会社を辞めてから始まる社長との恋

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会社を辞めてから始まる社長との恋

GoodNovel Hoàn thành

入江紀美子は森川晋太郎の傍に最も長くいた女だ。 全帝都の人間は、彼女が森川家の三番目の晋樣のお気に入りだと知って、少しでも冒涜してはい...

Chương (1)

第1章

Part1. 全帝都の人は、私がが森川家の三番目の若様のお気に入りだと思われている。しかし、私はただ晋太郎の憧れの女性の代わりだと一番よく知っている。彼がやっとその憧れを見つけた日には、私はゴミのように捨てられた。全ての希望を失った私は、腹の中の子と共に家出することを選んだ。 しかし、彼は狂ってしまった。彼は間違いを犯したからだ。まさか自分が十何年もかけて探していた憧れの女性が、すぐそばにいたなんて… 「来ないで、私…警察を呼ぶから…」 先頭に立つ男が口を開き黄ばんだ歯を見せながら、手に持っている鞭を揺らしながら彼女に近づいてきた。 「いいだろう、好きなだけ呼ぶがいい。サツが来るのが先か、それともお前が俺達に弄られて死ぬのが先か」 今日は私の大学卒業式。まだ家に入っていないのに、父は賭けの借金を返す為に、私をこの人達に売ったのだ。 私は逃げ出そうとするが、足が覚束なくなり、力が抜けていた。 「やばい!動けない…薬が効いたのかしら」 体がだんだん熱くなり、目の前の男たちも少しずつ近付いて来る。 ちょうどその時、彼女の左前の部屋のドアが開かれた。 黒色の手製の皮靴が彼女の目に映った。 見上げると、すらっと伸びる男性のズボン、そして凛とした五官を持つハンサムな顔が見えた。 男は眉を垂らし、真っ黒な瞳は冴え切った湖の如く、まるで魂を吸い取った冷たさをしていた。 男を見て、なぜか分からないが、少し安心した。 私は「お願い、助けて!この人たちに薬を飲まされたの!」と泣きながら助けを求めた。 彼は身体を屈め、手を伸ばした。 安心して手を伸ばそうとして、てっきり彼が自分を支えてくれると思ったその時。 彼は私の手を振り払い、自分のズボンを握っているもう一本の手を冷たく払った。 「小娘よ、MKの社長に助けを求めるなんて、まったく身の程を知らないんだな。もう観念して俺たちについてきたらどうだ…」 男達は欲張りに私を囲んできた… 「いやっ!」 私は汗まみれにベッドから身体を起こした。 すべすべのシルクのシーツが身体から滑り落ち、キスマークに満ちるセクシーな胴体が晒し出された。 床には脱がされた私の服と、十数個もの使い捨てられた「ゴム」が落ちていた。 布団を抱え、目の前のソファに座りタバコを吸っている男に目を赤くして問い詰めた。 「私に何をした…」 「お前が俺に何をした、と聞くべきじゃないか」 彼の鎖骨にある同じくみっしりしたキスマークを眺めながら、微かに思い出したようだーー 昨夜自分は薬を飲まれ、危うくあの男たちに侵されるところを、この男のアシスタントに助けられた。 その後、一台の車に乗せられた。 しかしその時にちょうど薬が効いてきて、私は身体の本能に従い目の前の男に交歓を求めるしかなかった… 「助けてくれて、ありがとう…」 そして一枚の名刺が目の前に落ちてきた MK:森川晋太郎。 「秘書が一人要る。月給は200万円だ。お前に俺の仕事そして生活の全ての面倒を見てもらう。」 私は目を大きくして、彼に「あれだけ優秀な人材たちがMKに応募しているのに、なぜ私を選んでくれたのですか?」と問った。 晋太郎は彼女の澄んだ瞳を見つめ、急に身体を屈め、指で私の耳たぶを優しく擦った。 「このホクロのためだと言ったら、信じてくれるか?」 3年後、MK社長室 私はタブレットパソコンを持ち、真面目に晋太郎に当日のスケジュールを報告していた。 