Đang tải thông tin quảng bá...
盲目的な恋は二度としない
子どもの頃の私を守って失明した恋人長谷川陽斗(はせがわ はると)のために、私は自分の角膜を提供した。 彼は「一生、お前の目になる」と誓...
Chương (1)
第1章
子どもの頃の私を守って失明した恋人長谷川陽斗(はせがわ はると)のために、私は自分の角膜を提供した。
彼は「一生、お前の目になる」と誓い、私にプロポーズしてくれた。私はその言葉を信じ、幸せな結婚式を夢見ていた。
しかし、式の直前、彼のSNSには【結婚相手は本命の白石依衣(しらいし いより)】という投稿と、ふたりのツーショット写真が上がっていた。
私は式を中止し、彼をブロックして海外へ発とうと決めた。
だが空港で、かつて幼い私たちを助けてくれた久遠澪真(くおん れいま)と再会する。彼こそが、私の政略結婚の相手だった。
その後もしつこく私に縋る陽斗に、私は冷静に告げる――私が愛したのは、昔の彼であって、今の彼ではない。今の彼は、もう私の愛を受け取る資格などないのだから。
第1話
十八歳のとき、私は二十年も目が見えなかった長谷川陽斗(はせがわ はると)に、自分の角膜を提供した。
彼は深く感動し、自分から私に「結婚してほしい」と言ってくれた。
「綾香、俺、一生お前の目になる」
けれど、結婚式の前夜、彼のSNSに投稿が上がった。
【目の見えない女に絡まれてる。生活の世話するだけで手一杯だ】
【身の程をわきまえないって、まさにああいう女のことだよ。最初から承諾しなきゃよかったな】
コメント欄みんな彼を心配してた。
【ひどすぎる。そんな女にまとわりつかれるなんて可哀想】
【本気で結婚するの?】
陽斗はすぐに返した。
【するわけないだろ。本当に俺が迎えるのは『本命』の方だ。どうせあの子、見えやしないんだから】
投稿に添えられた写真には、純白のウェディングドレスに身を包んだ女性が、彼の腕に寄り添っていた。
その場で、私はただ滑稽なアヒルのように立ち尽くしていた。
私は視力回復の診断書を握りしめ、黙っていた。
そして、母に電話をかけた。海外での縁談を受けると伝えた。
――長谷川陽斗。他の人を幸せにしてあげて。
私たちはもう、二度と会わない。
・・・・・・
「篠原綾香(しのはら あやか)、俺、一生お前を守る。絶対に裏切らないから」
陽斗はそう言いながら、目の前の白石依衣(しらいし いより)に微笑んでいた。
まわりの男たちは肘でつつき合い、嘲り笑いを含んだ声を漏らす。
「演技、完璧だな。指輪交換のとき笑わないようにな」
「最初、彼女から角膜を騙し取って簡単に手に入れようって言ってたけど、ちゃんと引っかかるか心配してたんだぜ。まさか本当に角膜を捧げて、しかも嫁に来るとか、まるで渡りに船のカモだな!」
私はその場で固まった。
涙が止まらず、瞳から溢れ出した。スマホの画面と目の前の風景すべてが、この結婚式がただの騙しだと私に物語っている。
三か月前、私は角膜移植を受けて視力を取り戻していた。
結婚式で彼にそれを伝えて驚かせようと思っていた。
「これからは、一緒にこの世界を見よう、もう陽斗の重荷なんかじゃない」と言うつもりだったのに。
だが、彼がくれた「サプライズ」はさらに大きく、私は会場で一番滑稽な道化者になってしまった。
駆け寄って問い詰めたいのに、足がまったく動かなかった。
目の前で得意げに笑う陽斗の顔が、鋭い刃のように私の胸に突き刺さり、息ができないほど痛かった。
「いい加減にしろよ。綾香は目が見えないだけだ、耳は聞こえるんだぞ。
バレたら面倒だからな。恩を受けてる身だし、一応な」
周囲は笑いをこらえて手で口を覆った。
ただ一人、依衣だけが瞳に涙をためている。「陽斗と結婚できても、あなたの心は私のものにならないのね……」
その言葉に、陽斗は彼女を抱き寄せ、私の知らない優しい声で囁いた。
