別れた後、仏弟子の婚約者は後悔で気が狂った

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別れた後、仏弟子の婚約者は後悔で気が狂った

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私の婚約者の真宮湊(まみや みなと)は、清廉な仏弟子だった。 付き合って二年になるけれど、彼は一度たりとも私に触れたことがない。かつて...

Chương (1)

第1章

私の婚約者の真宮湊(まみや みなと)は、清廉な仏弟子だった。 付き合って二年になるけれど、彼は一度たりとも私に触れたことがない。かつて仏の前で「戒を破らぬ」と誓ったからだと言う。 湊はさらに、妊娠するまでは籍を入れるつもりはないと、人工授精を先に受けるよう求めてきた。 ようやく妊娠がわかったとき、湊は静かに微笑んで、私に盛大な結婚式を約束してくれた。 けれど、結婚式当日、私は彼に九十九回電話をかけたが、彼はとうとう現れなかった。 代わりに届いたのは、彼の義姉香月紗良(こうづき さら)からの一通のメッセージ。 添付されていた動画に映っていたのは、ベッドの上で彼女と絡み合う湊の姿だった。あの清廉な彼の面影など、そこには微塵もなかった。 その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。 戒を破れなかったんじゃない。私が、愛される相手じゃなかっただけ。 しばらくして、湊からメッセージが届いた。 【昨日の夜、紗良が熱を出してね、放っておけなかった】 【君も知ってるだろう。兄貴はもういない。今、彼女には俺しかいないんだ】 【結婚のことは、彼女の体調が落ち着いてから、改めて考えよう】 私はスマホの画面を見つめたまま、ただ黙って涙をこぼした。 そして父に電話をかけた。 「お父さん、決めたよ。政略結婚、受けることにした」 第1話 私の婚約者の真宮湊(まみや みなと)は、清廉な仏弟子だった。 付き合って二年になるけれど、彼は一度たりとも私に触れたことがない。かつて仏の前で「戒を破らぬ」と誓ったからだと言う。 湊はさらに、妊娠するまでは籍を入れるつもりはないと、人工授精を先に受けるよう求めてきた。 ようやく妊娠がわかったとき、湊は静かに微笑んで、私に盛大な結婚式を約束してくれた。 けれど、結婚式当日、私は彼に九十九回電話をかけたが、彼はとうとう現れなかった。 代わりに届いたのは、彼の義姉香月紗良(こうづき さら)からの一通のメッセージ。 添付されていた動画に映っていたのは、ベッドの上で彼女と絡み合う湊の姿だった。あの清廉な彼の面影など、そこには微塵もなかった。 その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。 戒を破れなかったんじゃない。私が、愛される相手じゃなかっただけ。 しばらくして、湊からメッセージが届いた。 【昨日の夜、紗良が熱を出してね、放っておけなかった】 【君も知ってるだろう。兄貴はもういない。今、彼女には俺しかいないんだ】 【結婚のことは、彼女の体調が落ち着いてから、改めて考えよう】 私はスマホの画面を見つめたまま、ただ黙って涙をこぼした。 そして父に電話をかけた。 「お父さん、決めたよ。政略結婚、受けることにした」 「ほんとか!本気で考え直してくれたのか」 電話口から聞こえた父の声が急に大きくなった。抑えきれないほどの高揚が、言葉ににじんでいた。 その声を聞いた瞬間、胸がじんと熱くなった。少し、申し訳なさも込み上げてくる。 あの頃、私が湊と付き合い始めたとき、父は頑なに反対していた。 「家柄も釣り合わないし、あの男は仏門だの戒律だのと言ってる変わり者だ。お前が苦労するのが目に見えてる」と。 でも当時の私は、恋に目がくらんでいた。父の忠告なんて聞く耳も持たず、ただ湊と一緒になることしか考えていなかった。 それが今、恋に裏切られ、心も身体もぼろぼろになって、ようやく父の言葉の意味がわかった。 電話では少しだけ父と話し、私は三日後に家へ戻って政略結婚に応じると約束した。そして通話を切った、その直後だった。 湊から電話がかかってきた。 「陽菜(はるな)、なんでずっと返信してくれないんだ? 今日は本当に悪かった。ちゃんと盛大な結婚式を挙げて、償うよ」 声は相変わらず優しかった。 でも私は、紗良から送られてきた、あの動画を思い出すだけで心の中に残るのは、乾いた虚しさだけだった。 