行き過ぎた愛

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朝倉隼人(あさくらはやと)と一緒に同窓会に参加したら、みんなに聞かれた。 「ねえ、結婚はいつなの?」 「まだ決めてない」 「10月1日」 ...

Chương (1)

第1章

朝倉隼人(あさくらはやと)と一緒に同窓会に参加したら、みんなに聞かれた。 「ねえ、結婚はいつなの?」 「まだ決めてない」 「10月1日」 私たちは同時に口を開いた。彼はびっくりしたように顔を上げて、私をじっと見た。目に浮かんでいたのは困惑と苛立ち。 彼の視線を無視して、私は顔をそらしながら真面目に説明した。 「10月1日に結婚するよ。よかったら来てね」 彼が何を聞きたいのかは、わかってる。付き合って8年、一度も結婚の話なんて出たことがなかった。 「結婚のこと、もう少し考えようって言ってただろ?そんな風に結婚を迫って、楽しいのかよ?」 彼は私を人目のつかない隅に引っ張っていき、顔を真っ赤にして怒鳴った。私は彼の手を振り払って冷たく言う。 「あんたが待ちたいなら勝手に待てば?私は私で、結婚するだけ」 彼はもうとっくに私に飽きて、若い女の子を見つけて浮かれていた。うまく隠しているつもりだったけど、バレバレだよ。 幸いなことに、私が結婚する相手は――彼じゃない。 第1話 お正月に帰省して、大学の同級生たちが集まることになった。すでに何人もが結婚していて、子ども連れの人もちらほら。 私と隼人がまだ結婚していないと聞いて、幹事の萩原治(はぎわらおさむ)は不満げに言った。 「いつになったら俺たち、二人の披露宴に呼ばれるんだ?」 「まだ決めてない」 「10月1日」 ほぼ同時に口を開いた。隼人は眉をひそめ、あからさまに不機嫌な顔で私を見てくる。疑問と困惑が入り混じった視線だった。 そりゃそうだよね。だって、私たち、結婚の話なんて一度もしてないんだから。 実は2年前に一度だけ私から切り出したことがあった。その時、彼は「仕事が忙しいから、落ち着いたら考える」って言ってた。それ以来、私は何も言わなかったし、彼もそのまま忘れたふりをしていた。 私たちの答えが食い違ったことで、周囲はざわつき、視線が集まった。 「え、まだちゃんと話してないの?隼人、男ならちゃんとリードしないと」 萩原くんが笑って場を和ませようとした。私は彼の視線を振り切って、真っ直ぐ萩原くんたちの方を向いて、にっこり笑って宣言する。 「10月1日に結婚するよ。よかったら来てね」 場が一瞬静まり返り、それから萩原くんが我に返ってお祝いの言葉をかけてくれた。ついでに隼人に茶化すように言う。 「隼人、秘密にしてた?けっこうケチだなあ」 「ほんとほんと、俺たちを呼ぶ気なかったのか?」 男友達が冗談混じりに笑いながら言う。隼人は愛想笑いを浮かべて耐えてたけど、私はまるで他人のように静かに座ってた。横目で見れば、彼は何度も私の方を見ていた。何か言いたそうに。 でも、私にはもう説明するつもりはなかった。というか、その必要もない。 話題は自然と学生時代の恋バナへと移っていく。 「大学の新歓パーティーのとき、結月(ゆづき)が真っ赤なワンピース着ててさ。まるで咲き誇るバラみたいで、俺ら全員、目が釘付けだったよな」 「そこで隼人が『俺、絶対あの子を落として、結婚する!』って宣言したんだよな」 「俺たち、全員で隼人の恋を応援してたっけ」 「こんだけ長く付き合って、ようやくゴールインだもんなぁ。ほんと、よかったよ」 隼人の友達は、当時の思い出話に花を咲かせていた。 けれど、肝心の隼人は、どこか上の空だった。何か言いかけて、口をつぐむのを繰り返していた――まるで、何もかもが手遅れだと気づいているみたいに。 お酒もまわってきた頃、ふとした隙を突いて、隼人が私の腕をぐいっと引っ張り、個室から無理やり連れ出した。そして廊下の壁に私の身体を押しつける。 「結婚のこと、もう少し考えようって言ってただろ?そんな風に結婚を迫って、楽しいのかよ?」 彼の顔は怒りに染まっていて、私の手首をぎゅうっと握りしめていた。その力は、まるで骨がきしむほどに強い。 「あんたが待ちたいなら勝手に待てば?私は私で、結婚するだけ」 「ハッ……」 隼人は鼻で笑い、目に嘲りの色を浮かべながら吐き捨てる。 