「社長、午前十時にトップの会議がありまして、十二時にエンパイアズプライドの社長との会食があります」 彼の細長い目を資料から離れ、私への視線には欲望を帯びていた。 セクシーなの喉ぼとけが上下に動いた。 しばらくして、資料を机の上に置き、何かに興奮しているように長い指でネクタイを少し引っ張った。 「こっちにこい」 タブレットパソコンを机に置き、従順に晋太郎の前に来た。 立ち止まった途端に、男に乱暴に懐の中に引っ張られ、彼の膝の上に座らせられた。 「もう三年も教えてきたのに、まだどうするべきか分からないのか?」 彼は問い詰めた。 体が硬く張ったが、次の瞬間、大人しく自ら晋太郎の少し冷たい唇にキスをした。 彼とキスをしながら、三年前のあの日を思い浮かぶ… 三年前、彼は私に一枚の名刺を渡し、MKに入社して彼の秘書にならないかと尋ねた。 二日迷ったが、私は入社することを選んだ。 母が急に重病にかかったからだった。 高額な治療費と父が残した借金の前では、現実に頭を下げるしかなかった。 月200万円の給料。 これは決して秘書の仕事だけではないと、もちろん分かっている。 この三年、私は晋太郎の右腕だけではなく、彼が欲望を発散する一線を超えた仲でもあった。 毎回、彼は狂ったかのように彼女の体を熱く求めた。 最初、てっきり自分が魅力があるからだと思っていた。 しかし後になって分かったのは、晋太郎が自分を選んだのは、本当にただ耳たぶにホクロがあるからだった。 晋太郎は幼い頃、事故に遭い、彼を救ってくれたのは小さい女の子だった。 その女の子の耳たぶには、私と全く同じのホクロがあった。 この三年、晋太郎はずっとあの女の子を探し続けてきた。 そして彼は私に一本の契約書を署名させた。契約の内容は、将来晋太郎があの女の子を見つけたら、私に高額な補償金を払い、 永遠に帝都から離れてもらうことだった。 「入江さん。誰かが事務所で暴れてるのよ、早く行って!」 突然、入り口から、騒動が起こった。 「どういうこと?」 私は慌てて服を着ながら事情を聞いた。 「入江さん、ちょっと助けて、この狛村静恵さんが、人のデザイン作品を盗用して面接に来たのに、バレたら逆切れしたのよ」チーフが紀美子を見て、助けを求めてきた。 「話は聞きました。もう帰ってください。MKは不誠実な人は永遠に採用しない主義です。」私は狛村に言った。 「関係ないでしょ誰よ、あんた。私にそんな口調で喋るなんて!あなたが不採用と判断する資格あるとでも?この会社はあなたのもの?」 「私が誰なのかはあなたに関係ありません。あなたに覚えてもらいたいのは、私がこの会社にいる限り、あなたのような小賢しいまねをして入社しようとする人は、永遠に採用しないということです」紀美子は言った。 「大口を叩くじゃない」女はあざ笑いをした。「このビッチが!私は誰だとわかってる?将来私がMKに入社したら、絶対にあなたに跪いて謝ってもらうから!」 私はマネージャーの方に向かって「警備を呼んで。この狛村さんに出て行って貰うわ!」 「何のことだ?」と、背後から森川の声が伝わった。 「森川さん!!」 私の声を遮るように、彼女はいきなり森川のところに飛びついて、しっかりと彼の服を掴んだ。 「あなたが森川社長ですね、分かります!お願いです、人事部に私を採用させてください! 私はどうしてもこのお仕事がほしいのです、どうかお手助けを!」 晋太郎の冷たい目線で彼女を睨み、強烈な反感を表わした。 彼は横にいるボディーガードたちにきつい目線を当て、低い声で「摘み出せ!」と命令した。 命令を受けたボディーガードたちは、すぐさま女の手を掴み、ビルの出口へ引っ張ろうとした。 しかし静恵は狂ったかのように渾身の力でボディーガードたちに抗った。 