過去は置いていく!夢と星空が私を待っている

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過去は置いていく!夢と星空が私を待っている

GoodNovel Hoàn thành

私と夫の結婚生活は五十年、いつも仲睦まじかった。 でも、金婚記念日のその日、私は誰かに突き落とされた。 意識が朦朧とする中、若い頃に...

Chương (1)

第1章

私と夫の結婚生活は五十年、いつも仲睦まじかった。 でも、金婚記念日のその日、私は誰かに突き落とされた。 意識が朦朧とする中、若い頃に夫を助けるために失った聴力が戻ってきたのを感じた。 耳に飛び込んできたのは、夫が息子に言った言葉だった。 「お前の手を汚すべきじゃなかったな」 「父さん、いつまであの人を我慢するつもり?藤原さんが待てる時間、もう残ってないよ」 夫は深くため息をついた。 その直後、誰かが私の鼻に付けられた酸素チューブを外した。 私は深い闇の中へと沈んでいった―― 次に目を覚ましたとき、そこは80年代。まだ夫と結婚する前の頃だった。 だけど、ひとつだけ違うことがある。今度は、音が聞こえる。 第1話 部屋には80年代特有の古びた木製のタンスと、その上に置かれた白黒テレビ。 外の庭からは、懐かしいラジオの放送が流れている。 間違いない、私は戻ってきたのだ。 机の上には、描き上げたばかりでインクが乾ききっていない絵「星空」。 それを見つめるうちに、自然と涙がこぼれていた。 ――この人生は、私が自分で選ぶ。 「星空」を丁寧に包んでいると、隣の部屋から物音がした。 聞こえてきたのは、桜井颯真(さくらい そうま)と藤原綾音(ふじわら あやね)の声だった。 この音......まさか―― しばらく布が擦れるような音がしてから、颯真が抑えた声で言った。 「もう少し静かに......」 しかし、綾音はまったく意に介さず、わざと大きな声で答える。 「何を心配してるの?あの人は耳が聞こえないんだから!私がどれだけ叫んだって、気づきっこないわよ!」 そう言うと、彼女はわざと数回声をあげた。 前世、死ぬ間際に朧げに聞いた綾音の名前。 でも、自分の耳ではっきり聞くのは初めてだった。 まるで雷に打たれたような衝撃だった。聞こえるというのも、時には残酷だ。 過去の甘く温かい記憶が、ガラスのように砕け散る。破片は心に突き刺さり、胸が締めつけられる。 思い返せば、もともと私の結婚相手は颯真ではなかった。 だけど、あの事故が人生を狂わせた。 颯真は当時珍しい大学生で、背が高くてハンサムだった。大学卒業後に工場へ技術者として配属されると、たちまち女性たちの注目を浴びた。 その頃、私は絵が得意で、工場の宣伝係をしていた。 颯真とは関わることがないと思っていたけど、ある日、彼がやってきて「広報用の掲示板を描いてほしい」と頼まれた。 そのときだった。彼と掲示板を描きに行った先で、古い木が突然倒れかけてきた。 私は彼を突き飛ばして助けたが、枯れ木の破片が私の頭を打ち、聴力を失った。 そのせいで決まっていた婚約話は白紙に戻り、すべてが変わった。 それでも颯真は、「自分が責任を取る」と言ってくれた。そのときの私は、彼に心から感謝していた。 でも、前世で彼と生涯を共にした末、死の間際にようやく気づいた。彼は綾音と裏で関係を持っていたのだと。 それも、こんなにも早い段階からだったなんて。 道理で、息子が小さい頃から綾音の家ばかりに行きたがったわけだ。 当時、私は綾音が息子をよく面倒見てくれることに感謝していたのに。 思い出すのは、死の直前に聞いたあの会話―― きっと、あの子も私を裏切っていたんだろう。 でも、今世は違う。あの子が生まれることすらない。 