嘘の裏に滲む痛み

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嘘の裏に滲む痛み

GoodNovel Hoàn thành

私は、離婚歴のある男と七年間もずるずると関係を続けている。 別れては戻ることを繰り返し、いま数えれば別れは九十四回、離婚は五度に及ぶ。...

Chương (1)

第1章

私は、離婚歴のある男と七年間もずるずると関係を続けている。 別れては戻ることを繰り返し、いま数えれば別れは九十四回、離婚は五度に及ぶ。 あと一度で百回目になるはずだが――もう続ける気力はない。疲れ切ってしまった。 最初の別れは、私が彼に初めて身を委ねた夜だった。行為の途中で、彼は前妻に呼び出され、パンを買いに走っていった。 五度目の別れは、妊娠したばかりの私を高速道路に置き去りにして、妊娠中情緒が不安定な前妻を宥めに行った。 その結果、私は事故に遭い、子を失った。血相を変えて駆けつけた彼は、乱れた服装のままだった。 どれほど傷つけられても、私は彼から本当に離れることができなかった。 そして最後の離婚理由も、やはり滑稽なものだ。前妻と子どもが親子参加型のバラエティ番組に出ることになり、三人家族としての世間体を取り繕うために、彼はまた私と離婚した。 収録が終わったあと、彼は復縁を持ちかけてきた。 けれど今回は首を縦に振らない。 ――私にはもう、別の人と結婚する予定があるから。 第1話 私は、離婚歴のある男と七年間もずるずると関係を続けている。 別れては戻ることを繰り返し、いま数えれば別れは九十四回、離婚は五度に及ぶ。 あと一度で百回目になるはずだが――もう続ける気力はない。疲れ切ってしまった。 最初の別れは、私が彼に初めて身を委ねた夜だった。行為の途中で、彼は前妻に呼び出され、パンを買いに走っていった。 五度目の別れは、妊娠したばかりの私を高速道路に置き去りにして、妊娠中情緒が不安定な前妻を宥めに行った。 その結果、私は事故に遭い、子を失った。血相を変えて駆けつけた彼は、乱れた服装のままだった。 どれほど傷つけられても、私は彼から本当に離れることができなかった。 そして最後の離婚理由も、やはり滑稽なものだ。 前妻と子どもが親子参加型のバラエティ番組に出ることになり、三人家族としての世間体を取り繕うために、彼はまた私と離婚しようと決めた。 「薫(かおる)、明日離婚届を出したら、しばらくは透子(とうこ)のところに身を寄せるよ。約束する。番組が終わったら、俺たちはまた一緒になる」 私は彼を無視して、自分の荷物を黙々とまとめている。 滝沢深司(たきざわ しんじ)の瞳に焦りの色が走る。 「……聞いてるのか?」 「……うん」 私は冷ややかに相槌を打つ。 「じゃあ、何で荷物をまとめてるんだ? 薫、これが最後だ。もう二度と彼女のせいでお前を悲しませたりしない。な?」 私は手を止め、真っ直ぐに彼を見据える。 「深司、あなたは分かってるはずよ。私を何度も傷つけてきたって。――こんなに長い間、本当に私を愛したことがあるの?」 深司は声を柔らげ、両手で私の肩を撫でる。 「愛してる。七年前に初めて出会った時からずっと、俺の気持ちは変わってない。これからも変わらない。 でも、透子が子どもをひとりで育てるのは大変なんだ。助けたいだけなんだ。 彼女と離婚した時に、家族として支えていくって約束したんだ」 私は自嘲気味に笑う。この言葉を、耳にタコができるほど繰り返されてきた。答えが同じだと分かっていても、それでもまた信じようとしてしまう――そして毎回、裏切られる。 「……私、実の両親が見つかったの。しばらく一緒に暮らしてみないかって言われてる」 話を続ける気にはなれず、ただそう告げる。 深司の顔に驚きが浮かぶ。 「いつの話だ?どうして黙ってた?