「引っ張んないでよ、社長に説明するから時間を頂戴!」「社長、お願いします、数分でいいですから!」 ボディーガードたちは晋太郎のイラつきに気づいたか、慌てて手の力を増した。 揉めていたうち、静恵の顔の両側に垂れていた髪が止まらず揺れていた。 日の光で、彼女の肌白い耳たぶにあるホクロが特段に目立っていた。 晋太郎は一目だけで視線が凝った。 彼はすぐにボディーガードたちに大きな声で「待て!」と命令した。 数人のボディーガードは手を止めた瞬間、静恵は晋太郎の前まで走ってきた。 彼女は極力体の震えを抑えた。 頭を上げた瞬間、瞳の中の涙が静かにこぼれ、「社長、私は狛村静恵と申します。 お話したいことがあります、お願いします」 晋太郎複雑な眼差しで女の耳たぶを見つめ、声もいつの間にか幾分優しくなり、「ついて来い」 「ありがとうございます。社長!」と、彼女は感謝した。 晋太郎は私に向って、「会議を先延ばししろ」と命じた。 何かを言おうとしたが、言葉を飲み込んだ。 彼女は私に向かって得意げに笑った後、彼についていった。 Part 2 指示通りにしてから、私は事務所に戻った。 席に着くや否や、急に強い眩暈に襲われ、慌てて隣のテーブルに手を付き体を支えた。 やっと体を安定させたら、耳元に静恵のきれいな音色の笑い声が聞こえてきた。 中にいる二人がどんな会話をしているかは分からない。 しかしその二人の楽しそうな表情からみれば、恐らくこの狛村は晋太郎がずっと探してきた人だった。 心の嫉妬を抑え込み、自分を落ち着かせながらテーブルの前に戻り、無理やり元気を出して仕事を始めた。 午後、人事部が広報を配布した。 狛村静恵は服装デザイン部に採用され、副部長の職に着いたようだ。 そのメッセージを読み、紀美子は少し泣きそうな気分になった。 当初、私が順調に晋太郎の傍の首席秘書になれたのは、耳たぶにホクロがあったからだ。 今、彼が本当に探している人が現れたため、晋太郎はその人に良い待遇を与えるに間違いない。 そう考えているうちに、入り口からノックの音がした。「入江さん」 ドアは開けられ、杉本肇は真顔で入ってきた。 「入江さん、社長から、今後は狛村副部長のことをよろしく、と」 一瞬戸惑った。 黙っていた私に、肇は「あと、狛村はまだ新人なので、あまり厳しくしないようにとデザイン部に伝えるよう、社長から指示がありました」と言った。 太ももに置いていた手を握り締めた。 素早く視線を逸らしながら、「分かったわ」と何事もないような落ち着いた声で返事した。 肇が出た後、紀美子は両手で額を支え、落ち込んだ表情を隠そうとした。 晋太郎の挙動は明確に伝えているーー 彼が本当に探している人は見つかり、その人の身代わりである自分はそろそろ場所を空けなければならない、と。 ウィーン、ウィーン テーブルの上に置いている携帯電話の振動で思考が引き戻された。 母の主治医の塚本悟からの電話を見て、慌てて出た。 「塚本先生!母に何かあったのですか?」 塚本「入江さん、今病院に来れますか?」 電話の向こうの声が明らかに何かがあるように聞こえて、私はパッと立ち上がり 「はい!今すぐ行きます!」 入院病棟に入り、エレベーターを出てすぐ母の病室の入り口にレザーのジャケットを着ている男が見えた。 男の口元にはタバコがくわえられていて、挑発的な口調で塚本に話しかけていた。 私を見て、男の人はクスっと笑い「これはこれは、入江秘書様のお出ましか!」 塚本に申し訳なそうな眼差しを送り、そして男の人に冷たい声で、「石原さん、この間も言ったでしょ、借金の取り立てであっても病室まではこないように、と」 石原はくわえているタバコのフィルターを噛みしめ、「お前のオヤジさんがまた消えちゃったんで、ここまでくるしかなかったじゃんか」 紀美子は怒りを我慢して、「今回はいくら?」