私は静かな口調で言った。 「もういい。結婚式なんて、どうでもよくなった」 その瞬間、電話越しの湊の声が冷たくなった。 「陽菜、お前……そんなことで怒ることないだろう。 ちゃんと説明したし、謝ったじゃないか。紗良が病気なんだ。俺が面倒見るしかないんだよ。 夫を失った彼女は、今じゃ俺だけが頼りなんだ。いずれ俺たちは家族になるのに、なんでそんな冷たいことが言えるんだ」 私はかすかに自嘲の笑みをこぼし、目が潤んだ。 どうして、今までこの人の芝居に気づけなかったんだろう? 堪えていた涙が目の奥にじんわり広がる。私は言った。 「どうせ結婚式もしてないし、入籍もしてない。湊、もう終わりにしよう。 私はもうあなたと結婚したくない」 その一言が、湊を逆上させた。 「陽菜、お前、自分が俺の子を身ごもってるからって、好き勝手していいと思ってるのか」 ふっと、電話口で、彼は冷ややかに鼻を鳴らした。 「どれだけ薬を飲んで、注射を打って、やっと妊娠したと思ってるんだ。そう簡単に俺の元を離れられるわけがないだろ。 いい加減、意地を張るな。とにかく戻ってこい。家で待ってる」 そう言って、一方的に電話は切られた。 私はそっと、自分の腹に手を当てた。胸の奥が、きゅっと苦しくなる。 この子を授かることが、かつての私の、いちばんの願いだった。 第2話 子どもさえいれば、湊と結婚できる。彼の本当の妻になれると、信じていた。 だけど今、すべてが変わってしまった。 私は家に戻らず、タクシーを拾い、そのまま病院へ向かった。診察室に通されると、迷いなく医師に告げた。この子を、おろしてほしいと。 手術室を出たとき、全身の力が抜けて、足元さえおぼつかなかった。 平らになったお腹にそっと手を添えると、こらえていた涙が静かに頬を伝った。 私はどうにか体を引きずるようにして、かつて湊と一緒に暮らしていた家へ向かった。 大切な物と書類を取りに行くためだ。 玄関の扉を開けた瞬間、目に飛び込んできた光景に、胸がえぐられるような痛みが走った。 紗良がミニスカート姿でソファに座り、その足を湊の膝に無造作に投げ出していた。 湊はと言えば、仏門の戒律を口にし、三年間は女に触れないとまで言っていたその口で、彼女の脚に手を添え、優しくマッサージをしている。 二人はまるで、新婚の夫婦のように笑い合っていた。 私と付き合っていた頃、湊は一度も同じベッドに寝てくれなかった。「戒律だから」と、いつもそう言っていた。その言葉を、私は一途に信じていたのに。 もう、愛されているかどうかなんて、はっきりしていた。 私の存在に気づいた湊は、余裕の笑みを浮かべた。まるで、私がどうせ戻ってくると確信していたかのような表情で。 紗良は芝居がかった声で口を開いた。 「陽菜、昨日のことは本当にごめんなさい。大事な日だったのに、私のせいで湊を引き留めてしまって…… でもね、病気がしんどすぎて……あなたも怒ってないよね」 私は無言のまま彼女を通り過ぎた。あの芝居を相手にする余裕なんて、もう残っていない。それよりも、術後の身体がきつくて、早く必要なものだけ持って出たかった。 湊のそばを通りかかったその瞬間、不意に腕を掴まれた。 彼は眉間に深いしわを寄せ、陰鬱な表情で言った。 「お前さ、ほんとに礼儀ってもんがないのか?義姉が話しかけてるんだぞ。なんで挨拶のひとつもできないんだ」 私は腕を力いっぱい引き抜き、口元に嘲るような笑みを浮かべた。 「湊、私たち結婚もしてないし、籍も入れてない。彼女が義姉だなんて、どこから出た話」 言い終えるか終えないかのうちに、部屋の空気がぴたりと凍りついた。 湊は一瞬だけ呆けたような顔を見せた。まさか私が反論するなんて、思ってもいなかったのだろう。 紗良はすぐに目元を潤ませ、しゃくり上げるような声を漏らした。 「いいの、湊。陽菜がまだ私に怒ってるって、わかってる。昨日はあんな大事な日だったのに、私が呼び出しちゃって、陽菜は、きっと一生、私のことなんて許してくれないだろう」 そう言ったかと思うと、ふらりと力なくその場に崩れ落ちた。 湊は慌てて彼女の身体を抱きとめ、まるで宝物を扱うかのようにソファへと運んだ。その瞳には、紛れもない優しさと気遣いがにじんでいた。 そして私を振り返ったそのときには、怒りが剥き出しになっていた。 「陽菜、お前、妊娠してるからって、紗良をいじめていいとでも思ってるのか? 彼女、まだ熱も下がってないんだぞ。