冷たい家族の中で

Đang tải thông tin quảng bá...

冷たい家族の中で

GoodNovel Hoàn thành

うちのお母さんは、まるでシンデレラみたいにお金持ちの家に嫁いだ。 セレブ妻になったあとも、美人だしお金もあったけど――肝心な「居場所」...

Chương (1)

第1章

うちのお母さんは、まるでシンデレラみたいにお金持ちの家に嫁いだ。 セレブ妻になったあとも、美人だしお金もあったけど――肝心な「居場所」だけは、どこにもなかった。 お父さんは仕事に夢中で、おばあさんは知らんぷり。お母さんが頼れるのは、私とお兄ちゃんだけだった。 ……はずなのに、お兄ちゃんはお父さんのそばにいる秘書さんのほうが好きだった。 「ママなんてただ飾りみたいな存在だ!新しいママが欲しい!」って騒いで、ごはんも食べないで抗議する始末。 お父さんはぬるく叱っただけ。おばあちゃんは「子どもの冗談でしょ」なんて笑って済ませた。 でも私は見たんだ。お母さんの目が、泣きそうに潤んでたのを。 その目の奥に、きらりと光る決意を込めて、お母さんははっきりこう言った。 「私、離婚するわ」 第1話 お母さんの声が静かに落ちたとたん、みんなの視線が一斉に彼女に向いた。 バースデーハットをかぶったお兄ちゃんが、人だかりの中心で真っ先に顔をしかめた。 「……何なの?もう謝ったでしょ?それでもまだ足りないって、わざわざ僕の誕生日に水差すつもり?」 その顔には、軽蔑と冷たさが浮かんでて。まるでお母さんが、注目を集めたくて騒いでるだけみたいに見てた。 でも――私は気づいてた。お母さんの目の奥には、悔しさと、それでも折れない強さがあった。 今日は、私とお兄ちゃんの10歳の誕生日。 おばあちゃんは、私たちにそれぞれ大きなケーキを用意してくれた。 ただ、様子はまるで違った。 お兄ちゃんのまわりには、おばあちゃんと、お父さんの代わりに来た朝倉おばさん、それから大勢の人が集まってて「何のお願い事するの?」なんてにこにこしながら話しかけてる。 それに対して、私のそばにいたのは、ろうそくをつけてくれてたお手伝いの杉山さん。 誰も私の願いなんて聞かなかったけど、それでも私はワクワクしてて「早く火つけて!」ってせかしてた。 ……だけど、まだ吹き消す前に、お母さんが少しかすれた声で言ったの。 「私の子どもでいたくないなら、私ももうあんたの母親ではいたくないわ」 その言葉にお兄ちゃんは鼻で笑った。 「は?調子に乗るなよ。朝倉おばさんの方がよっぽどママにふさわしいし。僕、本気であの人がママだったらよかったのに」 その後ろで、朝倉おばさんが凍りついたみたいにうつむいて、まるで大きな秘密がバレたみたいに気まずそうにしていた。 おばあちゃんは最初こそ驚いた顔をしてたけど、すぐに落ち着いて、指にはめたエメラルドの指輪をなでながら、いつもの偉そうな口調でこう言った。 「澪(みお)、うちの暮らしはうまくいってるでしょう?藤崎家はあんたに何も不自由させてないわよね。それなのに、これはどういうことかしら? 離婚って言うなら、それなりの理由を示してもらわないと」 第2話 理由は――何だったんだろう。 お母さんの代わりに思い出してみた。たぶん……一枚の紙だった。 そう、たった一枚の作文用紙。 先生が出した宿題は、「わたしのお母さん」というテーマで作文を書くっていう、すごくシンプルなもの。 なのに、お兄ちゃん――蓮(れん)くんは、なかなか取りかかろうとせずに、先生からも軽く注意されてた。 でも私は知ってた。彼の原稿用紙には、すでに細かい文字がぎっしり書かれてたことを。 何気なくのぞきこんだ私は、そこで目を疑うような言葉を見つけた。 【ぼくのママは、価値のない花瓶。家でダラダラしてるだけの役立たず。突然死んでくれたらいいのに。そしたら朝倉おばさんをママって呼べるのに】 ……そのあとには、朝倉おばさんのことをベタ褒めする文章が延々と続いてた。頭が良くて、自立してて、仕事もできて、自分に優しくしてくれる――今のママなんかより何百倍も素敵だって。 私は思わず声を尖らせて、「なんでそんなこと書くの?」って問いただした。 でも彼は私を睨んでこう言った。 「紬(つむぎ)、余計なことに首突っ込むなよ」 結局、蓮くんはその作文を提出しなかった。ただ適当に畳んで、ぐちゃっと鞄に押し込んだだけ。 お母さんがそれを読んだかどうか、私は確信が持てない。 でもそれ以来、お母さんは私たちの鞄を一切触らなくなった。 