今度こそ、幸せな道を歩もう

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今度こそ、幸せな道を歩もう

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生まれ変わった私は、心に固く誓った。 もう二度と、幼なじみの芹澤和也(せりざわ かずや)に執着しない。彼に縋りついて生きるのは、もうや...

Chương (1)

第1章

生まれ変わった私は、心に固く誓った。 もう二度と、幼なじみの芹澤和也(せりざわ かずや)に執着しない。彼に縋りついて生きるのは、もうやめにすると。 だから―― 彼の誕生日の日、会場の前に、私と犬が立ち入り禁止という看板が置かれ、私は潔くハワイへのチケットを取り、遠く離れようと決めた。 「お前の匂いがするだけで、吐き気がする」と吐き捨てられれば、黙って家を出た。 「卒業したら、同じ空気を吸うのも嫌だ」と言われれば、さっさと別の街に引っ越した。 「お前がいると、大切な彼女が誤解する」と言われたら、頷いて、数日後には新しい恋人との交際を公表した。 そう――今回は、私は前世の私とは正反対の道を歩くことにした。 なぜなら―― 前世、私は和也と結婚したが、彼が愛している女が自殺した。 彼は私を犯人だと決めつけては日々責め立て、ついには私を自殺に追い込んだ。 だからこそ、今度は静かに生きようと決めた。 新しい恋人と手を繋ぎ、やっと自由になれたと思ったそのとき―― 道の真ん中に立ちふさがる和也がいた。 赤く充血した目で、私を睨みつけながら叫ぶ。 「あゆみ、お前が戻ってきてくれるなら……今までの冗談も裏切りも、全部許してやるよ」 第1話 【藤原あゆみと犬、立入禁止】 その懐かしい看板を目にした瞬間、涙があふれた。 悲しさではない。うれし涙だった。 ――藤原あゆみ(ふじはら あゆみ)。それは、私の名前。 今まさに「犬」と並べて侮辱されているのに、私は心底から嬉しかった。 なぜなら、私は――生き返ったのだ。 しかも、婚約者・芹澤和也(せりざわ かずや)の誕生日当日にタイムスリップした。 誰の目から見ても、私は和也に釣り合わない存在だった。 家柄も、容姿も、何もかもが天と地ほど違っていた。 彼は江北市・芹澤家の跡取り息子。私は親もいない孤児。 ただの子ども時代の冗談で交わされた婚約が、二十年以上も私たちを縛っていた。 みんなが和也に同情している。 もちろん、彼自身も。 だから彼は、私がパーティーに入れないよう、家の前にこの看板を立てたのだ。 「藤原、悪いけど今日は入れてやることはできない。これは和也さんが決めたことだ。 お前ならわかってくれるだろ?無理に入ったら、ますます立場が悪くなるだけさ」 玄関の前に立つのは和也の取り巻きたち。彼らは冷たい目で私を追い返そうとしている。 両脇には、電気警棒を持った警備員。 まるで、私が犯罪者であるかのような扱いだ。 それほどまでに、和也は私を忌み嫌っていた。 前の人生でも、私はこの宴に参加できなかった。 玄関先にしゃがみ込み、朝から晩まで、犬のようにひたすら待ち続けた。 結局寒さに凍え、高熱で倒れた。 和也の両親がこのことを聞くと、息子を叱り、結婚式を早めるよう強く勧めた。 そして結婚の日。 和也の初恋・伊藤菜々子(いとう ななこ)が崖から飛び降り、命を落とした。 それ以来、和也とその取り巻きたちは、私を「殺人犯」だと決めつけた。 彼は復讐の名のもとに、私を冷たく虐げ続け―― 無視し、拒絶し、痛めつけた。 私は何度も離婚を願い出たが、すべて却下された。 「お前が死ぬまで俺は離婚なんかしない」と、彼が言った。 