交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています

Đang tải thông tin quảng bá...

交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています

GoodNovel Hoàn thành
財閥独占欲スピード結婚

お見合いのその日、内海唯花はまったく知らない人との結婚が決まった。 結婚後はお互いを尊重し合って平凡な生活を過ごすものだと思っていた。...

Chương (1)

第1章

お見合いのその日、内海唯花はまったく知らない人との結婚が決まった。 結婚後はお互いを尊重し合って平凡な生活を過ごすものだと思っていた。 しかし、秒で結婚した夫はべったりとくっついて離れないような人間だった。 一番彼女が驚いたのは、毎回困った状況になると彼が現れ、すべてをいとも簡単に処理してしまうことだった。 彼女が追及すると、彼はいつも運がよかったとしか言わなかった。 ある日、朝日野の億万長者が妻を溺愛しすぎで有名になりインタヴューを受けているのを目にすることに。しかも、その億万長者はなんと彼女の夫と瓜二つだったのだ。彼は狂ったように妻を溺愛していた。その妻とは彼女のことだったのだ! 第1話   十月の東京は残暑でまだ汗ばむほど暑く、朝夕だけ秋の気配があり涼しさを感じられた。 内海唯花は朝早く起きると姉家族三人に朝食を作り、戸籍謄本を持ってこっそりと家を出た。 「今日から俺たちは生活費にしろ、家や車のローンにしろ、全部半々で負担することにしよう。出費の全部だからな!お前の妹は俺たちの家に住んでるんだから、彼女にも半分出させろよ。一ヵ月四万なんて雀の涙程度の金じゃ、タダで住んで飲み食いしてるのと同じじゃないか」 これは昨夜姉と義兄が喧嘩している時に、内海唯花が聞こえた義兄の放った言葉だった。 彼女は、姉の家から出ていかなければならなかった。 しかし、姉を安心させるためには結婚するのがただ一つの方法だった。 短期間で結婚しようとしても、男友達すらいない彼女は結城おばあさんの申し出に応えることにした。彼女がなんとなく助けたおばあさんが、なかなか結婚できない自分の孫の結城理仁と結婚してほしいと言ってきたのだった。 二十分後、内海唯花は役所の前で車を降りた。 「内海唯花さん」 車から降りるとすぐ、内海唯花は聞きなれた声が自分を呼ぶのが聞こえた。結城おばあさんだ。 「結城おばあさん」 内海唯花は速足で近づいていき、結城おばあさんのすぐ横に立っている背の高い冷たい雰囲気の男の姿が目に入った。おそらく彼が結婚相手である結城理仁なのだろう。 もっと近づき、内海唯花が結城理仁をよく見てみると、思わず驚いてしまった。 結城おばあさんが言うには孫の結城理仁は、もう三十歳なのに、彼女すら作らないから心配しているらしかった。 だから内海唯花は彼がとても不細工な人なのだと勝手に思い込んでいたのだ。 しかも、聞いたところによると、彼はある大企業の幹部役員で、高給取りらしいのだ。 この時初めて彼に会って、自分が誤解していたことに気づいた。 結城理仁は少し冷たい印象を人に与えたが、とてもハンサムだった。結城おばあさんのそばに立ち、浮かない顔をしていたが、それがかえってクールに見えて、人を近づけない雰囲気を醸し出していた。 目線を少しずらしてみると、近くに駐車してある黒い車はホンダの車で、決して何百万もするような高級車ではなかった。それが内海唯花に結城理仁との距離を近づけされてくれた。 彼女は同級生の友人と一緒に公立星城高校の前に本屋を開いていた。 さらに暇な時には、自分でビーズの小物を作り、ネット販売して結構な数を売っていた。 一ヵ月で、月の収入は安定して四十万稼いでいた。東京で月に四十万の収入があれば、ホワイトカラー階級に匹敵する程である。だから、彼女は姉に毎月十万円の生活費を渡していた。 しかし、彼女の収入について義兄はまったく知らなかった。彼女は毎月六万円を姉に貯金させて、義兄にはたった四万しかないと言っていたのだ。 「内海唯花さん、この子が私の孫の結城理仁よ。三十にもなって売れ残りのクリスマスケーキなの。この子は見た目は冷たい人のようだけど、実はとても思いやりのある優しい子なの。あなたが私を助けてくれて、知り合ってからもう三ヵ月経つわ。信じてもらいらいの。出来の悪い孫だったらあなたに紹介したりしないのだから」 結城理仁は祖母の自分に対する評価を聞き、横目で内海唯花をちらりと見た。瞳は深く氷のように冷たったが、一言もしゃべらなかった。 おおかた祖母に何度もこう毛嫌いされて、慣れてしまっていたのだろう。 結城おばあさんには三人の息子がいて、それぞれに三人ずつ子供がいた。つまりこのおばあさんには九人の孫がいるのだ。その孫の中には一人も女の子はいなかったため、内海唯花は結城おばあさんが自分のことを孫娘のように思っていると知っていた。 内海唯花は少し頬を赤らめた。しかし、彼女はおおらかに結城理仁に右手を差し出して微笑んで自己紹介を始めた。「結城さん、初めまして、私は内海唯花です」 結城理仁は鋭い目つきで内海唯花を頭から足の先、また足の先から頭まで眺めた。おばあさんが軽く咳をして注意すると、ようやく右手を内海唯花に伸ばし握手をし、低く冷たい声で挨拶した。「結城理仁だ」 握手をすると、結城理仁は左手の腕時計を見て時間を確認し、内海唯花にこう言った。 「俺は忙しいんだ。さっさと終わらせよう」 内海唯花はうんと一声言った。 結城おばあさんはあわてて言った。「あなた達早く入って手続きしていらっしゃい。私はここで待っているから」 「ばあちゃん、車で待ってて、外は暑いから」 結城理仁はそう言いながら、おばあさんの体を支えながら車まで連れて行った。 内海唯花は彼のその行動を見て、結城おばあさんの言っていた言葉を信じる気になった。結城理仁は一見冷たそうな人だが、思いやりがある優しい人なのだ。 彼女と彼はよく知らない人同士だが、結城おばあさんは彼名義の購入済の家があると言っていた。彼女が彼と結婚すれば、姉の家から出ることができる。そうすれば姉を安心させることができるし、義兄と彼女のせいで喧嘩することもなくなるだろう。 彼女は彼とルームメイトのような結婚生活を送るだけだ。 結城理仁はすぐ内海唯花のところに戻ってきて言った。「行こうか」 内海唯花はひとこと「うん」と言って、黙って彼に続いて役所に入っていった。 婚姻手続きをする窓口に着くと、結城理仁は内海唯花にこう告げた。 「内海さん、もし気が進まないのであれば、取り消しにしてもいいんだ。祖母が言うことは気にしなくていい。結婚は一大イベントで遊びじゃないんだから」 彼は内海唯花が後悔して取り消してくれるのを期待しているようだった。 なぜなら彼は会ったばかりのよく知らない女と結婚なんかしたくなかったからだ。 第2話   「もう決めたことですから、後悔なんてしませんよ」 内海唯花も何日も悩んだうえで決断した。一度決めたからには決して後悔などしないのだ。 結城理仁は彼女のその言葉を聞くと、もう何も言わずに自分が用意してきた書類を出して役所の職員の前に置いた。 内海唯花も同じようにした。 こうして二人は迅速に結婚の手続きを終えた。それは十分にも満たない短い時間だった。 内海唯花が結婚の証明書類を受け取った後、結城理仁はズボンのポケットから準備していた鍵を取り出し唯花に手渡して言った。「俺の家はトキワ・フラワーガーデンにある。祖母から君は星城高校の前に書店を開いていると聞いた。俺の家は君の店からそんなに遠くない。バスで十分ほどで着くだろう」 「車の免許を持っているか?持っているなら車を買おう。頭金は俺が出すから、君は毎月ローンを返せばいい。車があれば通勤に便利だろうからな」 「俺は仕事が忙しい。毎日朝早く夜は遅い。出張に行くこともある。君は自分の事は自分でやってくれ、俺のことは気にしなくていい。必要な金は毎月十日の給料日に君に送金するよ」 「それから、面倒事を避けるために、今は結婚したことは誰にも言わないでくれ」 結城理仁は会社で下に命令するのが習慣になっているのだろう。内海唯花の返事を待たず一連の言葉を吐き捨てていった。 内海唯花は姉が自分のために義兄と喧嘩するのをこれ以上見たくないため喜んでスピード結婚を受け入れた。姉を安心させるために彼女は結婚して姉の家から引っ越す必要があったのだ。