「馬鹿言うなよ。俺の心は、最初から依衣だけのものだよ」
依衣の涙が堰を切ったように落ち、彼は一瞬慌ててしまった。
彼の親友が近づき、肘で陽斗を軽く突いた。
「簡単だよ。初夜は代役を立てればいい。どうせ綾香には見えないんだから」
陽斗は眉をしかめ、一瞬、迷いの色が浮かんだ。
依衣の肩が震える。「無理しなくていいよ、陽斗。私、大丈夫だから……」
陽斗は彼女のその様子を見ると、決意して頷いた。「わかった。そうしよう」
依衣はようやく泣き声を止め、陽斗の胸に寄りかかりながら、うなずいた。
私は診断書をぎゅっと握りしめた。爪がもうすぐ掌に食い込みそうだった。
そのとき依衣が軽やかに声を上げる。
陽斗の手を離すと、得意げな表情で私の方へ歩いてきた。「綾香さん、いつ来てたの?私、さっきリハーサルしてたの。怒ってないよね?」
陽斗は彼女の手を握り、にこやかに言った。「見えないんだから、手伝ってくれたことに感謝しないとな」
依衣は恥ずかしげに拳で彼の肩を叩き、周囲もそれを微笑ましく見守る。
私は乾いた笑いを漏らす。
思えば、今年のあらゆる催しで、こんな光景が何度もあった――会場のざわめきが急に止まったとき、私は不安で陽斗の手を掴もうとした。けれど彼は黙ったまま、しばらくしてかすれた声で「大丈夫」とだけ言った。
あと、家で、私のものとは違うハイヒールを見つけたとき、それから私の香水ではない匂いを感じたとき、彼はいつも笑って言った。「見えないんだから、勘ぐるなよ」
――私は、見えないことでずっと彼に弄ばれていたのだ。
命を懸けて愛した男は、私の角膜を騙し取っただけでなく、このいわゆる結婚式さえも、彼の「本命」を喜ばせるための道具だった。
私はさっと背を向け、陽斗にメッセージを送った。
【結婚式、中止にする。私たち別れよう】
第2話
すぐにスマホが鳴り、通話ボタンを押すと、陽斗の怒鳴り声が響いた。
「綾香!また何を勝手にしてるんだ!
結婚式を中止?別れるって?お前、自分が何言ってるかわかってるのか!」
電話の向こうで、彼の仲間たちの声も混じった。
「篠原さん、さすがにやりすぎだろ?陽斗はあんなに優しくしてくれてんのに!」
「お前みたいにまともに歩けない女、誰がもらってくれると思ってんだ?陽斗だからこそだろ!他の人ならもう放り出してるよ!」
「結婚式取りやめ?ふざけんなよ、陽斗の面子どうしてくれんだ。今すぐ戻って謝れ!」
私はくしゃくしゃに折れた視力回復の診断書を見つめ、感情のない声で言った。
「――本当に、勝手なのはどっち?」
そして通話を切り、そのまま陽斗の番号をブロックした。
私は陽斗との新居には戻らず、昔暮らしていたアパートへ向かった。
ウェディングドレスを脱ごうとしたそのとき、母からメッセージが届いた。
【綾香、そんなに陽斗くんを愛してたのに……本当にいいの?】
角膜を提供するために、私は家族と決裂した。父は激怒し、結婚式への出席も拒んだ。
母はひそかに私を気遣うしかなかった。母が一番よく知っている、私がどれほど陽斗を愛しているかを。
鏡に映る自分を見つめながら、息を吐いた。
――どうして、人はこんなにも変わってしまうのだろう。
子供のころ、両親は仕事で海外に暮らし、私はいつもひとりだった。
学校で、よくいじめられていた。
教科書を破かれ、水筒に唾を吐かれ、最悪のときは路地裏に追い込まれ、服を引き裂かれ、犬の真似をさせられた。
涙を流したのに、彼らは私のみっともない姿を撮影していた。
そのとき、陽斗が現れた。
彼は少し背が高いだけの、細い少年だった。
目は見えなかったが、まっすぐ立って私の前に腕を広げた。
「彼女をいじめるな!」
同級生たちは笑い飛ばした。「盲目のくせにヒーロー気取りかよ!」
彼らは陽斗を地面に押し倒し、何度も殴った。三本の肋骨が折れた。
それでも彼は泣かずに言い続けた。「綾香、怖くない。僕がいる」
それ以来、彼は毎日遠回りして私と一緒に登校した。