私は絵を抱えて、迷わず部屋を出た。 出る直前、隣の部屋からまだあの二人の声が聞こえてくる。 私が動いたことなど、彼らにはどうでもいいらしい。 その方がいい。これ以上、あの二人に気を遣う気もない。 聞こえないフリをしながら、私は郵便局へ向かい、絵を青年美術大賞に送った。 これが、私が人生を変える唯一のチャンス。 この絵が、重い扉を打ち破り、私の未来を輝かせる星となることを願ってやまない。 絵筆と勇気で、新たな人生の扉を叩くのだ。 実は、絵を描くのは子どもの頃から大好きだった。 その才能のおかげで、工場では例外的に宣伝係に抜擢されたほどだ。 本来なら、もっと明るい未来が待っているはずだった。 でも、あの事故のせいで、私の世界は静寂に閉ざされた。 それ以来、私はすっかり無口になった。 そんな私を引き戻し、心の中に光を灯してくれたのが、颯真の「責任を取る」という言葉だった。 そして生まれたのが、この「星空」だった。 前世では、この絵を描き上げたあと、真っ先に颯真に見せに行った。 でも彼は大して興味を示さず、ただ淡々と頷いただけだった。 結婚後、この絵をリビングに飾ろうと思ったけれど、颯真は「いらない」と手を振った。 結局、この絵は台所のテーブルの隅を支えるための板として使われ、 やがてカビと油汚れで、元の美しさがわからなくなった。 長い結婚生活の中、一度だけ美術界の大家がこの絵を目にしたことがある。 彼は日付を見て惜しんでくれた。 「もしこの絵が当時の青年美術大賞に出品されていたら、確実に賞を取っただろう」 なんと、その人は当時の審査員だったというのだ。 でも私は、家事に追われる変形した手で、もう絵筆を持つことすらできなかった。 若い頃の夢も、家事や育児の忙しさに埋もれてしまった。 今、私は心から感謝している。 天が与えてくれたこのチャンスを。 前世の後悔も過ちも、すべてやり直すことができる。 今ならまだ、取り返しがつくのだ。 工場に戻り、寮に帰った。 この寮は、颯真との結婚を前提に特別に割り当てられたものだった。 部屋のドアを開けた瞬間、ちょうど颯真と綾音が中から出てきた。 二人とも服装は整っているが、髪は少し乱れ、顔には赤みが差し、首筋には微かな赤い跡。 普段の颯真の冷静な印象や、綾音の上品な雰囲気を知る人が見たら、 まさかこの二人が不倫しているなどとは思わないだろう。 颯真は私を見ると軽く頷き、道を開けた。 綾音も微笑んで挨拶をしてきたが、その口からは「この役立たず」と毒のある言葉が漏れる。 私は感情を抑え、いつも通りの無表情で、何も聞こえていないふりをして頷き、部屋に入った。 部屋の中は、まだ不快な匂いが漂っている。 その瞬間、吐き気が込み上げ、たまらず声を上げて戻してしまった。 「まったく、運が悪い......」と、颯真が舌打ちしながら綾音を部屋から追い出し、自分は私の後始末に入った。 綾音は去り際に、振り返りざまこう吐き捨てる。 「役立たず、どうせなら吐いて死んじまえばいいのに!」 以前の私は、彼女とそこそこ仲が良いと思っていた。 綾音は、亡くなった父の戦友の娘だ。高校卒業後、なかなか仕事が見つからず、私の父に頼み込んで工場の放送係の職を得た。 私が耳を悪くしたときも、彼女は「世話をしてくれる」と言って、わざわざ顔を出してくれていた。 そのときの私は、彼女が本当に親切な人だと信じていた。 でも今となっては、彼女がそうしたのは颯真に近づくためだったのだと気づいた。 きっと前世でも、私が聞こえないのをいいことに、こんな毒のある言葉をたくさん浴びせていたに違いない。 私は両手でお腹を抱え、体を震わせて嗚咽を漏らしながら泣いた。 涙は止まることなく流れ落ち、まるで前世で溜め込んだ全ての苦しみを吐き出すかのようだった。 