これからはルームメイトのような関係でこの男と一緒に過ごすだけでいいのだ。 結城理仁が自分から家の鍵を差し出したので、彼女も遠慮なくそれを受け取った。 「車の免許は持ってますけど、今は車を買う必要はないです。毎日電動バイクで通勤していますし、最近新しいバッテリーに交換したばかりです。乗らないともったいないでしょう」 「あの、結城さん、私たち出費の半分を私も負担する必要がありますか?」 姉夫婦とは情がある関係といえども、義兄は出費の半分を出すように要求してきた。いつも姉のほうが苦労していないのに得をしていると思っているのだろう。 子供の世話をし、買い物に行ってご飯を作り、掃除をするのにどれほど時間がかかるか知りもしないだろう。自分でやったことのない男は妻が家にいて子供の面倒をみて、ご飯を作るのは楽なことだと思っているのだ。 彼女と結城理仁はスピード結婚だ。今日初めてお互いに顔を合わせた仲なのだから、出費は半々にするのが気が楽だろう。 結城理仁は考えもせず低い声で言った。「俺はもう君と結婚したんだ。君を養う能力はあるし、家のことも問題ない。君はお金を出さなくていい」 内海唯花は笑って言った。「じゃあ、あなたの言うとおりにしますね」 彼女も言われるまま甘い汁を吸い、全くお金を出さないわけではなかった。 彼の家に住み、必要なものは自分で買えばいいのだ。 どのみち、すでに家賃は節約できているのだから。 お互いに出す必要なものは出し、相手を気遣うことで一緒に生活することができるのだ。 結城理仁はまた右手の時計で時間を確認し、内海唯花にこう告げた。「俺は忙しい、会社に戻らなくてはいけない。俺の車を運転して家に帰るといい。もしくはタクシーで帰ってもいいぞ。タクシー代は俺が出そう。祖母を弟のところに送ってくる」 「そうだ、LINEを交換してくれないか?すぐ連絡できるように」 内海唯花は携帯を取り出し、結城理仁とLINE交換した後に言った。「タクシーで帰りますから、私のことは気にしないでください」 「わかった。何かあったら連絡してくれ」 結城理仁は車に乗る前に、内海唯花に四千円のタクシー代を渡した。彼女は断ろうとしたが、彼の自分を見つめる視線に無意識にこのお金を受け取った。 結婚手続きを終えたばかりの新婚同士は一緒に役所から出ず、結城理仁だけが先に出てきた。 彼は役所を出てまっすぐに車へと戻った。 「私の孫娘は?」 結城おばあさんは自分の孫だけが出てきたのを見て、疑いの眼差しで尋ねた。「あなたたち一緒に入って行ったじゃないの。どうして一緒じゃないの?あなた結婚を取り消したのね。それとも内海さんのほうがかしら?」 結城理仁はシートベルトを締めると、自分の結婚証明の書類を取り出し、振り向いておばあさんに手渡した。「結婚手続きはしたよ。俺は仕事が忙しいから今すぐ戻って会議をしないと。彼女には四千円渡しておいた。タクシーで帰るそうだ。 「ばあちゃん、あそこの交差点のところまで車で送るよ。あとはボディーガードに家まで送らせるから」 「あなた、いくら忙しいからって唯花ちゃんを一人置いていけるわけないでしょう。まだ発車しないで、唯花ちゃんが出てきたら、彼女を先に家まで送ってから、あなたは会社に行きなさい」 そう結城おばあさんは言いながら車を降りようとしたのだが、車はロックされていた。 「ばあちゃんの言うとおりに彼女と結婚しただろう。他のことに口を挟まないでくれよ。結婚したんだから一緒に生活するんだ。これからの生活は責任を持つから。それから、彼女がどんな人間なのかゆっくり見させてもらう。彼女の人となりがわかるまでは俺は彼女とは本当の夫婦にはならないからな」 「......我が結城家の男子は絶対に離婚なんてしないわ!」 「それなら、ばあちゃんが選んでくれた妻に俺が一生をかけるほどの価値があるかどうかだ」 結城理仁はそう言いながら車を運転した。 「このバカ孫息子、あんたみたいな夫がいる?結婚したばかりだっていうのに新婚の妻を置き去りにして自分だけ車で行っちゃうなんて」 結城おばあさんはこの孫が許せる限界は、内海唯花と結婚手続きをするところまでだとわかっていた。他のことに関しては彼は一歩も譲らないのだ。彼女は彼にはお手上げだった。あまりにやりすぎると、この孫は内海唯花に一生一人暮らしをさせるだろう。彼女の行為が内海唯花を害するわけだ。 結城理仁は祖母の好きなように怒られておいた。 内海唯花が本当に良い人であれば、彼女を幸せにしてあげるつもりだ。もし普段良い人を装っておばあさんを騙しているのなら、半年後、彼は彼女と離婚しようと思っていた。どうせ彼は彼女には指一本触れないし、結婚も隠しているのだから、彼女が離婚したとしても他の誰か良い人を見つけて結婚できるだろう。 車は十分ほど走ると、十字路で止まった。 そこには何台もの高級車が駐車してあった。その中の一台はロールスロイスだった。 結城理仁は車を路肩に止めると、車から降りてそこにいたボディーガードに車の鍵を渡して言いつけた。「おばあ様を家まで送ってくれ」 「私は帰らないわよ。あなたと一緒に住んで義理の孫娘の傍にいるわ」 結城おばあさんは引き下がらなかった。 しかし、彼女の大切な孫息子はすでにロールスロイスに乗り込み、おばあさんの抗議には耳を貸さなかった。 彼女はただ目を見開き孫が高級車に乗って、見向きもせずに立ち去るのを見ているしかなかった。 結城理仁は実は東京の商業界の大金持ちの息子で、東京の億万長者である富豪の御曹司だった! 「このバカ孫息子、冷たい人なんだから!」 結城おばあさんは孫に一言文句を言い、ぶつぶつ呟いて言った。「いつかあなたが唯花ちゃんを溺愛する日がくるといいわ。おばあちゃんは座ってあなたが死ぬほど後悔するのを見てやるんだから」 引き続き怒っていても孫を呼び戻すことはできないので、おばあさんは内海唯花に急いで電話をかけた。内海唯花はすでにタクシーに乗って家に帰る途中だった。 「唯花ちゃん、理仁くんは仕事が本当に忙しいみたいなの、彼と喧嘩しないでね」 内海唯花はズボンのポケットにしまった結婚証明書類を触り言った。「おばあさん、わかっています。私は気にしていませんよ。おばあさんも気にとめないでください。彼はタクシー代をくれました。私は今家に帰る途中です」 「結婚したというのに、まだ結城おばあさんと私を呼ぶのかい?」 内海唯花は一瞬戸惑い、おばあちゃんと言い直した。 おばあさんは嬉しそうに応えて言った。 「唯花ちゃん、これからは家族よ。理仁くんがもしあなたをいじめたら、おばあちゃんに言ってね。あなたの代わりに叱ってあげるから」 やっとのことで手に入れた孫娘なのだから、おばあさんは孫が唯花をいじめるのを許さないようだった。 第3話   「おばあちゃん、頼りにしてるよ」 内海唯花は適当に答えた。 結城理仁は血の繋がった孫で、彼女はただの義理の孫娘だ。結城おばあさんがいくら良い人だといっても、夫婦間で喧嘩した時に結城家が彼女の味方になるだろうか。 内海唯花は絶対に信じなかった。 例えば彼女の姉の義父母を例に挙げればわかりやすい。 結婚前、姉の義父母は姉にとても親切で、彼らの娘も嫉妬してしまうほどだった。 しかし、結婚したとたん豹変したのだ。毎回姉夫婦間でいざこざがあった時、姉の義母は決まって姉を妻としての役目を果たしていないと責めていた。 つまり、自分の息子は永遠に内の者で、嫁は永遠に外の者なのだ。 「仕事に行くのでしょうから、おばあちゃんは邪魔しないことにするわね。今夜理仁くんにあなたを迎えに行かせるわ。一緒に晩ご飯を食べましょう」 「おばあちゃん、うちの店は夜遅くに閉店するの。たぶん夜ご飯を食べに行くのはちょっと都合が悪いわ。週末はどうかな?」 週末は学校が休みだ。本屋というのは学校があるからこそやっていけるもので、休みになると全く商売にならなくなる。店を開ける必要がなくなって彼女はようやく時間がとれるのだ。 「それもいいわね」 結城おばあさんは優しく言った。「じゃあ、週末にまたね。いってらっしゃい」 おばあさんは自分から電話を終わらせた。 内海唯花は今すぐ店に行くのではなく、先に親友の牧野明凛にメッセージを送った。彼女は高校生たちが下校する前に店に戻るつもりだった。 人生の一大イベントを終え、彼女は姉に一言伝えてから引越しなければならなかった。 十数分が経った。 内海唯花は姉の家に戻ってきた。 義兄はすでに仕事に行って家にはおらず、姉がベランダで服を干していた。妹が帰ってきたのを見て、心配して尋ねた。「唯花ちゃん、なんでもう帰ってきたの?今日お店開けないの?」 