六十六回許した末、私はサヨナラを告げた

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六十六回許した末、私はサヨナラを告げた

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葛城文宏(かつらぎ ふみひろ)は私と結婚するために、66回もの旅先プロポーズを企画した。 67回目で、私はついに彼の想いに心を打たれた。 結...

Chương (1)

第1章

葛城文宏(かつらぎ ふみひろ)は私と結婚するために、66回もの旅先プロポーズを企画した。 67回目で、私はついに彼の想いに心を打たれた。 結婚式の翌日、私は66枚の許しのカードを用意した。 彼が私を怒らせる度に、このカード1枚で許してあげるという約束だった。 結婚して6年、彼の幼馴染のせいで私を怒らせるたびに、彼は許しのカードを1枚ずつ使っていった。 64枚目を使った時、文宏は私の様子がなんだか変だと気づくようになった。 私はもう、彼に気に掛けることも、彼を頼ることもなくなった。 ただ、彼がまた幼馴染のせいで私を放っておいて出かけようとした時、私は彼の手を掴んで尋ねた。 「彼女に会いに行くなら、許しのカードを使っても構わない?」 文宏は足を止め、困ったように私を見た。 「好きに使えばいいだろ?あんなにあるんだから」 私は静かに頷き、彼の後ろ姿を見送った。 彼はまだ、許しのカードが限りなくあるものだと思っていた。 しかし、残りあと2枚しかないことを、彼は知らなかった。 第1話 今日は、会社の最も重要な取引先が主催したパーティーだった。 それは私が子宮外妊娠手術を受けてから、7日目でもあった。 しかし、葛城文宏(かつらぎ ふみひろ)の幼馴染、桜井静香(さくらい しずか)が、その場で相手方の担当者の服にケーキをぶつけてしまったのだった。 文宏は、まず彼女に「大丈夫か?」と声をかけた。 それから、私に視線を向けた。 「葵、井上社長に謝罪しろ」 私は驚いて彼を見つめた。 担当者は服についたケーキを拭きながら、みるみる怒りを募らせていった。 「謝るべき人間が本当は他にいるにもかかわらず、御社には責任転嫁の習わしがあるようだね」 それなのに、静香は目に涙を浮かべ、文宏に寄りかかっていた。まるで、自分が被害者であるかのように。 文宏は彼女を抱きしめ、険しい表情で私を見た。 「何をぼうっとしているんだ!早く謝れ! とりあえず、井上社長にお酌しろ。この取引は何があっても、失敗させるわけにはいかないから」 彼は私が子宮外妊娠の手術後にお酒が飲めないということを忘れていた。 あるいは、私の体のことを気にも留めていなかったのかもしれない。 静香は勝ち誇ったような挑発的な目線で私を見てきた。 彼女は、文宏が私を突き出すことを知っていたのだ。 そして、彼が必ず自分を守ってくれること、傷つけないことも分かっていた。 私は当然彼女のミスを庇うつもりはなかったけど、文宏が突然私の耳元で囁いた。 「許しのカード、1枚だ」 あの時、彼は私と結婚するために、66回もの旅先プロポーズを計画してくれた。私もその度に彼からの深い愛情を感じ取ることができていた。 そして67回目、家族や友人に祝福されながら、私はようやく彼のプロポーズを受け入れた。 「葵、お前を愛している!もし俺がお前を裏切ったら、天罰が......」 彼が言い終える前に、私は彼の口を手で覆った。 彼が跪いて誓う姿に心を打たれ、私もその気持ちを受け入れようと思った。 彼の66回のプロポーズに応えるため、私は友人に頼んで66枚の許しのカードを作ってもらった。 そして彼に「許しのカードを全部使いきったら、あなたとは別れるからね!」