お前のせいで、どれだけ無理してると思ってるの」 あまりの理不尽さに、笑いすらこみ上げてくる。 私はもう、これ以上相手をするつもりもなく、その場を去ろうと踵を返した。 と、その瞬間、突然頭皮に鋭い痛みが走った。 湊が背後から私の髪を掴み、力任せに引き戻したのだ。 無理やり顔を上げさせられ、彼の冷たい瞳がすぐそこにあった。 「逃げられると思うなよ! 紗良は今、生理中で熱もある。下着が汚れてるんだよ。お前が洗え」 彼の視線をたどると、ソファの横に無造作に置かれた、血のついた下着が目に飛び込んできた。吐き気がこみ上げる。 「自分で洗え」私は怒鳴り返し、必死に抵抗した。 だが湊は完全に逆上していた。冷笑を浮かべたまま、私をずるずると浴室へ引きずり込み、汚れた下着を洗面器に放り込むと、水道の蛇口をひねった。そして、私の手を無理やり冷水の中へ押し込んだ。 真冬の冷たい水が、まるで無数の針のように肌に突き刺さる。手術を終えたばかりの下腹がズキズキと痛み、目の前がぐらりと揺れて、今にも倒れそうだった。 第3話 「そんな芝居、もうやめて」 湊は鼻先でせせら笑い、口を開いた。 「洗い終わるまでは、ここから出せるつもりはない」と言い放った。 そのままバタンと扉を閉め、鍵までかけて私を閉じ込めた。 外からは、紗良のわざとらしい声が聞こえてくる。 「湊、こんなことして大丈夫なの?陽菜、お腹に赤ちゃんがいるのよ」 「子どもがいるからなんだっていうんだ」 湊の声は冷たく、乾いた怒気を含んでいた。 「それを盾にして、お前に好き勝手してるんだ。 今日ちゃんと教えてやらないと、将来もし嫁に入ってきたら、どうなるかわかったもんじゃない! 紗良、俺は誓ったんだ。俺がいる限り、お前にほんの少しの我慢もさせない」 「湊、ありがとう。あなたがいてくれて、本当によかった」 その声を聞いていると、涙が止めどなく溢れ、胸の奥が引き裂かれるように痛んだ。 もう立っていることすらできず、私はお腹を抱えて、冷たい床の上にうずくまった。涙はとっくに流れ尽くしたはずなのに、まだ頬を濡らし続けていた。 どれほど時間が経っただろう。やっと鍵の開く音がして、扉が開いた。 湊は、私が顔面蒼白で床に崩れ落ちているのを見て、一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに眉をひそめて吐き捨てた。 「何のつもりだ?たかが下着ひとつ洗っただけで、そんな大げさに倒れて……気分悪いな」 私は無理やり体を起こし、ふらつきながら部屋に戻った。鎮痛剤を飲み込んで、そのまま、眠るようにして意識を手放した。 だが夜中、激しい腹痛で飛び起きた。夢と現実の境がわからないまま、私は苦しみに顔を歪めた。 そういえば、手術が終わってから一滴の水すら口にしていなかった。 なんとか体を起こし、空腹と痛みでふらつきながら階下へ降りる。ちょうどゲストルームの前を通りかかったときだった。扉がわずかに開いており、中から妙な音が漏れてきた。 まるで、何かに導かれるように、その隙間を覗き込む。 そこには―― 紗良が、湊の膝の上にまたがり、二人は激しく唇を重ねていた。 湊の手が彼女の背中を撫で回し、紗良の甘えた声が耳に刺さる。 「湊、あなたが愛してるのは私なんでしょう?だったらあの人とは別れて、ずっと一緒にいて」 湊の手が、紗良の腰に添えられたまま、ぴたりと止まった。喉仏が二度ほど上下し、しばらくして低い声でつぶやいた。 「紗良、俺には子どもが必要なんだ。それに、表向きの妻も。 家の連中は、結婚しろとうるさくてな。ちゃんと籍を入れた女がいれば、黙らせることができる。 でも安心して。たとえ結婚したって……俺の心にいるのは、紗良、お前だけだよ」 言い終わらないうちに、ふたりは再び貪るように唇を重ねた。 私は思わず後ずさりし、背中が冷たい壁にぶつかった。 あのとき信じていた愛なんて、全部、彼の用意した台本通りの芝居だったんだ。 胃の奥がひっくり返るような吐き気。私はよろめく足取りで寝室へ戻り、ベッドの隅にうずくまり、声も出せないまま泣き続けた。 どれくらい経ったのか、ドアがわずかに開いた。 ゆらりと紗良が姿を現す。その口元には、勝者の笑みが浮かんでいた。 「さっきの、全部見ちゃったのね?だったら空気読みなさいよ。さっさと湊の前から消えることね」 そう言いながら、紗良はドレッサーの上に手を伸ばし、指先を一枚の写真に止めた。そこには、かつての私と湊が並んで笑っていた。 「知らなかったでしょ?湊は大学の頃から私のことが好きだったの。