「ちょっと用事があるから後で行くの、陽ちゃんは起きてないの?」 佐々木陽は内海唯花の二歳になったばかりの甥っ子で、まさにやんちゃな年頃だった。 「まだよ、陽が起きてたらこんなに静かなわけないでしょう」 内海唯花は姉が洗濯物を干すのを一緒に手伝い、昨晩の話になった。 「唯花ちゃん、あの人はあなたを追い出したいわけじゃないのよ。彼ストレスが大きいみたい。私も収入はないし」 佐々木唯月は夫に代わって釈明した。 内海唯花は何も言わなかった。義兄は考えを変えて彼女を追い出したいのに間違いはなかった。 義兄は会社の部長で収入も多かった。姉は彼と大学の同級生で最初は同じ会社で働いていて結婚した。結婚した後、義兄は深く愛情を込めて姉にこう言った。「これからは俺が君を養うから、家でゆっくり休んで、子供を作る準備をしようよ」 姉は良い人と結婚したと思い、本当に仕事を辞めて専業主婦になってしまった。結婚して一年でふくよかな赤ちゃんを産み、子供の世話と家庭を切り盛りしているのだ。姉は忙しすぎておしゃれをする時間も、スタイルに気を使う時間もなくなってしまった。こうなったからには専業主婦をやめて職場復帰するなんて事は尚更無理だった。あっという間に三年が過ぎ、彼女の姉は若くてきれいなお姉さんから小太りして適当な服を選び、全くおしゃれをしない専業主婦へと変わってしまった。 内海唯花は姉より五歳年下で、彼女が十歳の頃、両親が交通事故で二人とも亡くなってしまった。それからというもの彼女たちはお互いに支えあって生きてきたのだ。 両親の交通事故の後に受け取った賠償金は、本来であれば姉妹が大学を卒業するまで十分足りる金額があった。しかし、両親のどちらの祖父母にも賠償金の一部を取られてしまい、残ったお金を節約して苦労した末に大学を卒業できた。 実家も祖父母に取られてしまったため、内海唯花はずっと姉と一緒に外で部屋を借りて、姉が結婚するまで姉妹一緒に生活を続けていた。 内海唯花の姉は彼女のことをとても大事にしていた。結婚する前、義兄に結婚した後は彼女と一緒に住みたいと言っていて、義兄もそれを快く承諾していたのだ。しかし、今は彼女が一緒に住むことを嫌がるようになった。 「お姉ちゃん、ごめんね、私厄介者で」 「違うのよ、唯花ちゃん。そんな事言わないで、父さんと母さんが早くに亡くなってから、お姉ちゃんはずっとあなたを頼りにしているんだから」 内海唯花はその言葉が心に響いた。小さい頃は姉が彼女にとっての支えで、今は姉の支えになりたいと思っていたのだ。 彼女は少し黙ってから、結婚証明の書類を取り出して姉に渡して言った。「お姉ちゃん、私結婚したの。さっき結婚の手続きに行ってきたのよ。だから帰ってお姉ちゃんに一言報告したくて、もう少ししたら荷物をまとめて引っ越すからね」 「結婚したって?」 佐々木唯月の声は甲高くなり、叫んだといっても過言ではなかった。 彼女は信じられないといった様子で妹を見つめながら素早く結婚証明書類を奪い取り、それを開いてじっくりと見た。そこには確かに見ず知らずの男の写真も入っていた。 「唯花、どういうこと?あなた彼氏すらいなかったでしょ?」 結婚証明書類と一緒に入っていた写真の男は顔立ちが良かったが、瞳は鋭く顔つきは冷たく見えた。人目見てすぐに簡単に仲良くなれるようなタイプの人間ではなかった。 内海唯花は帰る途中に言い訳を考えていて、すぐにこう言った。「お姉ちゃん、私には結構前から彼氏がいたのよ。彼の名前は結城理仁。彼はいつも仕事が忙しくて、お姉ちゃんに会わせる時間もなかっただけよ」 「彼がプロポーズしてくれて、私はそれを受けたわ。それで、一緒に役所に行って結婚手続きしたの。お姉ちゃん、彼すごく優秀な人なんだから。私にもすごく良くしてくれるから、安心してね。これから絶対に幸せになるからね」 佐々木唯月はやはり受け入れられない様子だった。 妹に彼氏がいるなんて一度も聞いたことがないのに、今日突然結婚するなんて考えられなかったのだ。 昨晩の夫婦喧嘩のことを思い出した。妹がそれを聞いていたのだ。佐々木唯月は思い出すと辛くなり目を真っ赤にさせて妹に言った。「唯花ちゃん、お姉ちゃんは彼に食費はちゃんともらってるって伝えてあるから、安心して一緒に住んでいいのよ」 「そんなに焦って結婚して出て行かなくてもいいの」 彼女は断言できた。妹はこの男性と知り合ってそんなに経っていないはずだ。そうでなければ、妹は姉に彼氏がいることを言っていたはずだからだ。 今日妹が突然結婚手続きをしたのは、彼女の夫が妹と一緒に長く住んで嫌気がさしたからだ。妹は彼女の結婚生活が危なくなる前に、焦って結婚したのだ。 内海唯花は微笑んで姉を慰めて言った。「お姉ちゃん、本当にあなたとは関係ないのよ。私と理仁はすごく仲が良いの、本当に幸せになるんだから。お姉ちゃんに喜んでもらいたいのに」 佐々木唯月はずっと涙を流し続けていた。 内海唯花はどうしようもなく姉を抱きしめた。姉が泣き止んで落ち着いてから、姉に約束をした。「お姉ちゃん、私しょっちゅう会いに帰ってくるから。理仁の家はトキワ・フラワーガーデンにあるの。ここからそんなに遠くないわ、電動バイクで十分くらいの距離なのよ」 「彼の家の状況は?」 もうここまで来たのだから、佐々木唯月はただ受け入れるしかなかった。そして、妹の旦那の家庭状況を聞いてきたのだ。 内海唯花も結城家の事についてはあまりよく知らなかった。彼女と結城おばあさんが知り合ってから三ヶ月経つが、彼女は結城家についてあまり関心を抱いていなかったのだ。結城おばあさんが話してくれた時だけ聞いていた。ただ結城理仁は長男で、下には弟(従兄弟も含む)がいるとだけ知っていた。 結城理仁は東京でも一二を争う大グループ会社で働いていて、車も家もあるのだ。家庭状況を考えても悪いはずがない。内海唯花は自分が知っている情報を姉に教えた。 妹から購入済みの家があることを聞き、佐々木唯月は言った。「それは結婚前の彼の財産でしょう?唯花ちゃん、彼に不動産権利書にあなたの名前を加えるように言ってくれる?」 不動産権利書に妹の名前があれば、なにがあろうとも最低限の保障は得られるからだ。 第4話   「お姉ちゃんもさっき言ったでしょ、あれは彼の結婚前の財産であって、私は一円も出していないのよ。不動産権利書に私の名前を加えるなんて無理な話よ。もう言わないでね」 手続きをして、結城理仁が家の鍵を渡してくれたおかげで、彼女はすぐにでも引越しできるのだ。住む場所の問題が解決しただけでも有難い話だ。 彼女は絶対に結城理仁に自分の名前を権利書に加えてほしいなんて言うつもりはなかった。彼がもし自分からそうすると言ってきたら、彼女はそれを断るつもりもなかった。夫婦である以上、一生覚悟を決めて過ごすのだから。 佐々木唯月もああ言ったものの、妹が自分で努力するタイプでお金に貪欲な人ではないことをわかっていた。それでこの問題に関してはもう悩まなかった。一通り姉の尋問が終わった後、内海唯花はやっと姉の家から引っ越すことに成功した。 姉は彼女をトキワ・ガーデンまで送ろうとしたが、ちょうど甥っ子の佐々木陽が目を覚まし泣いて母親を探した。 「お姉ちゃん、早く陽ちゃんの面倒を見てやって。私の荷物はそんなに多くないから、一人でも大丈夫よ」 佐々木唯月は子供にご飯を食べさせたら、昼ご飯の用意もしなくてはいけなかった。夫が昼休みに帰ってきて食事の用意ができていなかったら、彼女に家で何もしていない、食事の用意すらまともにできないと怒るのだ。 だからこう言うしかなかった。「じゃあ、気をつけて行ってね。昼ご飯あなたの旦那さんも一緒に食べに来る?」 「お姉ちゃん、昼は店に戻らなくちゃいけないから遠慮しとくね。夫は仕事が忙しいの、午後は出張に行くって言ってたし、もうちょっと経ってからまたお姉ちゃんに紹介するわね」 内海唯花はそう嘘をついた。 彼女は結城理仁のことを全く知らなかったが、結城おばあさんは彼が忙しいと言っていた。毎日朝早く出て夜遅くに帰ってくる。時には出張に行かなければならず、半月近く帰ってこないそうだ。彼女は彼がいつ時間があるかわからなかった。だから姉に約束したくてもできないのだ。適当に言って信用を裏切るようなことはしたくなかった。 「今日結婚手続きをしたばかりなのに、出張に行くの?」 佐々木唯月は妹の旦那が妹に優しくないのではと思った。 「ただ手続きしただけ、結婚式もあげてないのよ。彼が出張に行くのは仕方ないことよ。なるだけお金を稼いだほうがいいじゃない?これから出費は増えるだろうし。