Đang tải thông tin quảng bá...
三百枚目の借用書
私は宮本奈穂(みやもと なほ)。十歳から十八歳までの八年間、両親に言われるまま、二百九十九枚もの借用書を書かされてきた。 両親からお金...
Chương (1)
第1章
私は宮本奈穂(みやもと なほ)。十歳から十八歳までの八年間、両親に言われるまま、二百九十九枚もの借用書を書かされてきた。
両親からお金をもらうたび、それは必ず借り扱いにされ、成人したら返せと約束させられる。
交通事故に遭い、治療費を支払う段になったとき、六万円足りなかった。
追い詰められた私は、仕方なく両親に頭を下げる。
けれど返ってくるのは、冷ややかな笑みだけだ。
「奈穂、あなたもう十八歳なんだよ。親としての金銭的な責任はもう終わりだ。どうしてもなら、借用書をもう一枚書きなさい」
私は涙をこらえながら、三百枚目の借用書を書きつける。
手術が終わってスマホを開くと、両親の養女である妹の宮本美緒(みやもと みお)のインスタの投稿が目に飛び込んでくる。
海外のクルーズ船で十八歳の誕生日を祝う彼女。取り巻きに囲まれて、まるで小さなお姫さまのように輝いている。
両親からの贈り物は、都心の広いマンション一室と一台のマセラティだ。
そして、私の幼なじみ――藤原涼太(ふじわら りょうた)も、彼女に向ける眼差しは愛に満ちている。
投稿にはこう綴られている。
【最愛の人たちが、私にいちばんいいものをくれた。ありがとう】
私は手の中でくしゃくしゃに握りつぶした借用書を見下ろし、不意に笑う。
すべてを返し終えたら、こんな家族なんて、もういらない。
第1話
退院して家に戻ったとき、家の中には誰一人もいない。掃除をしてくれているお手伝いさんでさえ、休みを取って、姿はない。
がらんどうの別荘には灯りは一つも点いておらず、真っ暗に沈んでいる。静けさの中、自分の足音だけがやけにはっきりと響いている。
わかっていたはずの光景なのに、抑えきれない寂しさとみじめさが込み上げてくる。
私の存在をすっかり忘れ去られるのは、初めてじゃない。
深く息を吸い込み、二階へ足を向ける。
治ったばかりの脚にはまだ力が入らず、手すりにすがって、ようやく自分の部屋へとたどり着く。
それは、この豪華な別荘の中でいちばん狭くて暗い物置部屋だ。
私の持ち物なんて、ほんのわずかしかない。
ベッドが一つ、古びた木の机が一つ。それだけ。
その机の引き出しを開けると、ぎっしりと詰まっているのは、両親に差し出してきた借用書の束だ。
一枚、二枚……今手にしている分を合わせれば、きっちり三百枚。
金額は数千円から数万円までばらばらで、私の学費や生活費のすべてがそこに記されている。
合わせても、百万円には届かない。
口の端が引きつり、浮かぶのは苦い笑みだけだ。
たった百万円だ。
美緒のごく普通のアクセサリーでさえ、これよりずっと高い。
だから両親は、いつも私を「貧乏くさい」と罵り、美緒こそが宮本家のお嬢さまだと言う。
確かに、私では比べものにならない。
借用書を一枚ずつ丁寧に揃えて服のポケットにしまい、階下へ降りようとしたそのとき、外から声が聞こえてくる。
「パパ、私、お姉ちゃんの作る魚の甘酢あんかけが食べたいな。お願いしてくれる?」
「お前のお姉ちゃんはお前みたいに素直じゃないんだ。今は気が立ってて、お前の成人式にも顔を出しもしないで、どこで遊び歩いてるのやら……帰ってきたら、パパが言って作らせてやる」
私は嘲るように笑い、なんて皮肉だろう。
私は事故に遭ったことをちゃんと伝えていた。けれど両親は信じようともしない。
むしろ、私が遊び歩いて、美緒の成人式に出たくなかっただけだと決めつけている。
きっと両親は覚えていないのだろう。私の誕生日が美緒と同じ日だということを。
あの成人式は、本来なら私の成人式でもあるはずなのに。
ドアが開き、階段に立つ私の姿を見た途端、三人の和やかな空気は一瞬でかき消える。
私は、まるで招かれもしないで踏み込んだよそ者のように、疎まれる。
両親の顔はたちまち険しくなり、美緒に向けるような甘やかしな表情など、かけらもない。
「帰ってきたのに電気もつけないで!あなた、いったい一日中何を考えてるの?」
母が苛立ちを隠さずに私を叱りつける。