どんなに使用人がいても、いつも子どもの世話を全部自分でしていたお母さんが――それをやめた。 あの紙を、わざと鞄に入れたのか、うっかりだったのか。それも私にはわからなかった。 でもあの時、まだ私は気づけてなかった。 お母さんが、どれだけ苦しい場所に立っていたのかってことを。 ただひとつだけ、はっきりしてたのは――お母さんが、だんだん無口になっていって、目の奥にぽっかり空いた悲しみが、まるで底なしの闇みたいに広がっていたこと。 第3話 でもね、お母さんは、ちょっと風が吹いただけで折れちゃうような、か弱い草なんかじゃない。 ちゃんと変わろうとしてたし――本気で、もがいてたんだ。 しばらくして、私はお母さんがお父さんと電話してるのを耳にした。 私とお兄ちゃんももう手がかからない年になったし、外に出て仕事をしたいって。 でも返ってきたお父さんの声は、冷たくて、まるで他人に向けるみたいな口調だった。 「働くのが最適だとは思えないよ。お前、もう10年も仕事から離れてるんだ。どこの会社がそんな経歴の人を欲しがると思う? それに俺の方がはるかに仕事の能力がある。俺が外で稼いで、お前が家庭を守る。それが一番効率的だ。 どうしても退屈なら……生活費を少し増やしてあげよう。ほら、他の奥さんたちみたいに、カードゲームとか、ショッピングでもしてたらいいじゃないか」 そんな言葉を投げつけられても、お母さんはへこたれなかった。 それどころか、キラキラした目で、私と蓮くんにその話をしてくれた。 その顔が、なんだかとても眩しくて――私は思わず、両手でグッとガッツポーズを送った。 ……けど、蓮くんは鼻で笑った。 「やめとけよ。何にもできないくせに。そんなので月に4万円稼げんの?杉山さんの給料の5分の1もいかないんじゃね?恥かくだけだよ」 その一言に、お母さんの目がカッと見開いた。 震えるように立ち上がって、ぎゅっと拳を握りしめた指先は真っ白になってて―― 「蓮!あんたに何がわかるの!」 「あんたが生まれる前、私はちゃんと仕事もしてたし、友だちもいた。自由で、楽しくて、誰にも縛られてなかった! それを全部、家族のために捨てたのよ。あんたと紬のために! 家で家事してる人間は、働いてる人より価値がないって言いたいの?」 第4話 「何の『価値』?家のことちょっとするくらいで、偉そうにしないでよ。 ただ顔が良くて、たまたまパパと結婚できただけじゃん。ほんとは怠け者で、食べることばっかで、ろくに働きもしない。あのままだったらとっくに飢え死にでしょ?」 そのとき、私たちは3人でダイニングテーブルを囲んで夕飯を食べていた。 なのに――その一言で、部屋の空気は一気に凍りついた。 今日のごはんだって、全部お母さんが作ってくれたのに。 お兄ちゃんの皿にだって、あの大好きな焼き手羽先がちゃんと入ってるのに。 そんなの全部無視して、蓮くんはお母さんのことを、あけすけに貶してくる。 私は慌てて言った。 「お兄ちゃん、そんなの違うよ。お母さん、毎日すっごく頑張ってるのに!」 でも――私の言葉じゃ、お母さんの傷は癒せなかった。 お母さんの表情はこわばって、苦しげに歪んでて―― 「じゃあ、食べなきゃいいでしょ!私の作ったごはんを口にして、そのくせ私をバカにして。そんなの、出てってよ!」 その瞬間――お母さんはついに限界だったんだと思う。 いつもなら優しくて、怒鳴ったりなんてしないのに。 蓮くんの目の前で、そのお皿をごっそり、ゴミ箱にぶちまけた。 すると、蓮くんも火がついたみたいに荒れた声で叫んで、 「いらねーよそんなもん!誰が食うか!」 言い終わるやいなや、手にしていたお皿を大理石のテーブルに叩きつけた。 ガシャーン!って音が響いて、お皿の破片が四方に飛び散った。 お母さんは向かいに座ってたから、避けきれなくて――頬に、長くて深い傷が走った。 血が、止まらなかった。 あまりに突然のことで、私はびっくりしてわぁって泣き出しちゃって。 その声を聞きつけて、杉山さんが駆け寄ってきた。 「ちょ、ちょっと奥さま!どうしたんですか、これ!」 蓮くんも、まさか怪我させるとは思ってなかったみたいで、一瞬ひるんだ顔をしてたけど―― それでも意地を張ったまま、 「……自業自得だろ」って言って、乱暴に自分の部屋へ戻っていった。 私はお母さんのほうを振り返った。 彼女の瞳は――まるで墨を垂らしたみたいに、深くて暗くて、でも妙に静かで。 何も言わずに、その場にじっと座っていた。 第5話 お父さんは普段あんまり家に帰ってこないけど――あの騒動のことは、ちゃんと知ってた。 