と石原に聞き返した。 「そんなに多くないさ、利息込みで80万!」 「先月までは40万だったのに!」 「その話はお前のオヤジに聞け、借用書はこっちだ、お前のオヤジの筆跡は分かるよな?俺はただ借金の取り立てに来てるだけだ」石原はあざ笑って私を見つめ、借用書を見せてくれた。 反論する理由が見つからない。 父はギャンブルにハマったろくでなしで、しょっちゅう借金を作って博打に使い、ここ数年は借金の金額が増える一方だ。 借金の返済日になると、この借金取りたちが母の病院に来ていた。 母は今刺激を受けてはならないと考え、怒りを抑えて「分かったわ!」と言った。 「金は渡すから!けど今度また病院まで取り立てにきたら、今後は一銭も渡さないからね!」 言い終わると、私は携帯電話から石原のLINEのアカウントを見つけ、80万円を送金した。 金を受取り、石原は携帯を揺らしながら颯爽とこの場を離れた。 塚本先生は私を心配そうに見て、「入江さん、このままではどうにもなりませんよ。プレッシャーがどんどん大きくなりますから」 「なんといっても、あの人は私の父親ですから」 三年前、父が私をあの中年の男達に売った時、すでに彼との親子関係を解除し、もう彼の尻拭いをしないと決めていた。 しかしその後、母が病にかかり、父の心配をして夜な夜な眠れない姿を見て、私はどうしてもその決定を貫けなかった。 この世の中は、どんな関係でも絶つことはできる。 しかし、親子の血縁関係は絶てない。 私の真っ青になった顔を見て、塚本は眉をよせ、「具合が悪いのですか」と心配そうに聞いた。 「いいえ、大丈夫です…」 首を振ったが、急に眩暈がして、倒れそうになった。 塚本は慌てて彼女に手を伸ばして支えようとしたが、私の熱い肌に触れ、少し驚いた。 「入江さん、熱が出ているのではないですか?」 私は手を引き、熱くなった額に手を当てて確かめた。「多分最近は仕事が忙しくて少し風邪をひいたのかもしれません。後で薬を飲んでおきますから、大丈夫です。ちょっと母の様子を見てきます」 そう言って、病室に入った。 病室の中、母が病気で凹んだほほを見て、心が痛んだ。 素早く両目を瞬き、気持ちを整理してから母に声をかけた。「お母さん、今日の点滴は終わったの?」 ベッドにいる母はゆっくりとこちらに振り向き、心配そうに見つめてくれた「お父さんのことでまた迷惑をかけたわね」 気にしないふりをして、「家族だから、大丈夫」と軽く笑ってごまかし、母の水筒に少しお湯を足した。 母は暫く黙り込んでから口を開いた。「紀美子、もうこの家を出よう、ね」 水筒を持っている手が少し震え、「もうそんなことは言わないで、おあたんは私の母親だから、絶対に見捨てたりはしないから」 「お父さんの借金で押しつぶされちゃうわよ!」と、母は急に激昂した。 わざと気楽そうに軽く笑い、「お母さん、実は給料けっこう貰ってるし、お母さんたちが私をここまで育ててくれた恩を、親孝行をして返すのは、あたりまえなことじゃない?」 彼女は眉を寄せ、厳しい声で「自分の人生を壊してまで親孝行する必要はないわ!私はこの体がどこまで持つか分かっているの。もう助からないのよ!まだ私の言うことを聞いてくれるなら、今すぐ戸籍を移動して!」 「お母さん!」慌てて幸子の手を握り、「約束する、私は必ず自分のことに気をつけるから、それでいい?」 すると、はイラつきを抑えるように目を閉じ、「紀美子、一つ教えておきたいことがあるの。実はあなたは…」 「幸子!」 声と共に、一人の男が入り口からちどりあしで入ってきた。 振り返ってみると、男は既に病室に入ってきていた。 その男の体はタバコと酒の臭い匂いを発していて、髭がもじゃもじゃしている。男は紀美子の反対側に座った。 「どうだった?