と言った。 結婚して5年間、文宏は許しのカードを大切に保管し、私が怒ってカードを使うことを恐れていた。 しかし、彼の幼馴染が海外から帰国してから、わずか1年で63枚も使われてしまった。 そして今回が、64枚目だった。 私は体を震わせ、腹部の痛みをこらえながら、担当者の方を見た。 「井上社長、このような事態になってしまい誠に申し訳ございませんでした」 担当者は私をチラッと見て、仕方なさそうに首を横に振ったが、特に責めようとはしなかった。 私が頭を下げ謝っている時、文宏が静香の髪を優しく撫でおろしているのが見えた。 「次は気を付けるんだぞ。テーブルにぶつかったら怪我をするからな」 「はいはい、相変わらず心配性だね」 相変わらず? 腹部の傷の痛みが広がり、私は顔が青ざめてきた。 もう少しだけ我慢しよう。 彼には、あと2回しかチャンスが残されていないんだから。 パーティーの後、私は文宏の後をついて、早く帰りたかった。 しかし、彼が静香と一緒に佇んでいた姿は、あまりにも絵になるようで、まるで誰もが羨むカップルのようにも見えた。 文宏は振り返って、冷たい表情で私を見ながら、ゆっくりと口を開いた。 「静香が足をくじいた。病院に連れて行くから、お前は一人で帰れ」 彼は、私もまだ怪我をしていることをすっかり忘れているようで、その目には静香を心配する気持ちが溢れていた。 前までの私なら、自分も痛いと訴えて、一緒に病院へ連れて行ってもらえるようお願いしたかもしれない。 そして、泣きながら、悪いことをしたのは自分じゃないのに、なぜ謝らなければならないのかと彼に詰め寄っただろう。 しかし今は、ただ静かに頷くだけだった。 「分かった」 文宏は息を吐き出し、表情を和らげた。 「葵、一人で帰る時は気を付けるんだぞ」 第2話 それを言い終わるとすぐに、静香は彼の腕に絡みついてきた。 「文宏、足が痛いの。早く行こう?」 文宏のスーツを羽織り、華奢な体で彼に寄りかかっていた。 痛みのあまり青ざめている私を気にする様子もなく、文宏は静香を抱き上げて助手席に乗せた。 「ちゃんと座って、怪我したところに触らないように」 彼が全て済ませて車を発進させようとした時、ようやく私の存在に気づいた。 取ってつけたかのように「俺たちは幼馴染だから、彼女を妹のように思っているんだ。お前は先に帰ってくれ」と言った。 私はクスっと笑った。 「ええ、妹ね」 彼が私が怒っていると勘違いしないように、私は付け加えた。 「許しのカードも使ったし、私のことは気にしないで」 文宏は何か言いたそうだったが、静香が「痛っ」と声を上げると、彼は慌てて振り返った。 「じゃあ、もう行くよ」 そう言って、文宏は車を走らせた。 ホテルのエントランスに取り残されてしまった私は、思わず上着の襟を引き締めた。 家に帰ってから、私はサイドテーブルから許しのカードを取り出した。 かつて文宏が金庫にしまっていたカードは、今や無造作にテーブルの上に置かれていた。 64枚目の許しのカードに印鑑を押し、私は前から準備していた離婚協議書を探し出した。 知り合いの弁護士がいなくて困った私は、一層のこと大学の教授に連絡した。 「先生、離婚したいのですが、おすすめの弁護士さんはいらっしゃいますか?」 教授は驚いた様子だった。 「誰が離婚だって?君か? 君たちが付き合った時は、大学中で大騒ぎになったじゃないか。まだ数年しか経っていないのに、どうしたんだ?」 教授も、プロポーズの現場に居合わせた一人だった。 なぜ、あの頃に戻れないのだろう。 それは彼が他の人のために、私を置いていくようになってからかな。 はたまた、彼と静香が一緒にいる時、いつも二人の思い出話ばかりで、私が入り込む隙がなくなってしまった時からかもしれないし。 