「俺は結婚なんかしたくねえんだよ。どんな手使っても、俺を縛ることなんてできないからな」 痛みに耐えながら、私は思い切り力を入れて彼の手を振り解いた。 「隼人、離して」 「いいよ、離してやる。その代わり、今すぐ戻って、みんなに言ってこい。『10月に結婚』なんて、ただの冗談だったってな」 「勘違いしないで。私が結婚するのは……あんたとは関係ないの」 第2話 彼は一瞬固まった。 その隙に、私は自分の手をすっと引き戻した。 「駆け引きか?俺に未練持たせて、注目集めたいわけ?結局あとで自分が恥かくだけだぞ。俺は絶対に乗らないからな」 「そういう心配は、しなくていい」 私は手首をさすりながら、背を向けた。 「……それ、どういう意味だよ?何だよその態度、別れたいなら、そう言えばいいだろ!」 彼は後ろから私の腕をつかみ、怒りで目を見開いていた。 私は静かに立ち止まり、振り返って彼の顔を見つめた。 「……私たち、もうとっくに終わってるんじゃない?」 ……そう、私の中では、もうとっくに終わっていたんだ。 3ヶ月前、偶然ネットで彼の投稿を見つけた。内容は、こんな感じだった。 「もう7年も付き合ってる。あの日、夜遅く帰宅したら、彼女がリビングのソファで寝てた。俺の帰りに気づいて、ぼさぼさの髪をかき上げながら、眠そうに目をこすって『二日酔いのスープ作ったよ』って言った。その姿に、なんだか急に冷めた。昔は女神だったのに、今じゃただの気を抜いた女……でも、俺たちもう長いし、共通の友達も多いし、そう簡単に別れられない。苦しい」 投稿されたのは、ちょうど一年前。 つまり――彼はもう一年以上も前に、私に飽きてた。 もちろん、私も何となく感じてはいた。ここ一年、彼は明らかに変わった。優しさも余裕も、どこかへ消えてしまっていた。 最初は、仕事が忙しいせいかと思ってた。 でも、そのうち気づいたの。彼は、会社に入ったばかりのインターンの子と仲良くしていて、堂々とその子を連れて飲み会や友人の集まりに出ていた。 一度パーティーで彼とその子に出くわしたときも、彼は軽く言い訳して済ませた。 「新人の女の子で、世間知らずだからね。ちょっと見聞広げさせてるだけ」 私は何も言わなかった。怒鳴りもせず、問い詰めることもなく、ただ小さく頷いた。 「……そう」 その子はというと、まったく怯むことなく彼の腕にしがみついたまま、満面の笑みで言ってきた。 「あなたが結月お姉さんですね?隼人さんがよく話してましたよ」 挑発的な笑みを浮かべていて、しかも彼にとても可愛がられているのが一目でわかった。 私はこっそり、その子の情報を集めたことがある。 名前は――藤咲りお(ふじさきりお)。21歳。明るくて派手な美人で、自信満々。周囲の人は口を揃えて言った。 「中身も外見も、家柄も学歴も、全部結月には敵わないけど……唯一勝ってるのは、あの溢れる若さだね」 私はもうすぐ28歳。若さ、なんて言葉は、とうに手のひらからこぼれ落ちていた。 その現実を突きつけられたとき、私はぼんやりとした絶望に沈んだ。心がひりひりと痛んで、未来がまるで見えなくなった。 でも――あの投稿を見た瞬間、ようやくわかったの。 原因は、あの子じゃない。彼が求めているのは「新しい刺激」だったの。彼女じゃなければ、別の誰かが現れるだけ。 ある日また、彼が私に意味もなく当たり散らしたとき、私は静かに「別れよう」と言った。 彼は、私が拗ねてるだけだと思ったのか、吐き捨てるように言った。 「なら勝手にしろ。出てけよ」 本気で別れる決意をしていたはずなのに―― 「出てけよ」 あのとき隼人にそう怒鳴られた瞬間、涙はどうしても止まらなかった。 彼は、冷ややかな目で私を見ていた。まるで、邪魔な何かを見るような目で。 私は泣きながら家を飛び出した。 後で荷物を取りに戻ったとき、たまたま彼と友達の会話を聞いてしまった。 「おい、隼人、お前の方から歩み寄れよ。もう8年の付き合いなんだからさ」 「彼女が自分から出て行ってくれれば、それはそれで助かるよ。そしたら堂々と、りおと付き合えるだろ」 淡々と話すその声に、私は胸が締めつけられた。 「お前さ、結月のこと、2年もかけてようやく口説き落としたんだろ?それを簡単に捨てるのかよ?」 「だからって、まさか彼女を拝み奉るわけ?