石原に酷いことをされたか?」 「何しに来たのよ!」母は嫌悪感を露わにして言った。「また迷惑をかけにきたの?」 彼は舌打ちをしながら私を見て、「紀美子、ちょっと席を外してもらえるか?俺はお母さんにちょっと話してすぐ帰るから。」 幸子の方を見たが、母は私に頷いた。 しぶしぶと立ち上がり、厳しい眼差しで父をみて、「お母さんを怒らせないで」 彼は何度も頷いて答え、紀美子は何度も振り返りながら病室を出た。 「茂!あんた、それでも人間なの?!」 「そうだ、俺は悪魔だから、お前はその口をしっかりと閉じておけ。そうしないと、何が起きても知らんからな!」 その言葉を残し、彼は振り返らずに病室を出た。 ため息をして、病室に戻ろうとした。 ポケットに入れていた携帯がまた鳴り始めた。 森川晋太郎からの電話だ。 少し緊張して無意識に電話を出た。 「今どこだ?」電話から冷たい声が低く鳴り響いていた。 病室の中に眺めて、低い声で「ちょっと急な用事が…」 向こうは暫く黙ってから、「狛村静恵のことでデザイン部に声をかけて貰うのは、まだやってないか?」 また嫉妬を感じたが、彼は自分の罪を問うために電話をかけているのだった。 それもそうだ、私は彼の玩具である同時に、本職は秘書だったのだから。 指示された仕事を怠ったのは、自分の不手際だと言われても仕方はない。 更に低い声で、「申し訳ありません。今すぐデザイン部の部長に電話で連絡します」 「入江さん」 後ろから塚原悟の声が聞こえた。 振り返ってみると、悟が一箱の薬を持ってきた。 「解熱剤だ、飲んでおいて。君の顔色は悪すぎる」 強がって笑顔を見せ、薬を受け取る。「先生、ありがとうございます。後でお金を渡しますから」 悟は微笑んで、私が持っている携帯に指をさして、「ではまた後で」 頷いて返事をして、携帯を再び耳に当てた。「社長、さっきは何と仰いました?」 暫く待ったが、返事が来ないので、携帯の画面を覗いた。 いつの間にか切られていた。 彼が怒っていることが分かった。 午後、私は指示された通りにデザイン部の部長に連絡を入れた。 電話から佳代子のイラついた声が聞こえてきた。「紀美子、あんたは彼女のことを心配してるの?あいつは定時でとっくに帰ったよ。今日は森川さんとご飯の約束があるって」 私はしばらく黙り込んだ すると、彼女は「それより、あんた熱出したって?大丈夫?」 「最近はちょっと忙しかったからね。でも何でわかったの?」 「杉本が言ったのよ。森川さんが三日間の休みをあげたって。美紀子、あんまり心配しないで。おばさんの病気絶対治るから。」 「うん、ありがとう」 私は複雑な気分で電話を切った。 そんなに私を遠ざかろうとするのは、狛村と二人っきりにいたかったんだろうね。 Part 3 この夜、私はは晋太郎の別荘に帰らなかった。 薬を飲んで病院のベッドで、目が自然に覚めるまで寝ていた。 体を動かそうとすると、手の甲に点滴の針が刺されているのに気づいた。 母が隣にいる。 「紀美子、動かないで。あんた熱が出たから、塚本先生が点滴をつけてくれたのよ。あんたもあんたよ、熱が出ても何も教えてくれなかったし、そんな薄着はダメよ」」 母に説教されたが、心が温かった。 「お母さん、お腹空いたの」 母は怒ったふりをして紀美子を見た。「後で世話係の人がご飯を持ってくるから、少し我慢して。あんたはいつも適当な時間にご飯を食べるから、体に悪いのよ」 この時、世話係のおばさんが保温ビンを持って入ってきた。 彼女は「紀美子さん、外になかなかハンサムなお二人がいるんだけど、あんたのお友達かい?」と顎で入り口の方に指した。 「友達って?」少し戸惑った。 頭の中では晋太郎の姿が浮かんできて、緊張した体をまっすぐに立て直した。 肇の姿が入り口に現れた。 「入江さん、ちょっと出てきて貰えますか」肇は紀美子に尋ねた。 