父もまた、召使いでも扱うように、私に命じてくる。
「美緒が魚の甘酢あんかけを食べたいって言ってただろう。突っ立ってないで、さっさと作ってこい!」
第2話
魚の甘酢あんかけ――
私にとって、悪夢みたいな料理だ。
今でもはっきり覚えている。あれは母の四十歳の誕生日だった。
私はこっそり作り方を覚えて、母に食べてもらおうと台所に立った。
あの年、私は十二歳。
魚の甘酢あんかけを作るために、危うく指を切りそうになり、熱い油がはねて火傷もした。
それでもどうにか仕上げて運んでいくと、美緒が大好きとのひと言に、母は箸を一度もつけず、皿ごと美緒の前へ押しやった。
私は忘れない。美緒が私に向けた、あの得意げな表情を。
彼女は私の目の前で、その魚を一尾まるごと平らげ、うっかり小骨を喉に引っかけた。
両親は取り乱し、慌てて彼女を病院へ連れていった。
美緒は母に甘えるように寄り添いながら言った。
「ママ、お姉ちゃんを責めないで。美緒が欲張りだっただけだから」
そのひと言で、母は逆上し、私の頬を思いきり平手打ちした。
私を性根の悪い子だと罵り、そんなやり方で美緒を傷つけたのだと決めつけた。
それからは、美緒が魚の甘酢あんかけを食べたいと騒ぐたび、両親は人をつけて私を見張り、小骨を一本残らず抜けと命じた。
そんな下処理は、時間も手間もかかる。
両親に一言でいいから褒められたくて、ここ数年、何百回も同じことをしてきた。
けれど今は、自分がつくづく割に合わないことをしてきたと思う。
「お手伝いさんに作ってもらって。私は作りたくない」
そう言って立ち去ろうとしたとき、美緒が私の腕をつかみ、今にも泣き出しそうな顔で言う。
「お姉ちゃん、まだ怒ってるの?ごめんね。無駄遣いのことをパパとママに言っちゃったの、わざとじゃないの」
私の態度に元々苛立っていた両親は、その一言でさらに逆上した。
父は勢いよく手を振り上げ、私の頬を打ち据える。私は床に倒れ込む。
「よくも美緒に当たれるな!
考えてみろ。お前が当時、美緒の生活費を使い込まなければ、飢えに苦しんで今みたいに胃を悪くすることはなかっただろう!」
母の目にも失望の色が浮かぶ。けれど、私が実の娘であることを思い出したのか、いったんは手を伸ばして起こしてくれる。
「奈穂、あなたがこのあいだ交通事故を口実に金をせびった件――美緒がどれだけ隠して取り繕ってくれたと思ってるの?
借用書を書かせてるのも全部あなたのためよ。派手な金遣い、いいかげん直しなさい!」
私は頬を押さえる。焼けつくように痛む。
けれど、顔の痛みなんかより、胸の奥の痛みのほうがずっと激しい。
私は母の手を振りほどき、言葉を区切って告げる。
「私は嘘なんかついてない。本当に、交通事故に遭ったの」
母の眉間に皺が寄る。
救いようがないものを見るような目で、私を見下ろす。
「まだごまかすの?私立病院の佐々木(ささき)先生に確認したけど、向こうにはあなたの受診記録なんて一件もないって言われたわよ」
美緒はすかさず追い打ちをかける。
「お姉ちゃん、お金に困ってたとしても、パパとママを騙すのはだめだよ。
私、少しなら小遣いあるから、使って。だって私たち、姉妹なんだから」
母はため息をつき、いたわるように美緒の頭を撫でる。
「美緒、奈穂があなたの半分でもしっかりしてたら、私たちも安心できるのに。
でもね、あなたもこんな人のために自分を犠牲にしちゃだめ。
あの子には、少しくらい痛い目を見てもらわないとね」
私は笑った。
リビングの真ん中に立って、母娘の慈愛ぶった茶番を眺めながら、私は腹を抱えて笑った。
「奈穂、何をバカなことしてるの?」
両親は私の笑い声に怯えたように美緒を背中にかばう。
まるで、私が何かするのを恐れているみたいに。
私は笑うのをやめ、実の両親を冷ややかに見据え、ポケットから診断書を引き抜いて床に放る。
「私立病院に行くお金なんて、そもそもない。記録が見つからないの、当たり前じゃないか?」
両親はふっと動きを止め、紙を拾い上げて目を通す。二人の顔色がかすかに変わる。
「奈穂、あなたの脚……」
母が一歩踏み出し、ほんの少しだけ心配そうな色を滲ませる。
けれど、その瞬間に美緒が割って入る。
「お姉ちゃん、本当に事故に遭ったの?
