拝啓、晴れの君

Đang tải thông tin quảng bá...

拝啓、晴れの君

GoodNovel Hoàn thành

彼氏は私のことを本の虫だと馬鹿にしていて、酔った勢いで友達にこう愚痴をこぼした。 「勉強がちょっとできるだけで、実家も別に金持ちじゃね...

Chương (1)

第1章

彼氏は私のことを本の虫だと馬鹿にしていて、酔った勢いで友達にこう愚痴をこぼした。 「勉強がちょっとできるだけで、実家も別に金持ちじゃねーし。 なぁ、信じられるか?あいつの顔に札束でも叩きつけてやりゃあ。 すぐに犬みてえに尻尾振って寄ってくるぜ……」 けれど後日、私はある人の膝の上で泣いていた。 彼は私の耳の後ろから首筋へと唇を寄せ、くすりと笑う。 「ふぅん、本の虫、ねぇ? それで、そいつは知っているのかね?お前が本当は――この街の最も大きいデベロッパーのお嬢様だということを」 第1話 放課後、今日は私達の班が日直だった。 私は大きな黒いビニール袋を提げ、ゴミを捨てて戻ってきた。 すると、彼氏が私の親友といちゃついているのが見えた。 彼氏は私の親友の顎を軽くいじる。 親友は手を伸ばし、彼の首に腕を回す。 私は頬の内側をぐっと噛んだ。 静かに二人の会話に耳を澄ませる。 「いつ彼女に別れ話するの?」 私の十年以上の親友は今、彼氏の襟元をいじりながら、私と別れるよう唆している。 私は窓の外に立ち、無表情でその二人を見つめていた。 いつからだったか、もう忘れてしまった。 放課後の帰り道が、私と、彼氏の坂本拓海(さかもと たくみ)、そして親友の木下千夏(きのした ちなつ)の三人になったのは。 俯いて、夕日に長く引き伸ばされた自分の影を見つめる。隣にある二つの影は、もうくっついてしまいそうだった。 校門のそばには、定期テストの成績優秀者を貼り出す掲示板がある。私の名前は、今回も学年一位だった。 「晴香、どうしてそんなにすごいの、いつも一番で」 親友が私の腕を揺らし、にこにこと笑いながら褒めてくれる。 拓海は傍らで冷笑した。 「成績がいいからって何になるんだよ、どうせ地味な……」 それ以上の言葉は、彼の口から出てこなかった。 親友が彼の腕を軽く叩いたからだ。 「どうしてそんなこと言うの!知ってるでしょ、彼女、家の事情がよくないって…… 勉強に頼るしかないんだから」 口ではそう言いつつも、彼女が拓海の腕に置いた手は、離されることがなかった。 そして、思いやりに満ちた瞳で私を見つめる。 「晴香、今夜GNRに行くんだけど、勉強するから来られないよね?」 「……」 彼らが言うGNRとは、パーティー会場のような場所だ。 拓海のような金持ちの御曹司たちは、海外留学が決まっていて、勉強する気などさらさらない。金曜の夜は、大抵そこで遊んでいた。 千夏がこう尋ねてくるのは、私がついて行かないと確信しているからだ。 それに、拓海のバイクは二人乗りだから、三人では乗れない。 私が頷くと、案の定、千夏はごく自然に拓海の後ろの席に座った。 私は二人が猛スピードで走り去っていくのを見つめる。 きれいさっぱりと、私を置き去りにして。 夕日が街の境界線に沈み、私は地面にしゃがみこんで、手持ち無沙汰に自分の指をいじっていた。 とうとう小指が脱臼しかけた、その時だった。 バイクの轟音が遠くから響いてきた。 あの人がバイクで私を探しに来たのだとわかった。あんなにも派手で奔放な音は、彼だけのものだ。 でも、顔を上げたくなかった。 拓海のバイクより百倍は格好いいバイクが、私の目の前に停まる。 目に入ったのは、その人の黒いロングのマーチンブーツ。 彼が私の頭を、軽くも重くもない力でくしゃりと撫でた。 それでようやく、私は彼を見上げた。 正直に言おう。 長谷川蓮(はせがわ れん)のあの瞳も、拓海のそれより百倍は綺麗だった。 街灯が明滅する中、蓮はポケットに手を突っ込み、私を見下ろしていた。 「しゃがんで何してんだ、お行儀悪いぞ?」 私は危うくスクールバッグを彼に投げつけそうになった。 声は低くて素敵なのに、どうしてそんなことを言うのだろう。 長くしゃがんでいたせいで、立ち上がった時、膝が少し痺れていた。 