彼女は、今日俺が荷物を整理していたことを思い出したのだろう。一瞬だけ目を伏せ、それから優しく尋ねてきた。「そういえば、明日またフライトでしょ? 何時の便だったかしら?」 「午後三時」 俺は彼女を見つめ、この夜のうちに――最後の機会として、明日ここを離れることを伝えようとした。だが、その言葉が喉まで出かかった瞬間、彼女のスマホがまた鳴り響いた。 画面には「恭弥」の名前。通話の向こうから、弱々しい声が聞こえてくる。足首を捻って動けないらしく、遥に助けを求めているようだった。 電話を切った彼女は、どこか申し訳なさそうに俺を見た。「……あの、恭弥が少しケガをしたみたいで、一人じゃどうにもならないの。ちょっと行ってくるわ」 そう言う時、彼女は珍しく頼み込むような口調だった。 俺は言いかけた言葉を飲み込み、笑顔を作って頷いた。「大丈夫だよ。行ってきな」 俺の言葉を聞くと、彼女はホッとしたようだった。 彼女はすぐに立ち上がり、出発する前に改めて言った。「午後三時なら、十分間に合うわ。明日の午前十時に、役所に行きましょう。安心して。今回は何があっても、必ず間に合わせるから」 俺は思わず苦笑した。彼女は最後まで、俺に直接別れを告げる機会を与えてくれなかった。 翌日の午前。 俺は荷物をまとめ、役所には行かず、空港へ向かった。 そして昼になっても、遥からなぜ役所に来ないのかという電話はなかった。 午後に搭乗しようとした時、ようやく遥からメッセージが届いた。「ごめんね。恭弥の具合が悪くて、さっき病院に連れて行ったばかりなの。今日の入籍は間に合わなかったわ。今回のフライトから帰ってきたら、すぐに役所に付き合うから」 そのメッセージを見ても、俺の心はもう何も感じなかった。 やはり、十八回目の入籍も、彼女は来なかったのだ。 「もういいよ、遥。俺はもう会社を辞めた。すぐにパリへ向かう。今日を過ぎたら、もう二度と会うことはないだろう」 俺は彼女に最後のメッセージを送り、スマホの電源を落とそうとした。 だが、その瞬間、沈黙していたチャット画面が突然震え出した。