お姉ちゃん、じゃあ私行くわね。早く陽ちゃんにご飯食べさせてあげて」 佐々木唯花は姉と甥っ子に手を振って別れを告げ、スーツケーツを持って下に降りていった。 トキワ・フラワーガーデンを入ったことはないが、彼女は知っていた。 彼女はタクシーを呼び、直接トキワ・フラワーガーデンへと向かった。着いてから、結城理仁にどの棟の何階なのか聞いていないことに気がついた。 急いで携帯を取り出し、結城理仁に電話をしようと思ったが、彼の電話番号を知らなかった。LINEを交換していたおかげで彼にLINE電話をすることができた。 結城理仁は会議中で、会議室にいる人は皆携帯をマナーモードに設定していた。彼は会議中は誰もプライベートな電話をすることを許可していなかったのだ。 もちろん彼自身もマナーモードに設定していた。しかし、携帯を机の上に置いていたので、内海唯花からの電話にすぐ気がついた。 夫婦間でLINEを追加する時に結城理仁は彼女の名前を登録していなかったので、内海唯花のLINEのニックネームである『深海の美人魚』と表示されていた。彼は知らない人なので考えることもなく携帯を持ってそのまま唯花からの電話を切った。 さらには内海唯花をLINEから削除してしまったのだ。 内海唯花は彼のこの一連の行動を知らずに、電話を切られたのでメッセージを送ることにした。 彼女はこう尋ねた。「結城さん、私は今トキワ・フラワーガーデンにいます。でも、部屋はどこか聞くのを忘れてしまいました」 文字を打ち終わってメッセージを送ってから結城理仁とはLINE友達でないことに気がついた。 彼女は携帯を見ながらぽかんとした。 「どうして友達登録されていないの?役所の入口で確かにLINE交換したのに。もしかして私が追加操作を間違えた?」 内海唯花は独り言を言って、追加操作を間違えたかどうか思い返した。 確かに操作を間違えてはいなかった。今二人が友達登録されていないということは、一つしか理由はなかった。それは結城理仁が彼女をLINEから削除したということだ。 彼はもしかしてさっき結婚したことを忘れたのか? 正直に言えば、内海唯花がもし姉の家から引越ししなければ、二日もしたら自分には結城理仁という夫がいることを忘れてしまうだろう。 内海唯花は結城おばあさんに電話をかけることにした。おばあさんが電話に出て彼女は言った。「おばあちゃん、私姉の家から出てきて、今トキワ・フラワーガーデンにいるんだけど、結城さんの、えっと、私と理仁さんの家がどこにあるのかわからないの。おばあちゃん、わかる?」 結城おばあさん「......」 「唯花ちゃん、ちょっと待ってね、今すぐ理仁くんに電話するから」 おばあさんも知らなかった。 結城理仁が内海唯花をよく観察するために、新しく買った家と車だ。彼女もこの二人が結婚手続きを終えてから、孫がトキワ・フラワーガーデンに家を買ったことを知ったのだ。 結城おばあさんはそう言い終わると電話を一旦切り、結城理仁に電話をかけた。 結城理仁は新妻のLINEを削除するという奇行の後、携帯をまた机の上に置き、会議を続けた。その結果三分もしないうちに携帯の画面が光った。祖母からの電話には彼はおとなしく出るしかなかった。 「俺は今会議中なんだ」 結城理仁は低い声で言った。「何か用があるなら、帰ってから話してくれよ」 「理仁くん、あなたが新しく買ったトキワ・フラワーガーデンは何棟の何階の何号室なの?唯花ちゃんが引っ越してきたのよ。でも部屋がどこなのかわからないじゃない。彼女のLINEがあるんでしょ?早く教えてあげなさい」 結城理仁は眉をピクっと動かした。ああ、彼は思い出したらしい。 彼は今日結婚し、おばあさんは好いているが自分は初めて会った女性が妻になったのだ。確か内海唯花という名前だったはずだ。しかし彼はさっきその妻のLINEを消したばかりだ。 「ばあちゃん、彼女に伝えてくれ。B棟の8階、808号室だ」 「いいわ、おばあちゃんが彼女に伝えておくから、仕事を続けて」 おばあさんはそそっかしい人で、相手から問題の答えを聞くとすぐに電話を切り、またすぐ内海唯花に結果報告をした。 結城理仁は携帯を見て沈黙した後、再び内海唯花にLINE友達登録の申請を送った。 内海唯花は彼が自分を削除したことは気に留めず、彼の申請を許可した。 「すまなかった。さっき君が誰なのか忘れていたんだ」 結城理仁はメッセージを送り彼女に謝った。 内海唯花は結城おばあさんを助けたことがある。その時、内海唯花にお礼を言いに来たのは結城おばあさんの息子とその奥さん達だった。孫たちが病院にお見舞いに来た時、内海唯花はそこにいなかった。それで、結城理仁のような忙しい人間にとっては内海唯花がいかなる人か覚えられないのだ。 たとえおばあさんがいつも彼の前で内海唯花の名前を口にしたとしても、彼は聞き流すだけで心にも留めないのだ。だから内海唯花の名前など覚えていなかった。 内海唯花は彼に返事した。「大丈夫です。忙しいでしょうから。私は荷物を上に運びます」 「手伝いが必要か?」 「スーツケース一つだけですから、自分で持って上がれますよ。それに本当に助けが必要だとして、あなたは手伝いに来られないでしょう?」 結城理仁は正直に答えた。「無理だ!」 彼は忙しすぎるのだ。 どこに帰って彼女の引っ越しを手伝う時間があるだろうか。 内海唯花は泣き笑いの絵文字を送って、その後は彼の仕事を邪魔しないように静かにした。 結城理仁もそれからメッセージを送ることはなかった。二人はお互いよく知らなかったし、特に話すこともなかった。 結城理仁はただこの妻が言うことを聞き、些細なことで彼に迷惑をかけないことだけを望んでいた。彼にはそれに対処するような時間はなかった。 また携帯を机の上に戻し、結城理仁は顔を上げた。そして彼は気づいた。そこにいる全員の眼差しが自分に注がれていることに。 第5話   結城理仁は何事もなかったかのように言った。「会議を続けよう」 彼に一番近いところに座っているのは従弟で、結城家の二番目の坊ちゃんである結城辰巳だった。 結城辰巳は近寄ってきて小声で尋ねた。「兄さん、ばあちゃんが話してる内容が聞こえちゃったんだけどさ、兄さん本当に唯花とかいう人と結婚したのか?」 結城理仁は鋭い視線を彼に向けた。 結城辰巳は鼻をこすり、姿勢を正して座り直した。これ以上は聞けないと判断したようだった。 しかし、兄に対してこの上なく同情した。 彼ら結城家は政略結婚で地位を固める必要は全くないのだが、それにしても兄とその嫁は身分が違いすぎるのだ。ただおばあさんが気に入っているので、内海唯花という女性と結婚させられたのだから、兄が甚だ可哀想だ。 結城辰巳は再び強い同情心を兄に送ってやった。 彼自身は長男でなくてよかった。もし長男に生まれていたらそのおばあさんの命の恩人と結婚させられていただろう。 内海唯花はこの事について何も知らなかった。彼女は新居がどこにあるのかはっきりした後、荷物を持って家に到着した。 玄関のドアを開けて家に入ると、部屋が非常に広いことに気づいた。彼女の姉の家よりも大きく、内装もとても豪華なものだった。 荷物を下ろして内海唯花は家の中を見て回った。これはこれからは彼女のものでもあるのだ。 リビングが二つに部屋が四つ、キッチンと浴室トイレが二つ、ベランダも二箇所あった。そのどれもがとても広々とした空間で、内海唯花はこの家は少なくとも200平方メートル以上あるだろうと見積もった。 ただ家具は少なかった。リビングに大きなソファとテーブル、それからワインセラー。四つある部屋のうち二つだけにベッドとクローゼットが置いてあり、残り二つの部屋には何もなかった。 マスタールームはベッドルームとウォーキングクローゼットルーム、書斎、ユニットバスがそれぞれあるのだが、非常に広かった。リビングと張るくらいの広さだ。 この部屋は結城理仁の部屋だろう。 内海唯花はもう一つのベッドが置いてある部屋を選んだ。ベランダがあり、日当たり良好でマスタールームのすぐ隣にある。部屋が別々であれば、お互いにプライベートな空間を保つことができるだろう。 結婚したとはいえ、内海唯花は結城理仁に対して本物の夫婦関係を求めてはいなかった。彼女は自分からは絶対にそうしないと決めていた。 荷物を部屋に置き、内海唯花はキッチンに行った。 キッチンにも何もキッチン道具はなくさっぱりとしてきれいだった。両側にあるベランダにも何もなく、空間が大きいせいでとても広々としていた。