とにかく、私はうまく立てなかったのだ。 そして、彼の胸の中に倒れ込んだ。 彼の服のジッパーが私の右頬に当たり、私は「ぅ……」と小さく声を漏らしたが、すぐに体勢を立て直そうとは思わなかった。 彼はそのまま私を抱きしめていた。 「しばらく見ないうちに、随分と積極的になったな?」 第2話 彼が話すときの吐息が耳にかかり、少しだけくすぐったい。 私は彼の脇腹を軽く抓ってみた。 この手触りも、拓海よりいい感じがする。 まさか、蓮が遊びに連れて行ってくれると言って、私をGNRに連れて来るとは思わなかった。 この場所は、私にとっては少々厄介だ。 何しろ今日の午後、私の素敵な彼氏と親友が、ここで遊ぶと言っていたばかりなのだから。 「場所変えよう、ここはうるさい」 私は蓮の袖を引いた。 でも、私の言うことを聞くようなら、彼は蓮ではない。 「一人で帰ってもいいぞ」 雰囲気のある照明は、いつも人を曖昧な錯覚に陥らせる。 彼は手を伸ばし、私の耳たぶを摘まんだ。 「それに、個室はうるさくない」 …… 誰だ、個室はうるさくないと言ったのは。 あの馬鹿騒ぎのせいで、私の鼓膜は破れそうだった。 私は立ち上がり、廊下に出て空気を入れ替えようとした。 真夏だというのに、室内の温度は低すぎるくらいに設定されている。 ある個室を通り過ぎた時、本来なら立ち止まるつもりはなかった。 けれど、私の「彼氏」の声は、あまりにも特徴的だった。 「坂本さん、あんたの勉強ができる彼女、どうして連れてきて見せてくれないんすか?」 「ああ、言うなよ。全然おしゃれとかしねえし」 「まあ、勉強に集中してるってことっすよね」 拓海はどうしたのか、飲みすぎたのかもしれない。 やけに興奮して話し始めた。 「マジかよ、わかるか?アイツ、いっつも気取ってやがって、触らせもしねえんだ」 「勉強がちょっとできるだけじゃねえか、家はたいして金もねえくせに」 「俺が付き合ってやってんのは、顔がまあまあだからだっつーの!何気取ってんだか、ああいう女は……」 「信じられるか?俺が札束をあいつの顔に叩きつけたらよ」 「すぐ犬みたいに媚びてくるぜ……」 私は個室の入り口に立ち、眉を上げた。 その言葉、どうやら一言一句、全て聞こえてしまったようだ。 よりによってその時、背後から忍び笑いが聞こえた。 蓮がいつの間にか私の後ろに立っていて、私と同じように興味津々で聞き入っていた。 私が振り向いて何しに来たのか尋ねようとした瞬間、彼はぐっと私を引っ張り、隣の小部屋に引きずり込んだ。 どうやら物置のようで、少し窮屈だ。 彼は私の腰をぐいと引き寄せ、ドアを閉めた。 ドアの中ほどはガラスの透かし彫りになっていて、ちょうど外の様子が見える。 拓海が友人に支えられながら廊下を歩いているところだった。 歩きながらも、まだ何か罵詈雑言を吐いているようだ。 蓮は手を上げ、私の肩にかかった髪を整える。 そして、私の耳元で囁いた。 「なあ、もしあいつが、お前が実はこの街最大の不動産デベロッパーの娘だって知ったら…… すっげえ後悔するだろうな?」 父が私に一番よく教えてくれたのは、自分が人より偉いと思うな、ということだった。 だから小学校、中学校、高校と、父が私に与えてくれたものは全て、ちょうどいいものばかりだった。 みすぼらしくて体面を失うこともなく、かといって見せびらかすようなこともない。 ただ、私が拓海の前であまりお金を使わなかったせいかもしれない。 彼は私のことをずっと、成績だけで這い上がってきた貧しい子だと思っていた。 廊下での罵声が遠ざかっていくと、蓮はドアを開け、私の手を引いて外へ出た。 何度か振りほどこうとしたが、手は彼に握られたまま、指を絡め取られていた。 「蓮!」 私は彼の名前を呼んだ。 彼は振り返り、悪戯っぽく笑いながら私の手を持ち上げ、ぶらぶらと振ってみせた。 「なんだ?お前の彼氏くんの前で俺と手を繋ぐと…… 罪悪感でもあるのか?」 …… 蓮は……私の幼馴染だ。 彼を幼馴染と表現するのが適切かどうかはわからない。幼い頃からの知り合いではあるけれど、私達の関係を知る人はかなり少ない。 彼は子供の頃、一時期私の家に居候していた。 