私は暗闇が怖いと知ったら、家からナイトライトを盗み出して鞄に入れ、帰り道で点けてくれた。
――その頃、私は心の中でそう決めていた。陽斗は唯一信じられる「光」だった。
彼が一生暗闇で生きるのを見たくなかった。
だから、自分の角膜を差し出した。
手術後、陽斗は泣きながら私の手を握った。
「綾香、これからは俺が、お前の目になる。
一生大事にする。もう絶対にお前を傷つけない」
八歳の陽斗は、ポケットの中の最後の飴をくれた。
十八歳の陽斗は、目が見えなくても必死に私を守った。
けれど二十七歳の陽斗は、私を「足手まとい」と呼んだ。
――あの約束を覚えていたのは、私だけだった。
彼は私に十年以上も寄り添ってくれ、私は自分の角膜を彼に捧げた。
もう、互いに借りはないよね。
【考えは変わらない】
メッセージを送ってから十分も経たないうちに、母は明日の航空券を手配してくれた。
荷物をまとめようとした瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
扉を開けると、息を切らした陽斗が立っていた。
タキシードの胸ポケットにはまだブートニア。目の縁は赤く腫れ、肩で大きく息をしている。
私を見た瞬間、彼の瞳にふと期待の光が宿った。
「綾香、もう怒るなよ。今日は俺たちの結婚式だぞ。
まさか、もう俺と結婚したくないのか?みんな待ってる。話はあとでゆっくりすればいいだろ?」
そう言いながら、彼は私の手に触れようとした。
私は目を伏せたが、彼の薬指にある結婚指輪が、私のものとは違うデザインだと目に入った。
私は嘲るように笑い、一歩下がった。陽斗の手が宙に止まったまま固まる。
「何なんだよ、今日一日でどうした?
ドレスを替えたときには、涙で目が潤んでいたじゃない?急に態度変えるなよ。
俺が甘やかしすぎたか?結婚式まで茶番にする気か?」
そんな言葉に、胸が苦しくなった。
――私は夢を見ていた。幼いころから共に歩いた十数年。彼を信じて、愛して、何もかも捧げた。彼もまた、私の一生の支えとなるだろう。
今になってやっとわかった。そのすべてが、私の幻想だった。
彼にとって私は、ただの「足手まとい」だった。真実の愛に辿りつくための、邪魔な存在。
私は息を整え、淡々と言った。「私は本気よ。結婚式は中止。終わりにしたいの」
陽斗の瞳が暗く染まり、怒りが閃いた。
「綾香、いい加減に――」
ちょうどその時、彼のスマホが鳴った。
「陽斗!早く戻ってきてください!依衣さんが――自殺未遂です!」
第3話
陽斗が電話を取った瞬間、手がびくりと震え、スマホを落としかけた。
さっきまで私に向けていた怒りは、一瞬で焦りに変わる。「何があった!?ちゃんと見張ってろって言っただろ!すぐ戻る」
電話を切るやいなや、私の方など一瞥もくれず、踵を返して駆け出す。
すれ違いざま、ようやく思い出したように立ち止まり、苛立ちを隠そうともせずに言い放った。
「綾香、俺がいない間にまた勝手なことするな!依衣を落ち着かせたら、式をぶち壊した件、きっちり話をつけるからな」
私はその場で、彼の背中を見送った。震える彼の手が目に焼きつく。
――彼はその手で、幼いころ、狭い路地で私の手をしっかりと握りしめ、私を庇ってくれた。視力を取り戻したあの日、私の髪を撫でて「これからは俺が守る」と誓ってくれた。
けれど今は、別の女が「自殺の茶番」と聞いただけで、私にかける言葉すら惜しむ。
私は勢いよくドアを閉めた。
一睡もできないと思っていたのに、驚くほどぐっすりと眠れた。
そのまま翌日の午後まで眠り続けた。
荷物をまとめて空港へ向かうと、そこに陽斗の姿があった。
人だかりの中心で、みんなが依衣を囲み、まるで姫様でも守るかのように気を遣っている。
反射的に背を向けようとした私に、陽斗の声が飛んだ。
「綾香!別れるだの何だの言って、今度は何のつもりだ!?