内海唯花はベランダで植物を育てて、ハンモックチェアを置き、暇な時にその椅子に座って本を読み、花を眺めればとても気持ちが良いだろうと思った。 どうやら、結城理仁は普段家で食事をしないようだ。 彼女はこの家に住むのだから、もちろん自分でご飯を作るはずだ。そこで内海唯花はまずはキッチンから手を付けることにして、ネットでキッチン道具一式を購入した。ベランダの花や他の家具については結城理仁が帰ってきてから彼の意見を聞こうと思った。 なんといってもこれは彼の所有物件で、彼女はただの居候にすぎないのだ。 キッチン道具を買った後、内海唯花は時間を確認し、早く店へ戻らなければならなかった。 彼女は鍵と携帯を持って急いで下へおりていった。 彼女が店に着いた時、ちょうど高校生たちの下校時間だった。 親友の牧野明凛は心配そうに彼女に尋ねた。「唯花、あなたなにしてたのよ?」 「姉夫婦が最近私のせいで毎日喧嘩してたから、ちょっと考えて引越しすることにしたのよ」と内海唯花はそう言いながら親友が手を広げて説明を求めるしぐさを見つめた。「だからさっきまで引越ししてたの」 牧野明凛は親友のあの義兄を思い浮かべ、まるで一言では言い尽くせないといった様子で、耐えきれずため息を吐いた。「男っていっつも『僕が君を養うから』とか言いながら、本当に養う必要が出てきた時に、あれはダメだこれはダメだって言って何かにつけて怒るよね。女は一度結婚しちゃうと家庭のために自分を犠牲にしてさ、しかも色んな誤解までされて本当に不公平よね。やっぱりあなたのお姉さんは仕事を探したほうがいいわよ!私たち女性はいついかなる時でも経済的に自立しないとダメよ。お金さえあればしっかり立つことができるんだから!」 彼女はそう言いながら眉をひそめて、いくらか疑いの眼差しを向けてきた。「お姉さんがそれを許したの?」 「私結婚したの」 「あ、え?結婚?あなた彼氏もいないのに誰と結婚したのよ?」牧野明凛は最初頷いていたが、すぐに驚いて彼女を見つめ、普段より幾分か甲高い声をあげた。 内海唯花は彼女には隠せないことをわかっていて、正直に事のいきさつを全て白状した。 牧野明凛は目を大きく開いてしばらくの間内海唯花を見つめた後、手を伸ばして唯花の額を小突いた。「度胸がありまくりすぎじゃあないの?初めて会った人と結婚したですって?本当に住む場所が見つからないなら私の家に住めばいいじゃないの。家には空き部屋がたくさんあるのに。誰かと結婚する必要があるなら、私の従兄を紹介したのに!」 第6話   内海唯花は笑って言った。「あなたの従兄は彼女がいるじゃない。彼を紹介してどうするのよ?結婚手続きはもう終わったんだから、後悔しても遅いでしょ。ただこのことは秘密にしてちょうだい、お姉ちゃんが本当のことを知ったら悲しむから」 牧野明凛「......」 彼女の親友は、とても勇ましい人だ。 「小説の中の女主人公はいつも大金持ちとスピード婚するけど、唯花、あなたの結婚相手もそうなの?」 そう言い終わると、内海唯花は親友をつつき、笑って言った。「うちの店にある小説、あなた何回読んだのよ?夢なんか見ないでよね。そんな簡単に玉の輿に乗れるわけないでしょ。お金持ちがそこらへんに転がってると思ってる?」 牧野明凛は親友につつかれた場所をさすり、彼女が言っていることはその通りだと思った。彼女はかすかにため息をついた後、また尋ねた。「あなたの旦那さんが買った家はどこにあるの?」 「トキワ・フラワーガーデンよ」 「あら、良い場所じゃないの。あそこの環境は良いし、交通も便利だしさ。この店からもそんなに遠くないし。旦那さんはどの会社で働いてるの?東京で家を買えるくらいだし、トキワ・フラワーガーデンはお金持ちが買えるのよ、旦那さんの収入はきっと高いに決まってるわ。毎月のローンはいくら?あなたもローンのお金を出す必要があるの?」 「唯花、もしあなたもローンを払う必要があるなら、不動産権利書にあなたの名前も付け加えなきゃ。じゃないと損しちゃうでしょ。こう言うのはあまり聞こえがよくないけど、もしあなたたちが喧嘩でもして離婚することになったら、その家は彼のものだし、あなたには家の権利がなくなるのよ」 内海唯花は親友の瞳を見つめ言った。「あなたの考えって私の姉とほぼ一緒よね。家は彼が一括で購入したから、ローンを返済する必要ないのよ。私は一円も出してないわ、不動産権利書に私の名前を加えるなんてできないわよ」 牧野明凛は「夫婦間の仲が良いなら、まあ問題はないんだけど」と言った。 内海唯花はふと思い出した。彼女の姉が住んでいる家は義兄が結婚する前に購入したもので、今も毎月ローンの返済をしていた。内装の費用は姉がお金を出したのだが、不動産権利書には姉の名前は書いていなかった。唯花は義兄がいつも姉に金を使うだけで、能力がないと責めていることを思い、心配になった。 日を改めて姉に注意しなければと思った。 内海唯花は夜遅くまで店を開けていて、閉めるのは夜十一時だ。 牧野明凛の家は店からとても近いし、夜はまた親戚がご飯に誘ってきたので内海唯花は彼女を先に帰らせた。 店を閉めて、内海唯花はポケットからバイクの鍵を取り出し、電動バイクのところまで歩いていった。 彼女は電動バイクに乗って、二十分かけて姉の家に着きバイクを駐車場にとめてからようやく自分が引っ越したことを思い出した。 顔を上げて姉の家を見たら、もう電気が消えていた。内海唯花は少しがっかりし、結局は姉家族の邪魔にならないように再びバイクに乗って姉の家を離れた。 彼女がトキワ・フラワーガーデンに到着した頃にはすでに夜更けだった。 玄関のドアを開けると部屋の中は真っ暗で生活感は全く感じられなかった。 スーツケースの中からパジャマを取り出し、シャワーを浴びて疲れて眠気に襲われた内海唯花はそのままベッドに倒れこみ寝てしまった。 それと同時刻のスカイロイヤルホテル東京。 結城理仁はボディーガードを連れ立って結城家が持つ会社の傘下である高級ホテルから出てきた。彼は得意先との大口の契約を取り、顧客にはホテルのプレジデンシャルスイートを用意した。彼は今日結婚したばかりだということを思い出し、家に帰ることにしたのだった。 「若旦那様、琴ヶ丘の邸宅へ戻られますか?それとも瑞雲山の別荘でしょうか」 琴ヶ丘の邸宅は結城家の実家で、瑞雲山別荘は結城理仁名義の別荘だ。彼は普段その瑞雲山の別荘のほうに住んでいて、たまに結城家の邸宅へ戻り親達と食事をし、親孝行をしていた。 「トキワ・フラワーガーデンまで頼む」 第7話   結城理仁はロールスロイスに乗ると、低い声で指示を出した。「俺が新しく買ったあのホンダの車を運転して来てくれ」 あれは妻を騙すために買った車だ。その妻の名前は何と言ったっけ? 「そうだ、あの嫁の名前は何といったか?」 結城理仁は結婚証明書類を取り出して確認するのも面倒くさかったのだ。いや、あれはおばあさんに見せた時に手渡したままだった。どのみち彼は、あの書類を持っていなかった。 ボディーガード「......若奥様のお名前は内海唯花様です。今年二十五歳だそうです。若旦那様覚えていてくださいね」 彼らの坊ちゃんの記憶力は特に優れていたのだが、覚えたくない人の名前はどうやっても覚えられないようだった。 特に女性は毎日会っていて坊ちゃんは誰が誰なのか覚えられないだろう。 「ああ、わかった」 結城理仁は一声言った。 ボディーガードは彼のその話しぶりから、次も新しく来た嫁の名前を覚えていないだろうことが読み取れた。 結城理仁は内海唯花のことを考えるのはここまでにして、椅子にもたれかかり、目を閉じてリラックスして体と心を休めることにした。 スカイロイヤルホテル東京からトキワ・フラワーガーデンまでは十分ほどだった。 高級車はトキワ・フラワーガーデンの入口で止め、結城理仁は自らあのホンダ車を運転して自分の家まで運転していった。 新妻の名前は覚えられないくせに、自分が買った家は覚えられるのだ。 すぐに自分の家の玄関に着いた。ドアの外に見慣れた自分のスリッパを見つけた。これは彼のスリッパじゃないか? どうして外に出されている? 当然内海唯花の仕業に決まっている! 結城理仁の目つきは冷たくなり、整った顔がこわばった。本来はあの祖母を助けてくれた女性にとても感謝していたのだが、祖母が彼女をベタ褒めし、彼と結婚するように仕向けられて彼は内海唯花に対して好感はなくしてしまっていた。 内海唯花の腹の内は分からないと思っていた。 最終的にはおばあさんの言うとおりに内海唯花と結婚したわけだが、おばあさんにはこう伝えてある。