父は彼に対してとても丁寧だった。その丁寧さは、子供に対する親しみとは違うものだった。 第3話 それは……目上の人間に対する、媚びへつらいにも似た態度。 実は、父は市内でそれなりの地位にある人間だ。 その父ですら、あんなに気を遣って世話を焼く相手がいるなんて。 でも、蓮が私の家にいたのは半年足らずで、どこへ行ったのかも知らなかった。 彼との再会は、あの日……私のスマホに突然届いた一通のメッセージがきっかけだった。 記されていたのは、一つの住所--私たちの学校の体育館。 差出人は、ずっと連絡を取っていなかった蓮。 それでその日、私は体育館へ向かった。結果として目にしたのは、彼氏の拓海が、親友の千夏を壁に追い詰めてキスしている光景だった。 これまで、拓海はただ私を見下しているだけだと思っていた。まさか浮気までするなんて。 しかも、その相手が……私の親友だなんて。 その瞬間、私が理性を失いかけたのは認める。二人に詰め寄ろうと飛び出しかけた、その時だった。 不意に、後ろから両手を掴まれた。 今の蓮は、幼い頃のあの未熟な少年とは全くの別人だ。 てっきり、優しくて太陽みたいな好青年に成長するものだとばかり思っていたのに。 けれど明らかに、今の彼は「太陽」や「優しい」といった言葉とは縁遠い。 その瞳は深く沈み、足音一つ立てない。顔立ちは想像していたよりもずっと整っていたけれど、なぜだか背筋がぞっとした。 彼が眉をくいっと上げただけで、私はびくりと体をすくませてしまう。 彼は私の耳元で囁いた。 「そいつ、お前の彼氏だって聞いたけど? 見事に寝取られてやんの。大したクズだな、お前の彼氏」 「……」 それが、私と蓮の五年ぶりの再会だった。 私の彼氏と親友が、名残惜しそうにキスを交わしている、その最中に。 蓮は顔を上げると、私の制服の胸元のリボンを直し、そして笑った。 「やり返したくない?」 今日は私の十八歳の誕生日。 でも、この十八歳という節目は、私にとってあまり良いものではなかった。 昼過ぎには彼氏と親友がいちゃついているところをまた目撃してしまったし。 夜、父に電話をかけると、飛行機が遅延して誕生日には帰れないと告げられた。 「もう十八歳になったんだろ?大人が自分の誕生日を祝うなんて幼稚なことはやめなさい」 電話の向こうから聞こえる声は疲労に満ちていたけれど。 それでも私は、父に言い返したくなった。 「父さんが帰ってこないなら、タバコも吸うしお酒も飲むし髪も染めるしタトゥーも入れるから!」 電話の向こうで、フフッと乾いた笑いが二度聞こえた。 「好きにしろ」 そう言って、切られた。 私は画面が消えたスマホを、憎々しげに睨みつける。 カチッ、とライターを開け閉めする音がして、蓮が煙草を一本咥え、挑発するように私を見ていた。 私は急に、ありとあらゆる反抗的なことをしてみたくなって、彼に向かって手招きした。 「蓮、タバコの吸い方教えて」 そういえば、拓海が煙草を吸うのは嫌いだったのに、目の前の人は煙草を咥えているだけで、はっとするほど格好いいと思ってしまう。 彼はゆったりとした仕草でポケットから煙草の箱を取り出し、一本抜いて私の目の前に差し出した。 「咥えろ」 「……」 私は少し口を開けて、それを咥える。 光が明滅し、彼はまず自分の煙草に火をつけた。 彼が身を乗り出して私に近づき、煙草を噛んだまま、赤く灯る先端を私が咥えているそれにそっと触れさせる。 彼の睫毛はすごく長くて、真剣なことをしている時は少し優しく見える。 だから、私は急に煙草を咥えていられなくなった。 私の煙草はぱた、と音を立てて地面に落ち、彼は私に視線を上げた。 そして、ふっと鼻で笑う。 「やめとけ。煙草もまともに咥えられないくせに」 「……」 大人になるその夜は、誰しも多少はクレイジーになるものなのだろうか。 蓮の家のソファにうずくまりながら、私はそんなことを考えていた。 どうして私は、彼について家まで来てしまったんだろう。 バスルームから水音が響いてくる。私は固く閉ざされたその扉をじっと見つめた。 蓮の家はとてつもなく広く、庭付きの三階建てで、しかも誰もいない。 