そして、お兄ちゃんをきつく叱った。お母さんに謝るよう、命じた。 でも……いつもならお父さんの言うことを素直に聞く蓮くんが、そのときばかりは真っ向から反抗した。 頑なに謝ろうとせず、ついには「食べない抗議」まで始めてしまった。 見かねたおばあちゃんが間に入って、 「澪、蓮もね、悪気があったわけじゃないのよ。子どもの言うことなんて、所詮そんなもの。だから、もう水に流しましょ」 そう言ったとき――お母さんは、それ以上なにも責めることはしなかった。 ただぽつりと、「……はい」と、静かに答えた。 それからというもの、私はなんだかお母さんが、遠くへ行ってしまいそうで怖かった。 いつもは明るくて優しい声で話してくれたのに、それがピタリと聞こえなくなった。 笑顔も減って、まるで別の世界に閉じこもってしまったみたいで。 私は、自分の小さなお布団を抱えて、お母さんの部屋のドアをノックした。 「ねえ、お母さん。今日、一緒に寝てもいい……?」 すると、お母さんは前みたいにやさしく抱きしめてくれて、ぽつりぽつりと話し出した。 お父さんとのこと。自分の過去のこと。 お母さんとお父さんは、結婚するまでにたった一度しか会ってなかったこと。 お母さんの両親は、おじいちゃんを助けようとして亡くなって――その遺言で、お母さんはおじいちゃんに託されたってこと。 おばあちゃんは反対だったけど、おじいちゃんの強い希望で、結婚は決まった。 ただし、ひとつだけ条件があって。 「結婚したら、家庭に入って、子育てと夫のサポートをしなさい」――それがおばあちゃんの唯一の言葉だった。 お父さんとお母さんの間には、最初から「愛」なんてなかった。 だからこそ、離婚も、びっくりするくらいスムーズだった。 ……そのとき、私は初めて知った。 お父さんはもう、お母さんを引き止めるつもりなんて、まったくなかったんだ。 お母さんの声は、やわらかくて、ほとんど囁きみたいだった。 私は眠気に負けて、まぶたが勝手に落ちてきた。 その意識が途切れる直前―― お母さんが、そっと泣きながらつぶやいたのが、聞こえた。 「紬、ごめんね……でも、ママを責めないで。一生って、ほんとに、長いのよ」 第6話 その日――朝倉おばさんから電話があった。 今日の午後、お父さんが帰ってくるんだって。 それを聞いた蓮くんは、まるでバネ仕掛けみたいに飛び上がって喜んでた。 そしてなんとも不器用な口調で、「ママ、パパの好きな料理、二つ作ってよ」なんて言ってきた。 でも、お母さんは無言でそれをスルーした。ちらりとも目を向けなかった。 ……だって、お父さんが帰ってくる理由を知ってるのは、私とお母さんだけだったから。 離婚するために、だ。 私はそっと、お母さんの服の裾を握って、耳元でささやいた。 「……お母さんが離婚するなら、私も一緒に行く。でも、もし私がいらなかったら、それでもいい。そしたら、たまには会いに来てね」 お母さんを傷つけたくなくて言ったのに、彼女はまた目を赤くしてた。 そしてついに――お母さんとお父さんは、離婚の手続きを終えた。 手を引かれながら、私はお母さんと一緒に、謝家に別れを告げた。 蓮くんは、信じられないという顔で声を上げた。 「ほんとに……離婚すんの?」 それから今度は、私に向き直って叫んだ。 「紬、あの人についてくの?バカじゃないの?貧乏暮らししたいなんて、ほんとお似合いじゃん。ま、あの人が金持ち捕まえたから、しばらくはヒモ生活もできるか?」 ……誰も止めなかった。 お父さんも、おばあちゃんも、その暴言に何も言わず。 お父さんは淡々と、お母さんに分ける財産についてだけ話して、それで終わり。 おばあちゃんは、朝倉おばさんに「お見送りお願いね」と言って、杉山さんには「ごはんの支度よろしく」と。 お母さんは、全部静かに「わかりました」と答えて――まるでこの家に来たときと同じように、たったひとつの小さなキャリーケースだけを持って、玄関を出た。 私もその後ろをついていく。 そのとき、少しだけ、わかった気がした。 冷たくて距離ばかりあるお父さん。礼儀正しいのに、どこまでも上から目線なおばあちゃん。そして、浅はかで傲慢な蓮くん。 ……この家で息をするのって、ほんとに、つらかったんだ。 思い出した。お母さんの枕の下で見つけた、大量の抜け落ちた髪。 あれは、声にならない悲鳴だったんだ。 玄関の扉を出る、その最後の瞬間。 お母さんは振り返って、蓮くんをまっすぐ見て、静かに言った。 「――あんたの望みどおりよ。もう、私はあんたの『ママ』じゃない」