……どんな人なんだ?」 私は孤児だ。幼い頃に誘拐され、捨てられ、孤児院に拾われた――そう聞かされて育った。 深司と付き合い始めてから、彼も一緒に必死に親を探してくれた。けれど結局、見つからなかった。 一年前、孤児院時代の友人・村上知也(むらかみ ともや)が私の実の両親の行方を突き止めてくれた。 その時、深司はまた前妻の白川透子(しらかわ とうこ)のために私と離婚した。だから私は、とても彼に伝える気分になれなかった。 復縁した後でさえ、もう話す気は失せていた。 「……大したことじゃないわ。あなたは彼女のところへ行って。私は一人で出るから」 「大したことないって?そんなわけないだろ!」 深司は取り乱したような声で言う。 「彼らは俺にとっても義理の両親だ。たとえ生活が苦しくても、俺たちがまた一緒になったら、家を一軒買ってやればいい。俺たちの近くに住んでもらえばいいじゃないか」 胸の内で冷たく笑う。 本当なら「私の両親はこの街で一番の資産家、あなたのはした金なんて要らない」と突きつけてやりたい。 けれどもう、言葉を交わす気力さえ失せている。 私は荷物をつかみ、そのまま部屋を出る。 深司が慌てて追いかけてきて、車で送ると言い張る。 だが運転席に腰を下ろした途端、彼のスマホが鳴る。 画面にははっきりと【奥さん】の文字。 気まずそうに私をちらりと見て、深司は弁解する。 「番組の都合で、連絡先をそう登録してあるだけだ。誤解するな」 「……そう。私は自分でタクシーを呼んだから。早く出なさい、透子を待たせると困るでしょ」 思いもよらなかったのだろう、深司は目を見開く。 「お前……急にどうしてそんな……」 私は笑みを浮かべる。 「そんなに気にしなくなったってこと?七年間も気にしてきたけど、意味、あった?」 そう言い残し、私は自分で呼んだタクシーに乗り込み、振り返ることなくこの家を後にする。 ――翌朝八時半、私はきっちりと市役所の前に立っている。 三十分ほど待ってから、ようやく深司の車が到着する。 一緒に降りてきたのは、透子。 透子は申し訳なさそうに私を見つめ、口を開く。 「ごめんね、結婚歴があって子どももいる女優は、芸能界でやっていくのは本当に難しいの……この番組は、私と子どもにとって大事なチャンスなの」 第2話 「もういいでしょ、時間を無駄にしないで。中に入りましょう」 私は苛立ちを隠さず、透子の言葉を遮る。 この七年間、私は何度も透子と顔を合わせてきた。彼女は表面のように無垢で愛らしい女ではない。十年も芸能界で生き残ってきた女が、そんなに単純なはずがない。 だから私は彼女の芝居を見る気にもなれず、そのまま背を向け、中へと歩き出す。 思いもよらず、透子も後を追ってくる。 そして彼女の視線が離婚届に釘付けになっているのを見た瞬間、ようやく気づく。 ――彼女は監視役として来たのだ。 市役所に離婚届を出す前、私たちは離婚協議書を交わしてきた。 以前の離婚協議書では、深司が「俺は全てを置いて出ていく」と書き残し、それが私の唯一の安心材料になっていた。 だが今回は違う。出ていくと書かれていたのは、私の方だった。 深司は言った。もし自分の資産に動きがあれば、上場を控えた会社に影響が出ると。 私がその条件に同意の印を押したのは、彼を信じたからじゃない。ただ、もう争う気力が残っていなかっただけだ。 手続きを終えたあと、私は市役所の前でタクシーを拾う。 深司が駆け寄り、腕をつかむ。 「お前の両親の家にはどれくらい滞在するんだ?住所を教えてくれ。手土産でも持って挨拶に行きたいんだ」 「必要ないわ」 私は冷ややかに答える。 今度の私は本当に違う――そう悟ったのか、彼の手が無意識に強くなる。 「薫……俺たち、また一緒になれるんだよな?」 その時、透子が駆け寄ってきて、慌てた声を上げる。 「深司、子どもが熱を出したの!