大丈夫?全部、私のせいだ。私の成人式なんてなければ、パパとママもあなたのそばにいられたのに。
きっと痛かったよね!」
言葉では気遣いを並べながら、彼女の爪は私の腕に食い込む。
彼女が何を狙っているのかはわかっている。ただ、これ以上ここで道化みたいに、この家族の芝居に付き合うつもりはない。
腕を振りほどくと、美緒は大げさにのけぞり、そのままぱたりと床に崩れ落ちる。
つい先ほどまで私にわずかな罪悪感を見せていた両親の顔が、一瞬で裏返る。
「奈穂!怒りをぶつける相手が、よりによって妹なの?
ただの交通事故だろ。今こうして元気じゃないか?
さっさと美緒に謝りなさい!」
第3話
相手にする気にもなれず、私は踵を返してその場を離れようとする。
父は怒りに任せ、そばの花瓶をつかんで私の足元に叩きつける。
「この親不孝者め、親不孝者め!家出でもするつもりか!
いいだろう。この数年で書いた借用書も、もう十分だ。来週までにさっさと全部返せ!さもないと、うちの法務部に回して、お前を塀の中に送ってやる。たっぷり痛い目を見せてやる」
砕けた花瓶の破片がすねを切り、血がとめどなく流れ出す。それでも私は、痛みにほとんど気づかない。
父の言葉に、驚きは微塵もない。
私は振り返り、三人を一瞥する。
両親は、私が怖じ気づいて、すぐにでも折れると思っている。
勝ち誇った顔の二人を前にしても、私の胸の内には波ひとつ立たない。
顔をそむけ、ドアを閉める直前に、一言だけ言い残す。
「わかった」
それなら、お金を返すだけだ。
返し終えたら、このどうしようもない家とは、もう縁を切る。
別荘を出ても、背後から父の怒号がなお追いすがってくる。
私は、聞こえないことにする。
足を引きずりながら高級住宅街を抜けると、世界は思っていたよりずっと広いことに気づく。
広すぎて、家を出た私は、どこへ行けばいいのかさえわからない。
夜空にまたたく一つの星を見上げ、私は自分もあの星と同じくらい孤独だと感じる。
しゃがみ込み、膝を抱えて身を丸める。冷え切った体を、少しでも温めようとする。
昔の両親は、こんなふうじゃなかった。
二人は周囲で評判の仲の良い夫婦だ。
その一人娘だった私は、目に入れても痛くないほど可愛がられていた。
すべてが変わったのは、美緒が家に来てからだ。
彼女は両親の親友の娘だった。
交通事故で両親を失い、引き取り手になってくれる親戚もいなかった。
それで、うちが引き取った。
最初は、家に来たばかりの妹に、少し期待もしていた。
家には私しかおらず、時々寂しく感じることもあった。
それに、彼女と私の誕生日も同じ日だった。
私は、自分がいちばん気に入っていたおもちゃも、いちばんきれいなワンピースも、彼女にあげた。
まさか、いつも甘い声でお姉ちゃんと呼んでくれる美緒が、毒蛇のように容赦なく噛みついてくるなんて。
あのころ、私たちはまだ小学生だった。
両親は仕事で手いっぱいで、生活費を私に預け、姉の私に美緒の食事の面倒を見ろと言い付けた。
美緒は友だちと食べるからお金を持っていくと言い、私は深く考えずに生活費の三分の二を渡した。
ところが、両親が帰ってくると、美緒は空腹で倒れて、そのまま病院へ運ばれた。
検査では、低血糖と胃の不調が確認された。それと同時に、私の部屋からは高価なブランドのバッグが見つかった。
「ちゃんと妹の面倒を見ろと言っただろう。
奈穂、あんたまだ何歳だと思ってるの?もうブランド品なんて買うの?」
私は取り乱し、事の次第は自分にも分からないのだと必死に訴えた。
その頃の両親は、今ほど私を疑ってはいなかった。
二人は怒りをこらえ、美緒が目を覚ましたら、きちんと本人に確かめようと言った。
ところが、美緒が目を覚まして最初に言ったのは――
「おじさん、おばさん、お姉ちゃんを責めないで。私、食が細いだけなの」
彼女が涙目で絞り出したその一言で、私の罪は出来上がった。
両親は彼女を抱きしめ、これからは彼女を実の娘同然として迎え入れると告げた。
そして私は自分勝手や見栄っ張りというレッテルを貼られ、その日を境に、二人にいちばん可愛がられる子ではいられなくなった。
八年間で、三百枚の借用書。それが、私に与えられたすべてだ。
ポケットからその束をもう一度取り出し、ざっと数え直す。
百万円。
高校を出たばかりの私が、たった一週間でこのお金をどうやって工面すればいいの?