もうとっくに気持ちは冷めてるんだよ」 「……お前、自分がクズだってわかってる?」 隼人は椅子にだらりと身を預け、吐き捨てるように笑った。 「長いこと付き合ってやっただけ、俺は充分誠意を見せたって思ってる。ちょっとキツく言っただけで、すぐに別れるって騒ぐなら、放っておけばいいんだよ。少し反省すれば戻ってくるって」 「もし戻ってこなかったら?」 隼人は鼻で笑った。 第3話 「心配するな、彼女は戻ってくる。まあ、もし本当に出て行ったら、むしろありがたい。りおにはもうずっと待たせてるし、そろそろ二人の関係をはっきりさせたいしな」 「……お前、マジで最低だな」 他の男たちも呆れたように首を振っていた。 隼人は一本のタバコに火をつけ、煙をゆっくり吐きながら、ぼそりと呟いた。 「8年も経てば、そりゃ飽きるだろ……それにさ、アイツ、ベッドじゃマグロだし。やっぱり、りおの方がいいんだよ」 その瞬間、私は拳をぎゅっと握りしめていた。長い爪が手のひらに食い込んで、赤い痕を残しても、痛みなんて感じなかった。 ……そのあと、私は黙って家を出て、自分の荷物をすべて整理して、故郷に戻った。 別れたことは、彼とその周囲の数人しか知らない。だけど、誰も気にしていなかった。 私が実家に戻っている間、彼はりおと年越しを迎え、スイスでスキーをし、ニュージーランドで旅行までしていた。 でも、私だってただ泣いてたわけじゃない。お見合いにだって何度も足を運んだ。 この3ヶ月、私たちは一度も連絡を取らなかった。 ――そして、萩原くんから、同窓会の案内が届いた。 私と隼人、ふたり揃っての参加が求められたから、仕方なく連絡を取ることになったのだ。 「……は?」 隼人が声を荒げた。今さら、本当に今さらの反応だった。 「別れるだって?おい、結月、冗談も大概にしろよ!」 「冗談じゃないよ。もう3ヶ月以上前に、私たち別れてるでしょ?あんたもあのとき、何も言わなかったじゃない」 私がそう言うと、彼はその場で固まった。どうやら、まだ実感がなかったらしい。 だけど、私には関係なかった。 しばらくして、彼はようやく口を開いた。 「……は?お前がそう言ったからって、即・別れるってわけ?」 これ以上かかわりたくない。私はさっさと背を向けた。 その背中に向かって、彼の怒鳴り声が飛んできた。 「いいだろ!!そっちがその気ならもう知らねえよ!この先、『より戻したい』とか言ってきたら、そいつがクズだかんな!!」 私は黙って、再び同窓会の会場に戻った。 みんなの顔がパッと向く。 「結月ちゃんって、ほんとに羨ましいよね~。隼人くんと、何年もラブラブでさ~」 ……もう、はっきりさせよう。 「ごめん、みんな。私と隼人は、もう別れてるんだ」 その言葉が落ちた瞬間、時間が止まったかのようだった。 「えっ……?」 「ウソでしょ?二人が別れたって?」 「どういうこと?いつの話?」 「付き合ってみたら、合わなかっただけ。それだけのことだよ」 なるべく淡々と、あくまで大人の対応でそう返した。すると、そこに隼人が入ってきた。 「そうそう、別れたんだよ。俺の方から、な」 ……くだらない。 私は反論する気にもならなかった。今日ここに来たのは、ただ一つ。周りの人たちに、私たちはもう終わったんだって、きちんと知らせるため。 それが済んだなら、もうここにいる意味はない。 私は静かに立ち上がり、バッグを手に取った。 「みんな、今日はありがと。ちょっと先に失礼するね」 「えっ?ちょっと待って、さっきのケンカのせいでしょ?隼人、ほら、追いかけなよ!」 「結月ちゃん、あれ、本気だったんだな……」 「おいおい、何してんだよ、早く追えって!」 「結月!待って!隼人、ほんとに反省してるの!」 数人が慌てて隼人を押し出すけど、彼は明らかに乗り気じゃない。ようやく渋々立ち上がり、のろのろとついてきた。 何人かの同級生も私の後ろに追いついてきた。 「結月ちゃん、何か誤解があるんじゃない?8年だよ?そんな簡単に別れるなんて、もったいないって!」 私は足を止め、はっきりと告げた。 「誤解じゃないよ。本当に、もう終わったの。3ヶ月も前に、ね。お互い元気にやってる。だけど、それぞれ別の道を行くって決めただけ。 ……私、10月1日に結婚するから。そのとき、招待状送るね」 その時―― エレベーターが開いた音がして、スーツ姿のスラリとした男性が降りてきた。