紀美子は頷き、手の甲の針を抜いてベッドから降りた。 休憩エリアの廊下に、顔色が真っ暗な晋太郎はタバコを吸っていた。まるで誰かが彼をイラつかせたかのようだった。 「昨夜は何故帰ってこなかった?」晋太郎は冷たい声で問い詰めた。 「体の具合が悪かったからです」 「具合が悪かった?口まで開けない状態だったか?まずは俺に報告することを忘れたのか?」晋太郎は更に厳しい口調で聞いた。 晋太郎は無理やり目の中の怒りを抑え、益々冷たい声で、「本当に眠ってしまったのか、それともわざと他の男のところで寝て報告しなかったのか?」 「えっ?他の男って?」と、頭を上げて不思議そうに聞き返した。 晋太郎は冴え切った目で私を見つめ、「その質問は俺がすることではないか?」と挑発まじりに聞いた。 「入江さん?」 まだ戸惑っていた私は、優しそうな声が聞こえてきた。 塚本先生? 彼は私の傍で停まり、その針を抜いてから手で押さなかったせいで血が垂れ続けている手の甲を見た。 眉を寄せながら、彼は「血が出ている、この時間ならまだ点滴が終わっていないはずです」 それに気づいて慌てて針の穴を手で塞いだ。「ありがとう、あとで処理しておくから」 彼は手で私の額に当て、心配そうにため息をついた。 「熱は退いたけど、まだ静養が必要ですよ」 晋太郎に誤解されたくないので、慌てて視線を逸らした。「分かっています」 悟は仕方なく手をポケットの中に突っ込んで、ようやく隣で息を潜めている晋太郎に気づいた。 「この方、患者さんは静養が必要ですので、どうか会話する時間を変更してください。」悟は謙遜かつ礼儀正しい言葉遣いで注意した。 「医者が機器ではなくただ手を当てるだけで患者の体温を正しく測れるなんて、初めて見たな」晋太郎は悟に目線を合わせた。 「臨床の経験を活かせば、却って患者さんのお時間を節約できることもありますので」悟は答えた。 その会話を聞いた紀美子は一層緊張した。 悟が自分の為に晋太郎に抵抗しているのは分かっているが、晋太郎は決して大人しく人の話を聞く人間ではないと分かっている。 帝都の誰もが彼は冷酷無情の支配者だと知っていて、彼が機嫌が悪ければ、通りすがりのイヌでも蹴ってしまう人間だ。 もし悟が本当に晋太郎の恨みを買ってしまったら、彼はいつでもその仕事を失う可能性がある。 「塚本先生、この方は私の上司です。ちょっと仕事の話をしますから、先にお仕事に戻ってください」と、慌てて悟に弁解した。 悟は視線を戻し、紀美子に頷いてその場を離れた。 晋太郎は冷たい口調で「そうすれば俺に同情されるとでも思ってるのか?」と話した。 彼の話の意図が分からなかった。 「社長、何をおしゃってるんですか」 その目線は薄く凍り付いたかのように、そして更に冷たい声で私に「入江、可哀そうなふりをして同情を得ようとするなど、些か幼稚だと思わないか それとも、お前は俺が払ってる給料に不満があり、その医者と手を組みタダで母の病気を治療してもらうとでも企んでいるのか?」 晋太郎の話はまるで刃のように、私の胸に刺した。 自分が病気にかかったことも気づいていないのに、どう装えばいいのだろうか? 両手を握り締め、できるだけに冷静さ保っていた。 「社長は私からどのような答えをお求めになっているのでしょうか?」と聞き返した。 彼は私の方へ一歩近づき、鷲のような鋭い目で彼女の顔の表情を探った。 「金が欲しいなら大人しく自分の仕事をこなせばいいが、もし俺達の関係が終わる前に他の男に絡み付いたりしたら、自分がどうなるか分かってるよな?」 爪が掌に刻み込むほどきつく拳を握っているが、いたって冷静な口調で答えた。 「森川社長、契約書にははっきりと書いているはずです。