どうしよう!」 私はそっと彼の手を振り解き、二人に向かって言う。 「撮影、うまくいくといいわ」 そう告げてタクシーに乗り込み、振り返ることなく走り出す。 車が動き出した瞬間、涙はもう止められない。 手の中に残った、受理印の押された離婚届の控えを見つめながら、何度も経験してきたはずなのに、胸は針で刺されるように痛む。 ――私はあの時、彼への愛という渦に自ら飛び込み、逃げ道を一つも残さなかった。 大学時代、同室の友人が忠告してくれた。 「バツイチ男なんて、信用できるとは限らないよ。そんなに信じ切らない方がいい」 私は強く言い返した。 「深司は違うの。本当に私を愛してくれてる。 あなたはきっと言うでしょうね。こんなに優れた男の周りには女が尽きないって。でも大丈夫、覚悟はできてる。私は彼に伝えたの。男が外で気まぐれに遊ぶことくらい理解するって。心の中に私がいれば、それで許せる。 この一生、私は彼を選んだの」 ――七年の青春を捧げたはずなのに、残ったのは粉々に砕けた心だけだった。 タクシーを降りると、そのまま両親の豪邸へ足を踏み入れる。 門を押し開けた途端、母が笑顔で駆け寄り、いたずらっぽく言う。 「薫、目を閉じてみて」 私は素直に目を閉じ、母に手を引かれるまま歩いていく。 「……さあ、開けて」 目の前に現れたのは真っ赤なフェラーリ。そしてその横には、知也と父が立っている。 父が笑いながら口を開く。 「大事な娘への贈り物、本当は父さんが渡すつもりだった。けど、知也がどうしてもサプライズにしたいって言うからね。だから父さんからはこっちだ」 そう言って、背後からまるで手品のように取り出したのは――青く輝くサファイアのネックレス。 つい数日前、ニュースで【謎の人物が数億円で落札した】と報じられていたあのサファイアだ。 まさか、それが私への贈り物だったなんて。 目頭が熱くなり、目の前で笑う三人を見つめながら、胸の奥に言葉にできない痛みが広がっていく。 ――これも天の采配なのかもしれない。 愛を失った代わりに、親と友の愛情で私の心の空白を埋めてくれる。 昼食を済ませると、知也は仕事があると言って会社へ戻っていく。 母は私をソファに座らせ、声をひそめる。 「薫、知也はきっとあんたを大事にしてくれるわよ。お父さんも人柄を褒めてるし、事業も順調だって。あんたも離婚したことだし、考えてみてもいいんじゃない?」 私は思わず笑い出す。 「やだ、やめてよ。知也は女の人に興味ないんだから」 母は意味ありげに笑みを浮かべ、それ以上は何も言わない。 翌日、私は新しい車のハンドルを握りしめ、胸いっぱいに感慨を覚える。 深司と付き合い始めた頃、彼の会社はまだ立ち上げたばかりで、小さな規模にすぎなかった。 私は彼の苦労が分かるから、贅沢は望まなかった。高価な贈り物も断り、彼のお金を使うこともなかった。 大学を卒業すると同時に彼と結婚し、そのまま彼の会社に入り、客先との交渉や雑務まで全部手伝い、アシスタントとして彼を支え続けた。 彼の苦労を知れば知るほど、自分のためにお金を使う気にはなれなかった。 彼が「車を買ってやろうか」と言ったこともあったけれど、私は即座に首を振った。 第3話 やがて彼の会社が大きくなり、莫大な金を稼ぐようになっても、その後、車の話題が口にのぼることはなかった。 今になって思えば――もし本当に私を愛していたなら、私の望みをどうして無視できただろう。 今日、私は深司の会社へ退職届を出しに行く。 車を会社の駐車場に乗り入れると、ちょうど撮影クルーがセットを組んでいるところだ。 深司はきっちりと着飾り、透子とその息子の俊介(しゅんすけ)の隣に立ち、まるで本物の家族のように自然で幸せそうに笑っている。 私の車が入ってきた瞬間、周囲の視線が一斉に集まる。 誰かが驚きの声を上げる。 