私はその姿を一目見て、自然に笑顔になる。 彼の方へと向き直り、後ろにいた同級生たちに言った。 「私の婚約者が迎えに来たの。みんなはゆっくり楽しんでてね」 場が静まり返る。 「えっ……今の人が……?」 同級生たちはぽかんと口を開け、言葉を失っていた。 「結月、君の友達?」 彼は私のそばまで歩いてきて、自然に私の手を取った。 私は紹介しようと口を開きかけた、その瞬間―― 「結月!!」 後ろから、怒鳴り声が響いた。 「……お前、そいつとどういう関係だ!」 第4話 隼人の顔は真っ赤で、こめかみに青筋が浮かび上がっていた。あの目は――怒りを抑えきれない、暴発寸前の火山のようだった。 「結月、その人って……」 「え、ちょっと紹介してよ!」 「ほんとに婚約者なの?」 「めっちゃイケメンじゃん……ていうか、芸能人よりカッコよくない!?」 女の子たちがワイワイ盛り上がる中、男たちは静かに言葉を失って、私たちの様子を観察していた。 私は隼人の刺すような視線を完全にスルーして、慎也と繋いだ手を高く掲げた。 「私の婚約者、藤沢慎也(ふじさわしんや)よ」 慎也は軽く頷きながら、優雅に一礼する。 隼人の目が見開かれ、顔がこわばっていく。頬の筋肉がピクピクと震えて、今にも何か叫び出しそうな表情で私を見ていた。 そして、ついに爆発。 「はぁっ!?そいつが婚約者?じゃあ、俺はなんなんだよ! 8年も一緒にいたのに、俺は何だったんだよッ!!」 その言葉は、もはや怒鳴りというより、噛み殺すように吐き捨てられた。 「元カレ、だよね」 静かに、でも鋭く。女の子の中から近藤夏目(こんどうなつめ)が目を細めて返した。彼とりおの関係を知ってる子は、何人かいたのだ。 「……黙れよ、誰が口出していいって言った!」 顔を真っ赤にした隼人が怒鳴り返し、私に詰め寄ろうとした――その瞬間、萩原くんが素早く前に出て止めた。 「隼人、落ち着けって!言葉に気をつけろ」 そして、気まずそうに慎也へと会釈する。 「邪魔すんな!アイツが……あの男が結月の手を握ってるんだぞ!?これって、俺に対する裏切りじゃないのか!?」 「さっき自分で『別れた』って言ってたじゃん。相手は婚約者だよ?あんた、何の立場で怒ってんの?」 夏目がニヤリと笑いながら口を挟む。 萩原くんが再び宥める。 「隼人、お前本当に飲みすぎだって。一回中で水でも飲んできな」 「……は?分かれてねぇよ。ちょっとケンカしただけだっつーの!」 隼人は現実を受け入れられないまま、私と慎也を指差した。 「そっちの男!お前は誰だ!?結月とどういう関係だよ!?」 慎也は落ち着き払った表情で、人々に向き直った。 「藤沢慎也と申します。結月の婚約者です。皆さんにお会いできて光栄です」 静まり返る空間の中、萩原くんの隣にいた男子がひそひそ声でつぶやいた。 「藤沢慎也……なんか聞いたことある名前だな」 「俺も。どっかで見たことある気がする」 慎也は一枚の名刺を取り出し、丁寧に萩原くんに手渡した。 「また改めてお会いできれば。今日はこれで失礼します」 萩原くんは「もちろん」と頷き、私たちをエレベーターまで見送ってくれた。 ――と、その背中に。 「ハッ、笑わせんな……婚約者?誰がそんなの信じるかよ。俺以外に、お前みたいなのを欲しがる男がいると思ってんのか? どーせ、その男に演技してもらって、俺に結婚迫ろうってんだろ!?そんなの通用しねーよ!」 ……もう、何も感じなかった。 怒鳴り声も、皮肉も、疑いも。私の中には、何も響かない。 もう彼に対する感情は、とうの昔に尽きていた。 あの無数の悲しみの夜を通り越えて、今の私はもう、彼をただの他人としか思っていない。 「あと2年だけ、待てって言っただろ――」 隼人がまた私の腕を掴もうとした瞬間、慎也が私の肩を抱き寄せ、静かに、でも鋭く言い放った。 「お前……何様のつもりだ?」 その声は低く冷たく、空気が一瞬で凍った。 まるで、王の風格そのままに、慎也の圧に誰も言葉を出せなかった。 隼人は口をパクパク動かすばかりで、一言も返せない。 「俺たちの結婚式は、10月1日。場所は海都エンパイアホテル。ぜひ、皆さんでお越しください」 エレベーターのドアが閉まる直前、外から声が聞こえてきた。 「……藤沢慎也!?今思い出した!!」