社長の憧れが見つかれば契約が終了となり、私も自由に恋愛できる、と」 初めて、晋太郎に反論した 男の巨大な体が迫ってきて、クランプのような指で彼女の顎を掴んだ。「偉くなったな、入江」 涙が出そうだったが、これまでずっと従順に仕えてきた自分が、たった一回の反論で晋太郎をここまで怒らせるとは思わなかった。 あざ笑いながら、「褒めていただき、ありがとうございます。」 「お前は、前倒して契約を終了させたい、そうだろう?」晋太郎は指の力を強めた。「そうはさせない!」 晋太郎は言い終えると、手を引いた。 彼は力一杯で私を押しのけ、振り返らずにその場を離れた。 彼にのけられ壁にぶつかり、ゆっくりと壁から滑り落ちて、涙も勝手にこぼれてきた。 二日目、秘書室に入ると、ガラスを通して晋太郎の事務所に一人で座っている静恵の姿が見えた。 静恵は丁度こちらに眺めていたので、二人は目が合った。 彼女は目に少し笑みを浮かべ、テーブルの上に置いていた弁当箱を持って私の事務所に入ってきた。 「入江さん、この間の面接でのこと、そろそろ解決してもらえないかしら?」 「人の作品を盗んだのに、少しでも恥ずかしいとは思わないの?」彼女の顔を見て問い詰めた。 「話を逸らさないで!」静恵は上から目線で、「今、この場で跪いて謝りなさい!」 「そんな約束はした覚えがないわ」私はあざ笑って答えた。 「そう?へえ、たかが性欲発散の道具なのに、随分と気が強いじゃない」静恵は私を嘲笑した。 「残念だわ、その強がりは私から見れば、一銭の価値もないわ。金の為なら自分の体をも売る下賤な女なのよ?! あんたのような下賤な女が、私に跪いて謝ることは、当たり前でしょ?」 「狛村さん、言葉に気をつけなさい。でないと、たとえあんたが森川社長の女だとしても、容赦しないわよ!」 私は冷たく静恵に注意した。 「何なの?」「あんた、たかが売春婦のくせに、私に説教をする立場?」 「パっ――」 静恵の話が終わると、私は迷わず彼女の顔にビンタを入れた。 「あなた、よくも私の顔を殴ったわね!」静恵は打たれて赤く腫れた顔を押さえながら叫んだ。 「さっき注意したはずだわ。言葉に気をつけてって」 彼女は全力で私に反撃しようとした時、、静恵はぽろぽろと涙を一気にこぼした。 「入江さん、私はただお弁当を持ってきてあげただけなのに、何でいきなり殴ってくるの?」静恵はわざと声を高くして窮屈に叫んだ。 何のお芝居だ? 「どういうことだ?」晋太郎の質問は怒気を帯びていた。 「晋太郎さん、私はただ入江さんに食べ物を持ってきただけなのに、いきなり顔をビンタされたんです」静恵は涙をこぼしながら晋太郎の懐に飛び込んだ。 「私が食べ残しのものを持ってきて自分を侮辱したって…」 「静恵にそんなことをするなんて、その度胸はどこから来るんだ?!」晋太郎は怒り狂った。 私は怒りを押さえながら嘘まみれの静恵を睨んだ。 説明しようとするが、晋太郎の怒鳴りが聞こえてきた。「謝れ!」 「私は何も間違っていません……」瞳を揺らしながら、不思議に森川晋太郎を見つめた。 「謝れと言ってるんだ!」晋太郎の怒りは冷たく顔に出ている。「入江、同じことを何回も言わせるな!」 怒り狂った彼の前では、すべての不満を飲み込むしかなかった。 そうだ、狛村静恵こそが彼の憧れなのだ。 私はただの代替品、いつでも捨てられる玩具だ。 自分のどうでもいい言い訳はその憧れの悔しさと比べれば、実に取るに足らない。 「ごめんなさい」胸の痛みを堪えながら、頭を下げて、泣きながら謝った。 静恵は晋太郎の懐に埋めていた顔を上げ、「晋太郎さん、もう入江さんを責めるのはやめて、全部私が悪いの……」 晋太郎は愛しんで静恵を抱きしめ、「まだ彼女の為に言い訳を言ってるのか。もう帰ろう」 二人は抱きしめ合いながらその場を離れたが、目の中の涙は堪えきれなかった。 涙が、目から勢いよくこぼれ落ちた