彼と静香が、何のためらいもなく同じベッドで寝るようになってからかもしれない。 恋愛において、第三者の存在は一番あってはならないのだ。 だから私たち二人は、もうそれぞれの道を歩くようになり、もう元には戻れないのだ。 それを聞いて、教授はため息をついた。 「安心しなさい。後で、弁護士に連絡させるから、何かあれば、彼に相談すればいい」 私は残り2枚の許しのカードを見ながら、静かに言った。 「はい、ありがとうございます」 その時、文宏が入ってきた。 「誰と話しているんだ?教授か?」 彼は手に持った紙袋をテーブルの上に置いた。 電話を切った後、私は彼の方に目を向けた。 「何でも無いわ。ちょっと質問していただけ」 文宏は眉をひそめ、疑いの目線で私を見まわした。 「なんの質問だ?こんな時間に」 私は眉をひそめながら、彼を見た。 「別に、ちょっと実験のことを聞いただけ」 彼はそれでようやくソファに腰をかけ、手に持っていた紙袋を私に差し出した。 「ほら、これ」 紙袋は、私が一番好きな老舗の和菓子屋の袋だった。 かつて、文宏は、私に会いに来るたびに、この店の和菓子を買ってきてくれた。 この店は老舗で、毎日行列ができるほど人気だった。 私が「食べたい」と言っただけで、彼はいつも店の開店前から並びに行って、買ってきてくれた。 私は彼にそんなに苦労させたくはなかった。 しかし、彼は私の鼻を軽くつつきながら、笑って言った。 「お前が食べたいものを、俺が買ってきてあげるのは当たり前だろ?たとえ、どんなに難しい願いでもかなえてやるさ」 過去の思い出は、甘酸っぱいものばかりだった。 「どうしてあの店に......これは?」 紙袋を開けると、中には和菓子ではなく、 ケーキのついたワンピースと、血痕のついたシーツが入っていた。 私は文宏を見た。彼は、私がじっと見つめているので、少しバツが悪そうだった。 「静香の服が汚れて、シーツにも生理の汚れがついてしまったんだ。彼女は今、生理で具合わるそうだから、お前に頼もうと思って」 彼は言えば言うほど自分は間違っていないのだと自信が湧いてきて、表情も強張ってきた。 「細かいことを気にするな。女同士だろ?どうしても嫌なら、許しのカードをもう一枚使えばいい」 私は言葉を失った。 私も手術を受けたばかりで具合が良くないのに、彼はまるで記憶を失ったかのようにすっかりそれを忘れていた。 それに、許しのカードも、 もう最後の一枚しか残っていない。 しかし、彼の無頓着な様子を目の当たりにすると、私は言葉がでなかった。 文宏の服は全て高級なオーダーメイドスーツで、一枚一枚手洗いしてアイロンをかけなければならなかった。 今考えると、自分は本当に馬鹿だった。 クリーニングに出しても全然よかったのに、そんなことを独りよがりな思いやりで、全部一人でやっていただなんて。 第3話 私は服を玄関に置き、クリーニングに出すことにした。そして寝室に戻った。 私が入ってくると、文宏は嬉しそうに言った。 「さすが俺の妻だ。もう終わったのか?あれは静香のお気に入りのワンピースだから、綺麗にしてやってくれよ」 私は頷き、フェイスパックをしようとした。 そのついでで、ベッドサイドにあったタブレットでドラマでも見ようかと思った。 文宏も携帯を手に取り、誰かにメッセージを送っていた。 タブレットにメッセージの通知が届いた。開いてみると、文宏のラインがログインされていた。 【文宏、本当にありがとう。久しぶりに、こんなに美味しい和菓子が食べられたわ】 【あそこはいつも混んでるから、大変だったでしょう】 文宏は私をチラッとみてから、ひたすら携帯をいじってた。 【気に入ってくれて良かった。