結婚した後は彼の正体は隠したまま、内海唯花の人柄を観察し、内海唯花が結婚するに値する人物であるなら、本当の夫婦として一生を共にすると。 もし彼が内海唯花が何かを企んでいるような腹黒女であると判断したなら、彼は容赦しないと。 結城理仁側の人間をはめようとするのなら、思い知らせてやるぞ! 結城理仁は鍵を取り出しドアを開けようとしたが、あの女が内側からドアロックをかけていて開けようにも開けられなかった。彼の心は不満が大爆発した。 これは彼の家だぞ! 彼女が中に住み、彼は外に追い出された! 結城理仁は怒りが頭に達すると足で玄関のドアをドンドンと何度も大きな音を出して蹴った。 それと同時に内海唯花にLINE電話をかけた。 前科があるため彼は内海唯花の名前をちゃんとLINEに登録しておいた。しかもわざわざ『妻』と書き加えていた。そうじゃないと彼はすぐに内海唯花が一体誰だったのか忘れてしまい、またLINEから彼女を削除してしまうからだ。 結城理仁がドアを蹴っていると内海唯花はその音に起こされた。 こんな夜更けに一体誰がドアを叩いているのだろうか?ゆっくり寝させてくれないの? 内海唯花の寝起きは特に悪かった。誰かから起こされようものならどうなるか、それは言うまでもないだろう。彼女は布団をめくり、パジャマのまま怒って部屋を出た。 携帯は部屋に置きっぱなしで、結城理仁から電話が来ていることに気づいていなかった。 「誰ですか、こんな夜中にうちに何の用です?」 内海唯花はドアを開ける時に、ドアの前に立っている男に文句を言った。そこに立ってるのが誰なのかはっきりとわかった瞬間、彼女はぎょっとした。結城理仁をしばらく見つめてやっと反応できた。急いで笑顔を作り、ばつが悪そうに言った。「結城さん、あなただったんですね」 結城理仁がLINE電話をかけても彼女は出ず、怒りは頂点に達していた。 この時、彼は内海唯花を相手する気もなく、暗い顔つきで唯花を無視して部屋の中に入っていった。 内海唯花はこっそりと舌を出してあっかんべーをした。 これがスピード結婚の後遺症だ。 顔を外に出して結城理仁がさっき大きな音でドアを叩いたものだから様子を伺ってみたが、幸いに隣人は起きていないようだった。内海唯花は腰をかがめて外に置いてあったあのスリッパを家の中に戻し、ドアを閉めてまたドアロックをかけた。 「私が帰ってきた時はもう夜更けで家に誰もいなかったから、あなたは今晩帰ってこないかと思ってドアロックをかけたんです」 内海唯花は説明した。 「女一人で家にいるから、安全のためにあなたのスリッパを玄関の外に置いておいたんです。そうすれば家には男性がいるとすぐわかって何もできないでしょう」 彼女は空手を習ったことがあり、ちょっとした相手なら目にも入らないが、家の安全のためには彼女の行いは正しいものだった。 結城理仁はソファに腰掛け、あの暗い目で彼女をじっと見つめていた。その目つきは鋭く冷たかった。 十月の夜は少し涼しかった。彼にこのように睨みつけられて内海唯花は涼しいを通り越して冬の寒さを感じた。寒っ! 「結城さん、すみません」 内海唯花は彼のスリッパを持ってきて、彼の足元に置き謝った。 彼女は彼に電話をして帰ってくるのか聞くべきだった。 しばらくして、結城理仁は冷たく言った。「俺は君に俺のことは構わなくていいと言ったが、これは俺の家だぞ、俺を追い出して家に入れないとは全く気に食わないな」 「結城さん、本当にすみませんでした。次はあなたが帰ってくるか電話して聞きますから。帰らないならドアロックをかけます」 結城理仁は少し黙ってから口を開いた。「俺が出張の時は君に伝えておく。何も言わなければ毎日ここに帰ってくる。電話はしなくていい、俺は仕事が忙しい、君のつまらない電話を取る暇さえないんだ」 内海唯花は「あ」と一声出した。 彼がそう言ったらそうなのだ。 この家は彼のものだ。 彼がこの家のボスだ。 「結城さん、何か夜食でも食べますか?」 内海唯花は彼が今やっと帰ってきたことを思い出し、お腹が空いているだろうと思って、よかれと思って彼に尋ねた。 「俺は夜食なんか食べない。太るからな」 第8話   結城理仁は自分のスタイルに気をつけていたから、暴飲暴食して太るのは許せないのだ。 ダイエットして体重を落とすのは大変だ。 内海唯花は微笑んで言った。「結城さんはスタイルが良いですよね」 「じゃあ、私は部屋に戻って寝ますね」 結城理仁はそれにひと言返事をした。 「おやすみなさい」 内海唯花は彼におやすみの挨拶をすると、後ろを向いて部屋へと戻ろうとした。 「待て、内海、内海唯花」 結城理仁は彼女を呼び止めた。 内海唯花は振り向いて尋ねた。「何か用ですか?」 結城理仁は彼女を見てこう言った。「今後はパジャマのまま出てこないでくれ」 彼女はパジャマの下に下着をつけていなかった。彼は目が良いので見ていいもの悪いもの全てが見えてしまうのだ。 彼らは夫婦だから彼が見るのはいいとして、万が一誰か他の人だったら? 彼はなんといっても自分の妻の体が他の男に見られるのは嫌なのだ。 内海唯花は顔を赤くし、急いで自分の部屋に戻ると、バンッと音をたててドアを閉めた。 結城理仁「......」 彼は気まずいとは思っていなかったが、彼女のほうは恥ずかしかったらしい。 少し座ってから、結城理仁は自分の部屋に戻った。この家は臨時で購入したもので、高級な内装がしてある家だ。ただすぐに住める部屋ならどこでも良かったのだ。 しかし、あまりに忙しくて彼の部屋も片付けられていなかった。 彼は内海唯花が物分りが良いことにはとても満足した。ずうずうしくも彼と同じ部屋で寝ようとはしなかったからだ。 さらに彼に夫としての責任も要求してこなかった。 それからの残りの夜は、夫婦二人何のいざこざもなく過ごせた。 次の日、内海唯花はいつもどおりに朝六時に起床した。 これまで、彼女は朝起きるとまず朝食を用意して、家の片付けをしていた。時間に余裕がある時は、姉を手伝って洗濯物を干していた。彼女が姉の家に住んでいた数年は家政婦のようなことをしていたと言ってもいい。ただ姉の負担を減らしたいがためにしていたことだったのだが、義兄の目にはやって当然のことだと映っていたのだろう。彼女を家政婦同然と見て使っていたのだ。 この日起きて、まだ見慣れない部屋を見回し、頭の中の記憶部屋で整理して内海唯花は一言つぶやいた。「私ったら、寝ぼけちゃってるわ、まだお姉ちゃんの家にいると思っちゃった。ここは自分の家なんだから、もっと寝ていてもいいのに」 彼女は再びベッドに戻ると引き続き眠った。 しかし、彼女の生活のリズムはもう出来上がっていて、二度寝したくても眠れなかった。 お腹も空いたし、いっそのこと起きることにした。 服を着替えて顔を洗い、部屋を出て結城理仁の部屋を見た。部屋の扉は固く閉ざされていた。彼はまだ起きていないのだろう。それもそうだ、昨日あんなに遅くに帰ってきたのだからこんなに朝早く起きられるはずがない。 キッチンへと行き、何もない厨房を見つめ内海唯花はしばらく黙って、振り向いて出てきた。 彼女は昨日ネットでキッチン道具一式を購入したが、まだ商品は届いていなかった。 ネットじゃなくて、いっそ大きなスーパーに買いに行けば早かったなと彼女は思った。 昨日引越しする時、この付近に朝食を食べられる店があったのを思い出した。 内海唯花は外へ二人分の朝食を買いに行くことにした。 結城理仁は何が好きなのだろうか? 彼を起こして聞くのも申し訳ないので、いろいろ買ってきたほうがいいだろう。 彼女はおにぎりやサンドイッチ、牛乳、コーヒーなど一般的な朝食を選んで買ってきた。 結城理仁は寝るのは遅かったが、起きるのは早かった。内海唯花が朝食を買いに出かけた後、彼は起きてきた。 妻がいることに慣れていない彼は、一瞬内海唯花の存在を忘れていて、上半身裸のまま部屋を出てきた。水を入れて飲もうとしたが、内海唯花がこの瞬間ドアを開けて帰ってきて、この夫婦二人は顔を合わせることになった。 次の瞬間、結城理仁は両手で胸元を隠し、後ろを向いて部屋に戻っていった。昨晩の内海唯花とよく似た光景だった。 内海唯花は一瞬呆然としたが、瞬時に笑い始めた。 男の人の上半身なんて見ても仕方ないじゃない、腹筋しか見るところはないのに、彼ったら胸を両手で隠すなんて、はははは、可笑しいったらありゃしない!と心の中でつぶやいた。 しばらくして結城理仁は、また内海唯花の前に現れた。その時にはもうスーツ姿で、彼は浮かない顔をしていた。しかし、唯花に対して何を言えばいいのか分からなかった。 