昨日、依衣はお前が式をキャンセルしたせいで責任を感じて、飛び降りようとしたんだぞ!
どうせ式は台無しだ。俺は依衣を連れてオーロラを見に行く。お前は国内で反省でもしてろ!
少しは良心ってもんがあるなら、依衣に謝れ。頭を冷やしたら、もう一度結婚の話をしよう」
理不尽すぎて、思わず冷笑が漏れた。
依衣が現れてからというもの、何が起きても悪いのは私だったね。
去年の冬、私は高熱で寝込んでいた時。陽斗は「薬を買ってくる」と言い残し、代わりに依衣を家に残した。
けれど彼女は、私の白杖をベランダの物入れに隠したのだ。喉が渇いて水を飲もうとした私は、足を滑らせて割れたガラスの上に倒れ込み、血まみれになった。
そこへ戻ってきた陽斗に、依衣は涙を浮かべて言った。「綾香さんが、私の顔見たくないって……それでつい、慌てちゃって……」
陽斗は私の傷口を一瞥もせず、逆に怒鳴った。
「綾香、お前って本当にわがままだな。依衣は好意でお前の面倒を見てくれているのに、何するんだ?早く謝れ」
一番滑稽だったのは、先月、陽斗が私を連れて結婚写真を撮ったことだ。
依衣はどうしてもついて行きたがった。カメラマンは私に陽斗にもう少し近づくように言った時、彼女はわざと私にぶつかり、照明器具に当たって腕を擦りむいた。
「綾香さん、ごめんなさい。邪魔したくなかったのに……ただ、ドレス姿を見たくて……」彼女は腕を抱えて泣いていた。
陽斗は私の腕をつかんでいた手をぱっと放し、私はバランスを崩して、はしごから落ちてしまった。
「綾香、嫉妬にもほどがあるだろ。
依衣は妹みたいな存在だ。手を出すとか、最低だぞ。
今すぐ謝れ。嫌なら式は中止だ」
あのときの私は、彼が依衣に騙されているだけだと信じていた。
それに、私たちはこれから結婚するのだから、こんなことを気にしてはいけないと……
でも今は分かる。
それは、愛しているかどうかの違いだった。
依衣は勝ち誇ったように微笑み、わざと甘えた口調で陽斗に言った。「そんな言い方しないでよ。綾香さんを責めても仕方ないでしょ?」
そして私の手を取るふりをして、持っていた白杖を引き抜いた。
「綾香さん、昨日は本当に申し訳なかったの。
あんな大勢の前で怒っちゃって、陽斗も立場がなかったでしょう?
やっぱりお嬢様だね、私ならそんなことできないよ」
言葉の端々に、私がわがままだと責められているのが感じられた。
私は冷ややかに笑い、彼女の手を振り払った。
「そんなに罪悪感で死にそうなら、どうしてまだ元気そうに生きてるの?
飛び降りるって言ってたのに、まさか同情でも買いたいわけ?
それと、私たち別に仲良くないから。『綾香さん』なんて馴れ馴れしく呼ばないで。気持ち悪いから」
第4話
依衣の身体がびくりと固まった。まさか私が反抗するとは、思ってもいなかったのだろう。
今まで、この女がどんなに涙を流しても、どんなに被害者ぶっても、私は一度も怒ったことがなかった。
私の誕生日に、彼女がわざと陽斗を呼び出しても、笑ってやり過ごした。
依衣の中の私はただの、気の弱いお人好し。誰にでも踏みつけられる、都合のいい女だった。
依衣の目に涙が溜まった瞬間、周りの男たちが一斉に彼女の肩を持つ。
「篠原、お前いい加減にしろよ。依衣がどんな思いで……!