颯真が私を気遣うように近づいてきたが、私は彼を一気に突き飛ばした。 汚い! 第2話 颯真は私の態度に戸惑い、「俺が汚れるのが嫌なのか?」と勘違いしたらしい。 彼は慌てて「大丈夫だ」と言い、優しく温かいタオルで私の体を拭いてくれた。 私をベッドに横たえ、吐いてしまった床を黙々と片付け始める。 前世も今世も、彼はいつだってこんなふうに気遣いを見せる。 その優しさは、まるで暖かな陽だまりのようだった。 だからこそ、前世の私は深く彼にのめり込んでしまったのだろう。 だが、今世は違う。この程度の優しさに心を奪われるほど私は甘くない。 音が聞こえるようになった今、彼の行動は偽善にしか見えない。 気持ち悪さしか感じないのだ。 私はできるだけ颯真との距離を取ろうとするが、彼は私がまだ具合が悪いのだと思い込み、「病院に行こうか?」と聞いてきた。 私は疲れたように首を横に振り、休みたいとだけ伝える。 彼は「何かあったらすぐ呼んでくれ」と言ってから部屋を出て行った。 彼の背中が見えなくなったその瞬間、私は冷たい目で彼を見つめた。 これでよし。あとは大会の結果を待つだけだ。 結果が届いたら、すぐにここを出て行く。 二度と戻らない。 この汚らわしい人間たちと、汚らわしい出来事は、すべて消えてしまえ。 重い疲労感と激しい感情に押しつぶされるように眠りにつき、次に目を覚ましたときには、外は真っ暗だった。 部屋には明かりがなく、颯真はまだ帰ってきていないようだった。 そんなとき、外の庭から近所の馬場さんの声が聞こえてきた。 「藤原さん、また美遥(みはる)さんを見に来たの?」 それに答える颯真の声も聞こえてくる。 「美遥が今日は具合が悪いからね。俺ひとりじゃ手が回らない。だから綾音に来てもらったんだ」 「藤原さんは本当に親切ねえ!」 「いえいえ、美遥さんのお父さんにはいろいろお世話になってますから、これくらい当然です」 軽い挨拶を交わすと、二人は庭に入ってきた。 彼らは「私の世話をする」という名目でここに住みついているが、実際には一度も私の様子を見に来たことがない。 父は私が結婚後も住みやすいようにと、元の家を売り、小さな家を買い足してこの小さな庭付きの家を整えてくれた。 自分は寮に移ることで私たちのためにスペースを確保してくれたのだ。 この家は二部屋で、颯真と私は別々の部屋を使っている。 彼らが家に入る音が聞こえた後、すぐに施錠する音がした。 そして、颯真の部屋に急ぐ二人の足音が続いた。 そのあとの動きは、静まり返った家の中ではっきりと聞こえてしまう。 どれだけ急いでいるのか、呆れるほどだった。 颯真という男が、どうしてこんなに下劣になれるのか、私には理解できなかった。 表では誠実そうに装いながら、裏でこんなことをしていて疲れないのだろうか? しばらくして、颯真の声が聞こえてきた。 「もう少し静かに......美遥には聞こえないけど、隣の家にはまだ人が住んでいるんだぞ」 それを聞いた綾音が、小声で答える。 しばらくすると、二人はようやく動きを止めた。 「綾音、こうして隠れてしか迎えられないのは、本当に申し訳ない」 颯真の甘い声が聞こえてきた。 「いいのよ。あなたの心が私にある限り、何も気にしないわ」 気にしない? あの前世で、あの親子が私の命を奪おうとしたのに? 「それに、美遥がいなかったら、私たちがこんなに良い家に住めるわけがないじゃない」 「もうすぐ市の劇団で研修があるの。それに参加する枠、取ってもらえないかな?」 「そうだな。頼んでみるよ。工場長の娘婿なんだから、断られるはずがない」 「ええ、今のうちに美遥のお父さんを利用して、全部手に入れておきましょう。彼がいなくなったら、家も財産も全部私たちのものよ」 綾音の声には、隠しきれない貪欲と期待がにじみ出ている。 