その言葉のとおり、私はただの物のように扱われ、二十年間朽ち果てるように生きた。 そして最後、心を壊し、海へと身を投げた。 けれど――その死の間際。 私は信じがたい光景を目にした。 菜々子が帰国し、堂々と和也と再会したのだ。 彼女は死んでいなかった。むしろ生き生きと輝き、世界的に有名なデザイナーにまでなっていた。 和也と彼女は人々の祝福を浴び、「ようやく結ばれた恋」として謳われた。 最初から最後まで――私だけが騙され、卑屈な思いをしていた。 だから、今度こそ、私は私の人生を取り戻す。 和也には近づかない。絶対に。 第2話 私は周囲の驚きの視線を一身に浴びながらも、何の未練もなくその場を離れた。 芹澤家へ戻ると、重たいドレスを脱ぎ捨てる。 私は和也のことを愛し、尽くしてきたことは周知の事実。 彼に関わることなら、何でも先回りして考え、すべて完璧に段取りしていた。 彼が「仕事が疲れる」「息抜きが欲しい」と口にすると、私は彼のスケジュールに合わせてハワイ旅行を手配してあげた。 彼がかつて「ハワイの海とビーチが恋しい」と言っていたのを覚えていたから。 ――けれど、彼はハワイ旅行を断り、代わりに菜々子と登山に行くことを選んだ。 私には同行を命じられた。 土砂降りの中で、菜々子が落としたブレスレットを拾ってこいと命じられ、私は崖から転げ落ちて脚を骨折した。 2か月もの間、病院のベッドで寝たきりだった。 あの命の尽きそうな絶望感――もう二度と味わいたくない。 和也から離れること、それが人生をやり直す第一歩だ。 私は手早く荷物をまとめ、パスポートなどを持って階段を降りた。 ちょうどそのとき、正装姿の和也が慌ただしく玄関から飛び込んできた。 私の姿を見た彼は、いきなり冷笑し、こちらのスーツケースを奪って床に叩きつけた。 「何をするの?」 私がそう聞くと、彼は逆ギレのように怒鳴った。 「それはこっちのセリフだ! だいの大人が家出など子どもじみた真似をするとは。 次は何?また遺書を残して自殺するつもりか?」 怒りと軽蔑に満ちた目で、和也は私を責め立てた。 「いいかあゆみ、お前の幼稚さには呆れた。自殺で俺を脅かしても無駄なんだぞ!」 私は投げられたスーツケースを拾い、彼をまっすぐ見返す。 「自殺なんて一言も言ってないよ」 和也と菜々子みたいな卑怯な人間まで都合よく生きているのに。 せっかく手にした「もう一度の人生」を、私が捨てるわけがない。 和也は鼻で笑い、何も答えなかった。ただ、その目には露骨な嘲りが浮かんでいた。 そのとき、菜々子がゆっくりと現れ、やさしい口調で語りかけてきた。 「あゆみ、誕生日パーティーに参加したかったら、ちゃんと和也くんに言えばよかったのに。 二人は兄妹みたいに育ったんだから、中に入れてくれないわけがないでしょ? 命を使った脅しは、一度ならまだしも、二度目はもう嘘同然だからね」 彼女は言葉を選びながらも、明らかに何かを仄めかしていた。 和也の視線もますます私への嫌悪に染まっていく。 記憶の奥がざわめいた。 ――高校時代。和也が菜々子と付き合い始めた後、私のことを無視し始めた。 私はやるせなさに耐えられず、「川に飛び込んでやる」とメッセージを残した。 それを聞いた和也の両親、正治(まさはる)さんと恵子(けいこ)さんは大きく動揺した。 二人は激怒し、和也と菜々子の交際を無理やり止めさせた。 その件以来、和也は私を憎み、拒絶し、口を利こうともしなくなった。 菜々子の取り巻きたちは私を孤立させ、陰湿ないじめを繰り返したが、和也は見て見ぬふりをした。 私は、視線を逸らさずに和也に告げる。 「誤解しないで。自殺なんて考えてないよ。今からハワイに行くの、だから荷造りしてただけ」 和也は鼻で笑った。