「深司さん、さすが御社はすごいですね。社員までこんな高級車で通勤するなんて」 注目が一点に集まる中、私は平然と車を降り、そのまま三人の前へと歩み寄る。 透子の瞳には、抑えきれない嫉妬が浮かんでいる。 深司も顔色を変え、小声で私に言う。 「なぜここに来たんだ。撮影クルーがまだいる。用件なら、彼らが帰ってからにしてくれ」 私は微笑み、大きな声で告げる。 「滝沢社長、私は退職しに参りました」 深司は一瞬言葉を失った。その隣で、透子が驚いたように声を洩らす。 「どうしてあなたも同じネックレスを?」 その言葉で初めて気づく。彼女の首にも、父から贈られた私のものと全く同じ、青いサファイアのネックレスがかかっているのだ。 すぐに周囲の誰かが口にする。 「そのネックレスって、一点物じゃなかったのか?」 「そうよ。透子さん、この前『結婚記念日に深司さんから贈られたサプライズだ』って言っていたじゃない」 私は少しも慌てない。自分の持つものが本物であることを知っていたから。 透子も自分の後ろめたさを悟ったのか、突然涙を浮かべて深司に身を寄せる。 そしてカメラに向かって泣きながら訴える。 「薫、あなたが深司のことを好きなのは知ってるわ。ずっと『自分が彼の恋人になれる』なんて妄想してきたんでしょう。でも、男に執着しすぎるのはもうやめて。 深司が私に唯一無二のネックレスを贈ってくれたことも、あなた知ってるはずよ。それなのに、わざわざ偽物を買って、まるで『彼からもらった』みたいに思い込むなんて…… こんなこと、もう一度や二度じゃないでしょ。そろそろやめてくれない?お願いだから、私たちの家庭を壊さないで」 ――まったく、彼女の芝居には感心する。 真実を知らなければ、私でさえ信じかけてしまうほどだ。 その時、誰かが車を指さして言う。 「その車だってレンタルじゃないのか?金持ちのお嬢様のふりをして、深司さんに取り入ろうとしてるんだろう」 私は怒りに震え、バッグから車検証を取り出し、彼らの目の前に突きつける。 「この車は私のものです。根拠もなく勝手なことを言わないで」 突然、甲高い声が響き渡る。 「へえ、やっぱり。お前は姉の夫を誘惑するだけじゃなく、会社の金まで盗んだのね!」 振り向くと、そこにいたのは財務部長の白石直樹(しらいし なおき)――透子の弟だ。 かつて透子が深司に「弟を会社に入れてほしい」と必死に頼み込んだのを覚えている。 私は反対した。経理は身内に任せるべきだと。 だが深司は「透子の弟なら、自分にとっても身内だ」と言い切った。 まさか、その本人がこうして私に牙を剥くとは。 そもそも、私が入社した時、深司は「家族経営だと揶揄されるのを避けたい」と、外部には私との関係を公表しなかった。 だが直樹が知らないはずはない。これは明らかな虚言だ。 私が反論する間もなく、いくつものカメラが私の顔に向けられる。 「透子さん、怖がらないで!私たちもこういう女が一番嫌いなんです。不倫女なんて、世間に晒してやりましょう!」 信じられない思いで深司に視線を向ける。 彼は困った顔をし、口を動かしかけては飲み込み、最後に絞り出した言葉はただひとつ。 「話は……あとにしよう」 私は失望のあまり首を振る。 「深司、あんたは最低の人間よ!」 背を向けて立ち去ろうとしたその時、直樹が再び叫ぶ。 「深司さん!今日確認した帳簿で、会社から一億円が消えてました!金を移したのはこの人です。署名も残ってます! その車も、きっとその金で購入されたに違いありません!」 次の瞬間、深司が私の腕を乱暴につかみ、怒声を浴びせる。 「どうしてこんなことをした?本当に……お前には失望した!」 私の心は完全に凍りつく。 涙で視界が滲む中、彼の手を振り払い、叫ぶ。 「七年間、ずっとあなたの傍で支えてきた私よりも、そんな二人の口から出る嘘を信じるのね?」