人の命がかかってんだぞ!お前みたいな冷たい女、そりゃあ見えなくなって当然だ!」
私は冷ややかに視線を上げる。
口を開いたのは――昨日「新郎の代わりにベッドに入ればいい」と笑っていた男だった。
吐き気が込み上げる。
「もういい!」
陽斗が苛立ったように声を上げた。「綾香、彼らは……」
弁解するような言葉を口にしかけたところで、依衣が顔を覆って泣き出した。
「全部、私が悪いの……また綾香さんに誤解されちゃった。
みんな、放っておいて……私なんて、いない方がいいのよ……」
そう言って、わざと私の肩にぶつかり、走り去るふりをした。
陽斗は慌てて追いかけ、依衣はそのまま彼の首に腕を絡めて、倒れ込むように抱きついた。
陽斗は一瞬、私を振り返り、「ああ、彼女は見えないだろ」と思い出したように、ためらいなく依衣の腰に手を回した。そして、頬を撫でながら甘い声で言う。
「綾香は悪気なんてないんだ。見えないから、勘違いしただけだよ。泣くな、な?」
その直後、彼は私の方に向き直り、露骨に苛立った声で怒鳴った。
「綾香、謝れ!」
彼の怒号が、空港ロビーの広い空間に響き渡る。通り過ぎる人々が、興味津々にこちらを振り向いた。
私は、依衣にぶつけられて痛む肩を押さえた。
ふと、彼の誕生日のことを思い出す。私は三晩かけて、手探りでマロンケーキを焼いた。指はオーブンで火傷して水ぶくれがいくつもできたのに、言い出す勇気もなかった。
けれど依衣が家に来たとき、うっかりケーキを床に落としてしまい、クリームが辺り一面に飛び散った。
彼女はしゃがみ込んで泣き出した。「綾香さん、ごめんなさい。私はただ陽斗に渡そうとしただけなのに、手が滑っちゃったんです」
帰ってきた陽斗は、私の手の火傷を見ても心配の一言もなく、代わりに手首を掴んで怒鳴った。
「綾香!ちゃんと物を置けないのか?依衣は好意で手伝ってくれているのに、まだ彼女に辛い思いをさせやがって!早く謝れ!」
私はそのとき、火傷でいっぱいの手を握りしめ、涙がこぼれそうになった。言い訳しようと思ったけれど、彼はまったく聞く耳を持たなかった。
ただ私だけを見つめて繰り返す――「謝りなさい!さもないと今日は機嫌が悪いんだから」
結局、私は頭を下げた。だって、怒られるのが怖かったから。彼がもう、子どものころのように、私と放課後の道を一緒に歩いてくれなくなるのが怖かったから。
あの頃の私は信じていた。私が我慢していれば、いつか彼は私の優しさを思い出してくれると。
けれど今、目の前の光景を見ていると、あのときの涙も痛みも、全部ただの笑い話に思えた。
依衣は陽斗の腕の中で泣き続けながら、ちらりと私を見た。その目には、勝ち誇ったような光があった。
陽斗は彼女の背中を撫でながら、再び私に向かって怒鳴る。
「綾香、聞こえないのか?依衣がどれだけ怖かったか、わかってるのか?早く謝れ!」
「謝る?」
私は乾いた笑い声を漏らした。小さな声だったけれど、はっきりと聞こえた。「陽斗、ぶつかってきたのは彼女の方よ。
見えるようになったのに、正しいことが見えなくなったの?
あんたのような人間が、『私の目になる』なんて、よく言えたものね」
その言葉に、陽斗の表情が凍りついた。
言い返す言葉もなく、ただ口を開けたまま固まっている。
依衣の泣き声が一瞬止まり、慌てて陽斗の首にしがみついた。「陽斗、私……」
私はもう、その声を聞く気にもなれなかった。
踵を返して歩き出そうとしたとき、陽斗が腕を掴んだ。彼の口調は硬かった。
「そこは出発ゲートだ。帰るなら逆方向だ。
もういい、綾香」
彼はため息をつき、白杖を私の手に押しつけた。「北極行きはやめる。お前と帰るよ。落ち着いたら、もう一度式を挙げよう」
「……勘違いしないで」
私は手を振り払い、冷たく言い放った。
「式は中止。私は海外へ行く。それから、もう見えるの。全部」
陽斗の顔から血の気が引いた。