まるで、私がくだらない言い訳で自分を正当化しようとしているとでも言っているかのように。 すると菜々子が、少し困ったように彼の袖を引いた。 「ねえ和也くん、あゆみを誕生日パーティーに連れてってあげようよ。このままじゃ可哀想でしょ?」 和也は眉をひそめ、口を開こうとした瞬間、私は彼を遮った。 「結構だよ。私はハワイに行くって言ったでしょ」 和也の顔色がわずかに変わった。 「……聞いたか?『ハワイに行く』ってさ!」 菜々子がため息をつき、そっと私の腕に手をかけてきた。 「あゆみ、ワガママも大概にしなさい」 その長いネイルが、誰にも気づかれない場所で私の皮膚に深く食い込んだ。 「……ッ!」私は思わず彼女を突き飛ばした。 菜々子は床に倒れ込み、弱々しく手を押さえながら私を見上げる。 その唇はわなわなと震え、まるで心の底からショックを受けたように。 「あゆみ……なんて……」 第3話 「貴様、殺すぞ!」 和也は激高し、私を思いきり突き飛ばした。 後頭部が階段の角にぶつかり、鋭い痛みが頭を貫く。 目の前がグラグラと揺れ、世界が霞んで見えた。 耳元では、彼の怒声がこだまする。 「人を傷つけるのがそんなに楽しい? お前みたいなクズと一緒にいたら、この家の空気まで腐る。心底むなくそ悪いぞ!」 痛みに耐えながら、私は彼の罵声を遮った。 「……心配しなくても、近いうちに出ていくから」 「上等だ!後悔するなよ」 怒りを押し殺しながら私を睨みつけると、和也は菜々子を抱き上げ、そのまま背を向けて去っていった。 私は後頭部に手を当てると、ベッタリとした血の感触が指に伝わる。 ふと、ひとつの記憶が脳裏をよぎった―― あれは十五歳の頃。 あの頃和也との関係は、今のように冷えきってはいなかった。 彼が自分の婚約者だと知らされていた私は、いずれ家族になるんだなと、いつも彼に懐いていた。 反抗期の彼は、こっそりゲーセンに行ってゲームをしていたときも、私はついて行った。 ある日、ゲームをめぐって喧嘩になり、私が仲裁しようとしたところで、誤って手を切ってしまった。 その瞬間、和也はまるで猛獣のように豹変し、相手の男をボコボコに殴りつけた。 ――あの頃は、私がちょっと怪我をしただけでも、本気で心配してくれたのに。 今では、他の女のために私を突き飛ばし、罵るようになった。 ……けど、そんなのもうどうでもいい。 正治さんと恵子さんが戻ってきたら、この婚約もきっと解消できる。 私はふらつきながら近くの使用人を見て、なんとか微笑んで声をかけた。 「お願い……病院まで連れて行ってもらえないかな。お金は払うから」 若いメイドが一瞬こちらへ踏み出しかけたが、年配の使用人に強く腕を引かれて止められた。 彼女たちのひそひそ話が、かすかに耳に届く。 「バカ、何をしてるの? 若旦那は藤原さんが大嫌いなのよ。手を貸したらクビになるわよ!」 若いメイドは怯えて私を一瞥し、そのまま逃げるように立ち去った。 私は苦笑し、画面が割れたスマホを拾い上げる。 正治さんと恵子さんは年の大半を他所で過ごしており、家に帰るのは月に数日だけ。 だからこの家の実質的な主は和也ただ一人だ。 そんな彼は何度も使用人たちに言ったことがある。 ――「藤原あゆみは芹澤家の人間じゃない。彼女のことはほっとけ」と。 だから皆、私に関わろうとはしなかった。 家に戻ると、残された料理はすべてゴミ袋に入れられて捨てられ、お皿も綺麗に片付けられている。 そんなのもう慣れた。 私は自力で病院に行き、診察を受けた。 診断結果は「脳震盪」。二日間、病院に泊まるよう指示された。 退院後、私はすぐに芹澤家へ戻り、荷物をまとめた。 