彼はまた自分の家に知らない女がいることをすっかり忘れていた。この知らない女は一応自分の妻なのだ。 彼はいつもは自分の別荘に住んでいて、朝起きた時には二階建ての家には彼一人しかいなかった。彼が下の階に降りてこなければ、下にいる使用人たちも上にはあがってこなかった。それで彼は気が緩んでいて、たまに上着を着ることなく部屋から出てくるのだ。 この日もまさにそれと同じで、この何を企んでいるかわからない女に上半身を見られてしまった。 「結城さん、朝ごはんを買ってきたんです。食べてください」 内海唯花はお腹が痛くなるほど笑ったが、朝ごはんを食べることは忘れていなかった。彼女が買ってきた朝食は食卓の上に置いてあった。彼女に上半身を見られて何キロか痩せたような男に朝ごはんを食べるよう促した。 結城理仁はしばらく沈黙し、彼女のほうへやってきて、その朝食をちらっと見ると冷たく低い声で言った。「自分で作れないのか?」 「できますよ。私が作った料理はとても美味しいんですからね」 「外で買ってきた朝食、特にコンビニなんかの食べ物は体によくないだろう。今後はあまり食べないほうがいい。自分で作れるなら、家で作ったほうが栄養があって、体に良いだろ」 結城家のご当主様である結城お坊ちゃまは、このような東京のサラリーマンがコンビニで買うような普通の朝食を召し上がりになったことはないのだろう。 内海唯花は聞き返した。「キッチンをご覧になりましたか?あなたの顔よりもさっぱりきれいですよ。何もないですからね。たとえ私が五つ星ホテルの料理人だったとしても、キッチン道具も食材もないなら、豪華な食事なんて用意できません」 結城理仁はぐうの音も出なかった。 「食べますか?」 内海唯花は彼に尋ねた。 お腹も空いたし、結城理仁は自分の奥様にぼろを見せないようにするため、食卓に座って淡々と言った。「もう買ってきたんだから、食べないともったいないだろ。たまに一、二度食べるくらいなら死にはしないだろう」 言い訳をして自ら助け舟を出したようだ。 内海唯花は朝食の半分を彼に渡した。 それから椅子に座り、朝食を食べながら彼に話しかけた。「昨日引っ越してきたときにこの状況を見て、ネットでキッチン道具一式買ったんです。片付けたら今後は私がご飯を作ります。二度とあなたにコンビニ弁当なんて食べさせませんので」 彼は大企業で働いていて、ある程度の役職を持っているホワイトカラーだから、こだわりがあるのだろう。 彼女も普段は自分で食事を作る習慣があり、店で働いている時だけデリバリーを利用していた。彼にこだわりがあるなら、彼女は彼に合わせるつもりだった。 「私たちの家はまだ足りないものがたくさんあります。私が好きにやってもいいですか?」 結城理仁は頭を上げて、対面に座っている妻の目をちらりと見て、朝食をまた食べ続けた。この普通の朝食は意外と美味しいものだ。 「俺たちは結婚して夫婦になったんだ。ここは君の家でもあるだろう。君の好きなようにしたらいいさ。俺の部屋には何もしないでくれればいい」 それ以外の場所は、彼女が好き勝手にしていい。 「わかりました」 彼の許可を得て、内海唯花は自分のしたいようにしようと決めた。 ベランダで花を育てて、ハンモックチェアを置き、暇なときに椅子に揺られながら本を読んで花を鑑賞する計画だ。 「あ、そうだ。昨日おばあちゃんが週末あなたと一緒に実家に帰って食事するように言ってました。ご両親たちに会うようにと」 結城理仁は淡々と言った。「週末また話そう。俺に時間があるかどうかまだ分からない。時間がなければ、ばあちゃんに両親を連れてくるように伝えておくから、君達は一緒に食事すればいい」 内海唯花はそれに関して特に意見はなかった。 第9話   食事を終えると、結城理仁は財布を取り出し、開けて中を見てみた。現金はあまり入っておらず、彼は銀行のキャッシュカードを取り出し内海唯花の前に置いた。 内海唯花は眉をピクリと動かし彼を見つめた。 「何か買うなら金が必要だろう。このカードは君に渡しておくよ、暗証番号は......」 彼は紙とペンを探し、暗証番号を紙の上に書いて内海唯花に手渡した。 「今後はこのカードの中の金を家の金と思って使ってくれていい。毎月給料が支払われたら君のカードに送金する。今後買ったものは記録でもつけといてくれ。俺は君がいくら使おうと構わない。だが、何に使ったのかは把握しておきたいんだ」 結婚手続きを終えた時に内海唯花は彼に尋ねた。夫婦間で出費を半々に負担する必要はないと言っていた。結婚して夫婦になり家族になったのだ。彼は彼女が金を使うのは全く気にしていなかった。 どのみち彼自身もいくら金があるのかなど把握していなかった。一家の財産が、一体正確にいくらあるのか全く知らないのだ。普段会社で忙しく働きお金を使う暇もなかった。だから、妻一人くらい養うことは、彼にとっては少しお金を使う機会を得たくらいのものだった。 しかし彼も都合のいいカモになるつもりなど毛頭なかった。彼の中では内海唯花は腹黒女なのだから、用心するに越したことはないのだ。 ただ彼女がこの家にお金を使うなら、彼女の好きにしたらいい。彼は全くそれについては意見はなかった。 内海唯花は結城理仁のこのような態度とやり方が気に食わなかった。 彼女はキャッシュカードと暗証番号が書かれた紙を一緒に彼に突き返した。暗証番号すら一度も見なかった。 「結城さん、この家はあなた一人で住んでいるんじゃなくて、私も一緒に住んでいます。家を買ったのはあなたです。私も同居して外で部屋を借りる家賃は必要なくなりました。この家の出費を、またあなた一人に負担させるわけにはいかないですよ。家に必要な物のお金は私が出します」 「四万円を超える場合は相談させていただきます。あなたは少し出してくれるだけで結構です」 彼女の収入も決して少なくないので、家庭における日常の出費は全く問題なかった。少しお金がかかるもの以外は、彼にお金を出してもらう必要はないのだ。 彼にお金を出してもらう分には抵抗はなかったのだが、問題は彼の内海唯花に対する態度で彼女は気分を害したのだ。まるで彼女が、彼のその家庭用のお金を貪欲に使おうとしているみたいだったし、買ったものを覚えておけとまで言われたのだから、良い気分はしないだろう。彼女が普段買う物の中で、店で必要な物以外の生活用品なんて何を買ったかいちいち覚えてなどいないのだ。 結城理仁もバカな人間ではない。逆に非常に聡明な人間だ。内海唯花が断ったことで、彼の態度が彼女の自尊心を傷つけたことを重々承知していた。彼は少し沈黙した後、やはりカードと暗証番号の紙を差し出し、今度は語気を柔らかくして言った。「君が店を開いて店長をしていることもお金を稼げることも知っているよ。君はこの家は俺たち二人のものだと言っただろう?君にも俺にも負担する権利はあるんだ。君一人に家の出費を出させるわけにはいかないさ?持っていてくれ、何に使ったのかはもう記録しておく必要はないから」 「車の件は考えてくれたか?頭金を俺が出すから、車を買わなくていいだろうか?君の収入だったら、車一台くらいは問題ないのだろう?」 彼はわざわざ彼女の収入がいくらあるかは調べなかったが、星城高校の前に本屋を開いているくらいだから、彼女の能力が高いことは言うまでもない。稼いでいる金額も少なくないはずだ。この時代女性や子供に関する商売は稼ぎやすいのだ。 「家から店までそう遠くありませんから、電動バイクで十分なんです。東京の交通状況を考えれば、毎日のラッシュアワーは渋滞がひどいですよね。車よりもバイクのほうが便利ですから」 結城理仁は言葉に詰まった。 彼女の言ったことは事実だ。 彼が普段出勤する時はいつもこのラッシュアワーを避けていた。 たまに急用で出勤のラッシュアワーに家を出ると、ひどい渋滞で人生を疑うほどだ。自家用ジェットで出勤したくてたまらなかった。 「車があれば、やっぱり便利だろ。週末車を運転して君のお姉さんと甥っ子さんを連れてプチ旅行にでも行けるじゃないか」 結城理仁は祖母からこの女性は姉とお互い助け合って生きてきたと聞いていた。一番大事に思っているのは、その姉と甥っ子なのだと言っていたのを覚えていた。 「また今度話しましょう。私達は結婚したばかりでお互いによく分からないし、あなたのお金を使って車を買うのはちょっと気が進まないんです。実際、自分の貯金で車一台くらい買えるんですけど、私は家のほうが欲しいです。家があってこそ自分が落ち着ける場所がありますから。私は男じゃないから。