第4話
私は必死でバイトを掛け持ちし始める。
幼なじみの涼太が私を見つけたのは、ナイトクラブでドリンクを運んでいたときだ。
仕方がない。金欠だ。昼はもう時間を全部バイトに充てている。
夜は、ここがいちばん割に合って、しかも週払いだ。
時々、手を伸ばしてくる客もいるけれど、一線は守るし、誰も本気で強引には出ない。
指折り数えながら、一週間働ききってもあといくら足りないのか、頭の中で計算する。
けれど、涼太の目には、この仕事は自分を大切にしていない証拠としか映らない。
彼は友人を連れて飲みに来て、私を一目で見つけた。
そのとき私はちょうど酒瓶の載ったトレイを抱えていた。涼太が腕を乱暴に引いた拍子に、高価なお酒が滑り落ち、床に激しく叩きつけられて砕け散った。
「奈穂、拗ねて家出なんかして、美緒がどれだけ心配してるか分かってるか?
よりにもよって、こんないかがわしい店で身をやつすなんて。
おまえ、それで美緒に顔向けできるのか?」
私は彼の怒鳴りを無視して、ただ足元の惨状をぼんやりと見下ろす。
もったいない。
今夜のシフト、実入りはゼロだ。
私が反応しないのを見て、涼太はさらに怒りを募らせる。
すぐにマネージャーが慌てて駆け寄ってきて、深々と頭を下げる。
「藤原様、奈穂とはお知り合いでいらっしゃいますか?
もう、この子は元もともとそそっかしいところがあって、すぐ人の気分を損ねるんです。ほら、奈穂、早く藤原様にお詫びしなさい」
――藤原様。
なんとご立派なこと。
目の前の、やけに着飾って体裁ばかり取り繕った涼太は、どうしても、昔、私にまとわりついて、一緒に遊ぼうとせがんでいたあの小さな男の子と結びつかない。
そうだ。私だけを好きだと言い、私を一生守るとまで口にしていた彼は、とっくに美緒に恋をしてしまった。
両親がそうだったのと同じように。
ときどき思う。美緒こそがこの世界のヒロインなんだと。
そして私は、いずれ黒く塗られる宿命の悪役。
私を愛していたはずの人たちは、みんな揃って彼女を愛するようになる。まるで呪いだ。
抜け出せないし、逃げ切れない。
涼太は、私が茫然としているのにも気づかない。
私の頭の先からつま先まで値踏みするように一瞥し、汚いものでも見るように顔をしかめる。
メニューを取り上げ、強い酒を十本注文して、見下ろすよう私を見据える。
「もういい。こんな汚れの謝罪なんて一文の値打ちもない。ほら、接待が好きなんだろ?
この十本を飲み干せ。そうしたら今回は見逃してやる。ついでに二百万円やる。どうだ?」
私は黙ったまま、卓上のお酒のボトルを手に取る。
涼太が私に恥をかかせたいだけだって、分かっている。
彼は知っているのだ。両親の決まりに縛られてから、私がどうやって生きてきたかを。
手持ちがいちばんきついとき、私は一日一食で耐えた。
胃はずっと前から壊れている。昔の美緒より、ずっとひどく。
最初は私の味方のはずで、美緒の本性を暴いてやると言い、家伝の勾玉までくれた涼太は、やがてこう言った。
「少しくらい苦労しても仕方ない。だって、それはお前が美緒に負っているものだろ
付き合ってみて気づいたよ。美緒は悪い子じゃない。
奈穂、彼女はおまえの妹だ。いつまでも敵みたいに扱うな」
一本、二本と酒を流し込む。涼太は腕を組み、余裕たっぷりに私を眺めている。
まるで、私が堪えきれずに許しを請うのを待っているみたいだ。
だが三本、四本、五本――彼の顔色が変わり始める。
私は機械みたいに感情を切って八本目まで飲み続け、彼はついに堪えきれなくなる。
涼太は私の手からボトルを奪い取り、床に叩きつけて粉々にする。
おかしい。彼はひどく怒っている。
でも、なぜ彼が怒るんだろう?
こうさせたのは、ほかならぬ彼のはずなのに。
私は彼の唇が開いては閉じるのを見つめる。まるで私をなじっているみたいだ。
「奈穂、金のために命まで削るのか」と、その口がそう告げているように見えた。
次の瞬間、怒りにこわばっていたその顔に、はっとした焦りがにじむ。
「奈穂、どうした?」
視界がぐにゃりと歪み、私はそのまま崩れ落ち、意識をすべて手放した。