ぼうっとしていると、ポケットのスマホが数回震えた。 まさか、拓海からのメッセージだった。 【お前に口紅買ってやったぞ。2万円近くしたんだぜ。嬉しいだろ?】 第4話 【お前もちゃんと自分を飾りな】 添えられていたのは、彼が撮った口紅の写真。 私の記憶力が良すぎるのが、いけなかった。 私は「親友」である千夏のSNSを開き、数日前の投稿を遡って見比べてみる。 やっぱり。 同じ口紅だ。 彼女の投稿には、こう添えられていた。【この色、最悪】 そして、今日投稿されたばかりの投稿をもう一度見てみる。 同じブランドの口紅が、ギフトボックスに一式入っている。 添えられた言葉は、【とある人が機嫌取りに買ってくれたの、うふふ】 …… もう、状況は明らかだった。 拓海が、センスのないチョイスで私の親友に口紅を贈って、嫌われた。 だから彼は、彼女をなだめるために一式セットで買い与えた。 そして、捨てるのが惜しくなったのか、見下したような態度で、親友が突き返した口紅を私に押し付けてきた、というわけだ。 彼はきっと、2万円近くもすると言えば、私にとっては天文学的な金額だとでも思ったのだろう。 私がきっと、有り難く拝むとでも。 …… 背後で衣擦れの音がして、振り返らなくても、蓮が後ろにいるのが分かった。 彼がシャワーを浴びたばかりの熱気が、私をじりじりと灼くからだ。 私はスマホの画面を消す。そこに映り込んだ彼の、何も纏っていない上半身。 彼は手を伸ばし、ゆっくりとした仕草で私の襟元を整える。 「ちょっといいか、晴香」 彼が私の下の名前を呼ぶのは、大抵、私のご機嫌を取ろうとする時だけだ。 私は「ん」と相槌を打った。 その時、私のスマホがけたたましく鳴り響いた。 画面に表示された「拓海」という名前に、私は少し驚く。背後から画面を覗き込んだ蓮の瞳が、すっと温度を失った。 「出ろ」 「……」 「晴香、この口紅、俺からの誕生日プレゼントだからな 嬉しいだろ、お前の彼氏、マジで太っ腹だから」 電話の向こうの男は、ひどく酔っ払っているようだった。 「お前はこれから俺の言うこと聞けよ、な?お前にこんなプレゼント買ってやれるの、俺くらいのもんだろ。 ふん、晴香、お前もう成人したんだっけ。じゃあ俺たちも、そろそろ……」 彼の曖昧な言葉が、だんだんとよろしくない方向へ向かっていく。 私はあまり気にしていなかったが、背後にいる男の指が、不意に悪戯っぽく動き始めた。 「ちょっと飲みすぎじゃない、拓海?」 私は電話の向こうをあしらいながら、蓮の落ち着きのない手を握りしめる。 彼を睨みつけた。 電話に出ろと言ったのは彼なのに、今こうして邪魔をしているのも彼なのだ。 「そんな飲んでねえよ。晴香、お前何してんの?」 「宿題してる……っ」 そう言ってごまかそうとした途端、背後の男が不意打ちに、私の肩を軽く噛んだ。 「え、晴香、そっちなんか音しなかったか?」 拓海も、酔っている割には耳がいい。 蓮の濡れた黒髪が私の首筋を掠め、悪戯をやめる気配はまるでない。 「いや、何か聞こえたぞ」 受話器の向こうで、酔っ払いが急に勘づいたようだ。 私は口パクで、蓮にやめるよう合図する。 すると彼は唇の端を吊り上げ、ゆっくりと頷いた。 「何でもないよ。たぶん、お隣さんが喧嘩でもしてるんじゃないかな」 私は受話器を握りしめ、適当な理由をでっち上げた。 「ん、じゃあ愛してるって言って」 この男は、酒を飲むと頭がおかしくなるらしい。こんな気持ち悪い台詞、死んでも言えるわけがない。 「もう、やめ……」 「愛してるって言えよ、晴香……」 「わ、たし……」 私の言葉は、最後まで紡がれなかった。 ずっと私の肩に凭れていた男が、そのタイミングで、くすりと笑ったのだ。 その声は、はっきりと受話器の向こうに届いた。 電話の向こうが固まり、私も固まった。 なのに、隣の男はまだ事が大きくなるのが足りないと言わんばかりに、私の髪を掻き上げた。 「なあ、お姫様。今夜は一緒に寝てやるよ」 拓海は完全にキレた。 でも、まさか彼がここまで大きな反応を示すとは思わなかった。 携帯が鳴り止んだかと思えば、今度はメッセージが怒涛のように届き始めた。 【お前の隣にいた男は誰だ?!】