だけど、いろいろあって私は彼のお兄さんと結婚したの。 結婚式の日に、彼がみんなの前で仏門に入って修行するって宣言したのもね――あれは、私のために自分を律するって意味だよ」 私はシーツをぎゅっと握りしめ、爪が掌に食い込むのも気づかなかった。 「そのあと、あんたが現れて……ちょうど彼のお母さんが結婚を急かしてて、それで仕方なくあんたを選んだのよ」 私は顔を上げ、凍りつくような声で言い放った。 「言われなくても、出ていくわ」 「ふん、何カッコつけてんのよ」 紗良の表情が一変し、目に見えて嘲笑が浮かぶ。 「玉の輿狙いの女なんて、山ほど見てきたわ。家柄が良くて、金もある男をつかまえたら、そう簡単に手放すわけないじゃない? でも安心して、ひと押ししてあげる」 そう言った直後だった。紗良はわざとらしく足をもつれさせ、そのまま階段の方へ、悲鳴をあげながら倒れこんでいった。 第4話 まさに間一髪のところで、湊が私の背後から飛び出し、紗良の腰を力強く抱きとめた。 彼女はすぐさまその胸に顔を埋め、泣きじゃくる。 「陽菜が私を突き飛ばしたの。 あなたたちの邪魔をするなって言われて……私、もう帰るから」 「そんなことしてない」私はとっさに否定した。 だが湊は、目を血走らせたまま振り返り、何のためらいもなく私の頬を平手で打った。 バチンという音と同時に、頬が灼けるように痛み、口の中に血の味が広がる。 「最低な女だな。義姉すら受け入れられないなんて」 彼は私の髪をつかみ、無理やり床に押し倒した。 「今すぐ紗良に謝れ」 私は必死に床を支えながら踏ん張り、首筋には血が上り、真っ赤になっていた。 「私は押してない!どうして謝らなきゃいけないのよ」 湊の額に怒りの血管が浮き上がった。 「……本当に、甘やかしすぎたみたいだな」そのまま私の腕をつかんで引きずり、玄関へと連れていった。 「ここで反省しろ。謝るまで、家には入れない」 バタン、と音を立てて玄関の扉が閉まり、私は冷たい階段に投げ出された。もう、この人には、何の期待もしていない。そう思った途端、小腹に鋭い痛みが走った。 冷や汗が背中を濡らし、私は震える手でスマホを取り出し、タクシーを呼んで病院へと向かった。 点滴を受けたあと、私はそのまま意識を失うように眠った。 目が覚めると、スマホの通知は湊からの着信とメッセージで埋め尽くされていた。 【どこに行った】 【紗良はお前に怯えて、昨夜ずっと悪夢にうなされてたぞ。早く戻って謝れ】 私は鼻で笑って、迷わず彼をブロックした。 どうせ、もうすぐこの場所とも、彼とも、完全に決別するつもりだった。 病院を出た私は、ふと久しぶりに両親の顔を思い出した。 何か贈り物でも買おうと立ち寄った高級デパートで、限定の香水を手に取った瞬間、聞き慣れた、ぞっとするような笑い声が耳に届いた。 湊が、紗良の腰を抱き寄せながら、ブランドバッグ売り場で楽しそうに談笑している。 目が合った瞬間、湊の表情が一変し、すぐ私のもとへと詰め寄った。 「なんで俺をブロックした」 私は香水を棚に戻し、静かに答えた。 「もう別れたんだから、連絡する必要ないでしょ」 「口だけは達者だな」 湊は私の手首を乱暴につかみ、骨がきしむほどの力で締めつけてきた。 「別れたって言いながら、俺たちを尾けてきたのか」 「離して!買い物に来ただけよ、あんたと関係ない」 私は抵抗しながら、後ずさった。 「お前が?笑わせるな」 湊は私を上から下まで見下し、嘲りを隠さなかった。 「ここにあるもんは、どれも六桁スタートだぞ。お前が買えるのか」 そして次の瞬間、彼は私の腕を強く引き、私はバランスを崩しそうになった。 「ちょうどいい、今日こそ紗良に謝ってもらう」 私は必死にもがいた。そのとき、私と湊の間に、すっと一つの影が割り込んだ。 男の指はすらりと長く、湊の手首を軽くひねるだけで、私はすぐに解放された。 そのまま、温かく力強い腕にそっと抱き寄せられる。耳元で、低く穏やかな声がささやいた。 「遅くなった、ごめんね」 私は顔を上げ、深く澄んだ眼差しと、真っ直ぐに視線がぶつかる。 この人……写真でしか見たことのなかった、私の婚約者、黒澤一真(くろさわ かずま)だ。 まさかここで現れるなんて。仕立ての良いスーツに身を包み、整った顔立ちには隙がない。けれどその目だけが、私のことを案じるように、微かに揺れていた。 一真はゆっくりと湊の方へ視線を移すと、凍りつくような声で言った。 「僕の婚約者に手を出していいなんて……一体、誰の許しを得たつもりだ」