また買ってきてやる】 【お前は俺の妹みたいなもんだからな!】 静香が再び返信した。 【それで、シーツはどうなったの?生理の汚れがついてるんだけど、葵に洗ってもらうの、本当に大丈夫?】 【もし彼女が嫌がるなら、仕方ないけど】 文宏は優しく微笑んだ。 【平気さ、水で洗わなきゃいけないらしいから、お前にはさせられないよ。彼女なら慣れてるし、大丈夫だ】 私は動きを止め、思わず文宏を見た。 結婚してからというもの、家事の大小に関わらず、電球の交換さえ自分がやってきた。だから、彼にとって自分は「慣れてる」ということなんだろうか。 私はタブレットを置き、これ以上見るのはやめた。 フェイスパックを洗い流した後、文宏が私の耳元で囁いた。 「葵、輝に呼ばれてちょっと出かけてくる。先に寝ててくれ」 私はベッドで小さく頷いた。 彼が服を着ている時、私は小声で尋ねた。 「文宏、もしあなたが帰ってこなかったら、許しのカードを一枚使うわよ?」 私は彼を見つめながら、悲しさで、声が少し震えていた。 彼はネクタイを締めながら、いつものように微笑んだ。 「いいよ」 文宏は髪を整え、気にしない様子だった。 「でも、すぐに戻ってくるから。カードを使うまでもない」 彼のそのすました態度に、私は涙をこらえながら布団に潜り込んだ。 そして「うん」と頷いた。 今は夜10時。「すぐに戻ってくる」と言って出て行った彼を見送った。 そして、出前を頼んで、あの老舗の和菓子を買ってきてもらった。 ふっと見ると、輝がインスタに彼女とのデート写真を投稿していた。 ちょうどその時、文宏からもメッセージが届いた。 【もう輝とあったよ。もうすぐ帰る】 すでに時間は12時間近だった。 過去のインスタ投稿を見返していると、文宏のプロポーズを受け入れた時の投稿が目に留まった。 私はそれをリポストした。 【時間が経つのは早いね】 文宏はハートマークのコメントを送ってきた。 そして、オフィスのデスクの写真を送ってきた。 【仕事中。お前が恋しい】 私は彼とのDMを閉じた。 もう相手にしないつもりだ。 彼は、あの写真が先月、私が彼の携帯で撮ったものだということも忘れているのだろう。 あれは今日撮った写真ですらない。彼は私に嘘をつくだけでなく、適当にあしらっていたのだった。 静香もインスタに投稿していた。まるで、私に見せびらかすかのような投稿だった。 【大人になったらお嫁さんにしてくれるって約束をしたのに、守れなかったからって今更後悔してる】 写真には、二人の手が重なっており、文宏の人差し指のほくろがはっきり写っていた。 私はソファに座り、文宏が記録していたプロポーズのビデオを見ながら、買ってきた和菓子を食べていた。 昔は大好きだった和菓子も、今は美味しく感じない。 もう好きではなくなったのかもしれない。 そして、好きではなくなったのは、和菓子だけではないようにも感じた。 あれから文宏からメッセージは来なかった。 私は携帯をテーブルに置き、自分の荷物をまとめ始めた。 時間はすでに午前0時を回っていた。 最後の許しのカードに印鑑を押そうとした時、 携帯が鳴った。文宏からだった。 「葵、もう寝た?待たなくていい。ちょっと用事ができたから、今日はもう帰らない。 許しのカードを使っておいてくれ。明日帰る時、和菓子を買って帰るから。それじゃ、立て込んでるから、もう切るぞ」 まだ私が何も言えないうちに、文宏は電話を切った。 携帯をテーブルに置いた拍子に、カップに当たってしまった。 婚約後に一緒に作ったペアカップが、二つに割れた。 私たちの関係も、これで終わりなのだろう。 私はラインを開き、文宏にメッセージを送った。 【そういえば、許しのカード、もうないの】 【離婚しよう】 すぐに、私の携帯に何度も電話がかかってきた。