「綾音、苦労をかけるけど、彼女が持っているものはお前も全部持つ。彼女にないものも、お前には必ず手に入れさせるよ」 颯真が優しく彼女を慰める声が聞こえる。 この瞬間、私の中にあった疑問がすべて答えを見つけた。 道理で、前世で私たちが結婚して間もなく、綾音が劇団に入団したわけだ。その後、彼女はドラマにも出演し、いつしか有名な女優になっていた。 颯真も高級技術者となり、二人は名実ともに社会的成功を収めた。 私たちの金婚記念日で、二人は洗練された服を着こなし、堂々とした姿で立っていた。まるで完璧な夫婦のように見えたのを覚えている。 一方の私はというと、年老いてみすぼらしく、新しい服を着ても家事に疲れた主婦の雰囲気を隠せなかった。 まるで家政婦のようだった。 なんという綿密な計算だったのだろう。 ただ、前世の私はあまりにも愚かだった。これほど明白な矛盾を見抜けなかったのだから。 いや、むしろ前世では何度も真実に近づいていた。 一度など、真実は目の前にあったはずだ。 あれは、息子がまだ五歳だったときのこと。帰宅するはずの時間になっても姿が見えず、私は学校に駆けつけた。 しかし、誰も彼を見た者はいなかった。 子どもがいなくなったと思い込み、颯真や近所の人に助けを求め、彼を探しまわった。 私は長らく耳が聞こえず、話す機会も減ったせいで、言葉をうまく発せられなくなっていた。 そのため、子どもを探すことは想像以上に困難だった。 その日、雨の中で私は雨に濡れた段ボールを持ちながら、一軒一軒と扉を叩いて回った。 そして、ようやく綾音の家にたどり着いたとき―― そこには、颯真と息子が、綾音と一緒に食卓を囲んでいた。 彼らは楽しそうに談笑し、まるで本当の家族のように見えた。 一方の私は、泥まみれでボロボロ、靴を失くしていたことすら気づかなかった。 雨に打たれてずぶ濡れの惨めな姿で、ただそこに立ち尽くしていた。 当時の私は、失った息子を見つけた喜びでいっぱいだった。 しかし、息子の顔に浮かぶ苛立ちと、私を拒む小さな手には気づかなかった。 それに、颯真の目に一瞬だけ現れた厄介そうな表情や、綾音の目に浮かぶ侮蔑と嘲笑も。 すべてを見ていたはずなのに、当時の私は彼らが私を「耳が聞こえない役立たず」だと思っているだけだと考えていた。 裏切られているとは、思いもしなかったのだ。 その後、颯真は息子を連れて私と一緒に家に戻った。 彼は「家に探しに行ったけどいなかったから、メモを残しておいた」と説明した。 だが、そのメモはどこにも見つからなかった。 おそらく風でどこかへ飛ばされてしまったのだろう。 当時の私にとっては、それは大したことではなかった。 けれど、もしあのとき真実に気づいていれば、私は惨めな最期を迎えずに済んだのではないか―― そう考えた瞬間、前世の金婚記念日の出来事が脳裏をよぎる。 私は思い出した。 あの日、私を階段から突き落としたのは、息子だったのだ。 息子の険しい顔、迷いのないその手―― その光景を思い出すだけで、私は感情を抑えられなくなった。 不意に手が滑り、ベッド脇の椅子に置いてあったマグカップを倒してしまった。 その音を聞きつけ、隣の部屋で慌てる物音が聞こえる。 颯真が急いで服を整えながら部屋に入ってきた。 「パチッ」と、彼が電気のスイッチを引っ張り、薄暗い照明が部屋を照らす。 ベッドに腰掛け、無表情の私を見て、颯真は近づき私の額に手を当てた。 熱がないことを確認すると、紙とペンを取り出し、「何かあったのか?」と書いて見せる。 私は唇を噛みしめ、両手をぎゅっと握りしめた。 彼らは、私の命までも計算に入れていたのだ。 これ以上、耐え続ける私こそが馬鹿だったのだ。 私は立ち上がり、思い切り腕を振り上げると―― 「バチンッ!」 そのまま颯真の顔に平手打ちをお見舞いした。