男の人って車のほうに興味があるのでしょう」 男と女で家を買うか、車を買うか選択は全く違っていた。女性は普通家を選び、男性は一般的に車を選ぶのだ。 「そうだ、姉があなたに会いたいと言っていたんです。でも、姉にはあなたは最近出張で忙しいと言ってあります。もう少し時間をおいてから姉に会ってもらえますか?」 結城理仁は一言「うん」と返事した。 夫婦は軽く会話をした後、内海唯花は洗濯物を干しに行き、結城理仁はリビングで新聞を読もうとしていた。この家はまだ新聞の契約をしていないので、彼は携帯でニュースを見て時間を潰すしかなかった。 「あなたの服は洗いました?」 内海唯花は自分の服を干し終わって、ついでにソファの上で携帯をいじっている男に一言尋ねた。 「自分でやるよ」 彼の服は全部クリーニングに出しているのだ。 内海唯花は唇を閉じてもう何も言わずに他のことをし始めた。 掃き掃除、拭き掃除、部屋の片付け。 結城理仁は彼女が家の中で忙しく動き回り、使用人がすることをしているのを見て眉をひそめ、何か言おうとしたが、少し考えて結局は何も言わなかった。 彼の家ではこのようなことは使用人のやることなのだ。しかし、一般家庭では大部分が妻がこれらの家事を一手に引き受けているのだった。 彼らがこの家に住み始める前に、彼の執事が使用人に掃除をさせてくれたおかげで、家の中はまだとてもきれいだった。彼女は一通り掃除したが、何もゴミなど出なかった。 日常で習慣的にやることを終えて、内海唯花は自分の部屋に戻り適当に片付けをした後、携帯を入れる袋を取り出してソファにいる男に話しかけた。「結城さん、私は先に出て姉のところに行きますね。その後は直接店の方へ行きます。今夜何時くらいに帰ってくるんですか?メッセージを送ってくれたらドアを開けておきます」 「出張以外は毎晩ここへ帰ってくる。もし出張するなら早めに君に伝えるよ」 内海唯花は「はい」と一言答えた。 「内海、内海唯花、このカードを持っていってくれ」 結城理仁はカードを持って体を起こし、内海唯花の前にやってきた。もう一度カードを彼女に手渡して、彼女に謝罪した。「さっきは俺の言い方が悪かった。君に謝りたいんだ。本当にすまなかった!」 内海唯花は少しの間彼を見つめ、今度の彼の態度は誠意が込もっていると感じ、カードを受け取った。その暗証番号を書いた紙と一緒にズボンのポケットの中へ押し込んだ。 「じゃあ、私は行きますね」 「ああ」 結城理仁はその場で内海唯花が出かけるのを見ていた。 玄関のドアが閉まった後、彼は胸をなでおろした。 夫というこの役目を彼はあまり上手に演じられないようだ。 再びソファに座りなおし、結城理仁はテーブルの上にあった携帯に手を伸ばし、実家の執事に電話をかけた。執事が電話に出ると、彼は低い声で指示を出した。「古谷さん、ばあちゃんが起きたら伝えてほしいことがある。今週末何人か連れてトキワ・フラワーガーデンに来て食事をしてほしい。ばあちゃんにこう言えばすぐわかるから」 第10話 内海唯花は予定通りに姉の家へ行った。 家に着くと、姉はもうとっくに起きていて台所で忙しなく家事をしていた。 「お姉ちゃん」 「唯花ちゃん、あがって、あがって」 台所から出てきた佐々木唯月は妹の顔を見て、嬉しそうに「もう食べたの?お姉ちゃん今素麺作ってるの、一緒に食べる?」と聞いた。 「ううん、いいよ、もう食べたから。そういえば、朝食買ってきたよ、素麺はもう鍋に入れたの?まだだったら、陽ちゃんと一緒にこれを食べて」 「まだよ、ちょうどよかったわ。実はね、昨日陽が熱出しちゃって、一晩中ずっと看病してやってて全然眠れなかったの。だから今朝起きるのが遅くなって、お義兄さんも外で朝を食べたのよ。毎日家にいて何もしてないくせに、子育てだけでぐったりして、朝ごはんすら作ってくれないって彼に散々言われたわ」 佐々木唯月は少し悔しそうにしていた。 それを聞いた内海唯花は腹を立てて言った。「陽ちゃんどうして熱が出たの?今熱がなくても、後で病院に連れて行ってあげてね。そうしないとまた拗らせて繰り返すわよ。義兄さんも義兄さんで、子供が病気なのに、全く手伝ってくれないうえに、お姉ちゃんを叱ったりするなんて一体どういうことよ」 「お姉ちゃん、私今もうこの家から出て行ったのよ。義兄さんはまだ生活費の半分をお姉ちゃんに押し付けてる?」 ソファに腰をかけた佐々木唯月は妹が持ってきたうどんを出し、食べながら言った。「後で陽をお医者さんのところに連れていってくるわ。生活費なら、やっぱり私と半々で負担してるよ。彼は私が毎日ただお金を使っているだけで、どうやってお金を稼ぐかも、彼がどれだけプレッシャーを受けているのかも知らないって言うの。まあ、私もこの家の一員である以上、少しくらい負担しないとね」 「きっと彼の姉さんが言ったことよ。あの義姉さんはお嫁に行っても、まだ実家のことばかり気にしているの。以前義兄さんは私によくしてくれてたのに、あの義姉さんのせいで......」 実は佐々木唯月は会社を辞める前にもう財務部長までにのぼっていて、かなりの給料をもらえていたが、愛のため、結婚のために色々なものを犠牲にしてここまで来たのだ。それなのに、最後に得られたのは夫の家族からの悪口だけだった。 彼女がお金を使っても、全部この家ために使っていることだ。久しぶりに自分の服を買うのにも、妹にもらったお金で買っていた。化粧品などもう言うまでもない。 それでも、新しい洋服や化粧品を買うたびに、また無駄使いしたと義母と小姑に厳しく叱られた。妹からもらったお金だと説明しても、もらったものならもうこの家の共有財産なのだから、もちろん勝手に使っちゃだめだとさらに言いつけられた。 「だったら、陽ちゃんを保育園に預けたらどう?お姉ちゃんが職場に復帰すれば、義兄さんよりもっと稼げるはずだよ」 内海唯花は姉のことをとても心配していた。 昨日までここに住んでいて、姉に苦労させないように、家事のほどんとを内海唯花が引き受けていたのだが、彼女が出ていった今、姉のやることが当たり前のように多くなった。 「陽が三、四歳になってから幼稚園に入れるってお義兄さんが言うのよ」佐々木唯月も働きたいと思っていたが、家と車のローンはもちろん、親の扶養にかかるお金も含め、負担が大きすぎるのだ。 それを聞いた内海唯花は眉をひそめた。義兄の姉に対する態度がますますひどくなっていくような気がして、思わず尋ねた。「お姉ちゃん、義兄さんは浮気でもしてるんじゃないの?」 佐々木唯月はさすがにびっくりした様子で言った。「まさか、彼の給料がいくらあるか、私はちゃんと把握してるの。愛人を作る余裕とかないはずよ」 「でも、義兄さんの態度がますます悪くなってきたじゃない?お姉ちゃん、ちゃんと自分の将来を考えなきゃ。収入も理解ももらえない専業主婦になってはいけないわよ」 暫くの沈黙の後、佐々木唯月はゆっくり口を動かした。「この話はまた後にしましょ。唯花、お姉ちゃんのことは心配しないで、ちゃんとできるから。あなたこそどうだった?あなたの旦那さんはいつ出張から帰ってくるの?」 「まだよ、彼は大企業で働いているから、仕事が忙しいの」 佐々木唯月は妹の新しい生活をもう一度じっくり聞き、確かにちゃんと暮らしているのを確認して、ようやく一安心できた。 甥っ子のお見舞いをした内海唯花は、姉に促され、先に店に戻った。 しかし、姉のことばかり心配していて、電動バイクに乗って本屋に向かっていた彼女は道の状況に気づいていなかった。危うく一台の車にはねられそうになったところで、彼女はようやく気がついた。慌ててその車を避けて自分の電気バイクを止めた。 その車も急ブレーキをかけて、停車した。 内海唯花はこの時やっとその車をはっきりと確認した。それはなんとロールスロイスの高級車だった。 ロールスロイスの後ろにはセダンが何台もついていた。おそらくそれに乗っていた全員はこの高級車の持ち主のボディーガードなのだろう。 東京という大都市で、高級車を見かけること自体は珍しくなかった。 内海唯花は慌てて運転手に申し訳ないといったジェスチャーをすると、すぐに電動バイクでその場から逃げ出した。 怒られるのが怖かったからだ。 運転手は後ろに座っていた黒い服の男に振り向いた。「若旦那様、今のは若奥様のようですよ」 結城理仁は暗い顔をしていた。彼はもちろん内海唯花が彼の車にぶつかりそうになったのがはっきりと見えていた。彼女は明らかに何か考え事をしていながらバイクに乗っていたのだ。しかも、この多くの車が行き交う道で、あんなことするなんて、死ぬ気か?