使用人たちは冷ややかな視線を投げながらも、誰ひとり手を貸さない。 その日の午後、私は荷物をすべて新しく借りた部屋へ運び込んだ。 ここは仮住まい。 卒業証書を受け取り、内定もらって、婚約を解消したら―― 私はこの家と、この街とさようならできる。 芹澤家を出て三日後。 和也から電話がかかってきた。 酔ったような、くぐもった声だった。 「どこにいる? a12の個室だ。すぐ来い」 ちょうど履歴書を書いていた私は思考を遮られ、苛立ちまじりに返した。 「……何の用?」 電話の向こうは一瞬沈黙し、周囲のざわつきもぴたりと止んだ。 私は再び声をかけたが、返事がなく、電話を切ろうとしたその時。 「……あゆみ、お前、どこに行ったんだ?」 私はパソコンに向かいながら、スマホをテーブルに置いて答えた。 「あなたが『同じ家にいるだけで空気が腐る』って言ったから、出ていったよ。 安心して。もう戻らないから」 彼は息を荒げ、低く冷笑した。 「お前、いつからそんなに素直になった? あれだけ俺にすがりついてたのに?今さらいい子気取り? じゃ今すぐこの街から出て、二度と俺の前に現れるなって命令したら、従ってくれる? ……いいか?お前は何を企んでるのかはわからないが、菜々子を傷つけるような真似したら、許さないからな!」 操作しにくいマウスを何とか動かしながら、私は少し遅れて彼の言葉を理解した。 電話の向こうでは、彼の鼻で笑う声がした。 「何、もう反論できないのか? こんな子どもじみた手口、もう飽き飽きなんだよ。 菜々子に謝れば、家に戻るのを許してやってもいいぞ?」 私は静かに答えた。 「わかった。和也の命令なら聞くよ、この街から出て行くから」 彼の返事を聞く前に、私は通話を切った。 第4話 私はついに卒業証書を受け取った。 送っていた履歴書にも次々と返事が届く。 中でも一番気に入ったのは、隣の市にある有名企業で、すぐに面接の日程を組んでもらった。 就職する――それは、前の人生でずっと夢見ていたことだ。 嬉しさと不安が入り混じる中、電車に乗る直前に、会社から電話がかかってきた。 ――無事内定が出たのだ。 その瞬間、全身に力がみなぎった。電車の中で、さっそく新しい住まいを探し始める。 和也からやっと解放される。その事実が、何より私を浮き立たせた。 けれど、その明るい気分は、ホームに降り立った瞬間にかかってきた一本の電話で、あっけなく打ち砕かれた。 かけてきたのはもちろん、和也だ。 電話を取ると、彼の無遠慮な声が響く。 「今どこだ?」 まるで氷水を浴びせられたように、さっきまでの喜びが消し飛んだ。 「……何の用?」 「俺の両親が帰ってきた。一緒に食事がしたいってさ」 私は結局、芹澤家に戻ることにした。 夕暮れどき、ダイニングには四人が座っていた。 正治さんと恵子さん、そして和也と菜々子。 私以外のみんなは、どこか険しい顔をしていた。 どうやら、私がいない間に何かひと悶着あったらしい。 私は何事もなかったように席についた。 和也はちらりと私を見ただけで、箸を置き、立ち上がる。 「もういい、食欲なくなった」 そう言って階段を上がっていく。 菜々子がすぐに彼の後を追った。 私はそのまま、正治さんたちの隣に腰を下ろした。 二人は気まずそうに、和也の態度を弁護する。 私は静かに二人を見つめた。 前の人生――和也に監禁された私を、必死に助けようとしてくれたけど…… その時の芹澤家はもう完全に和也の手に落ちていて、二人にはどうすることもできなかった。 私は彼らを恨んではいない。ただ、あの頃の自分の愚かさを悔いているだけだ。 私は静かに口を開いた。 「おじさん、おばさん……ずっと悩んでいましたが…… 私と和也は、やっぱり合わないと思います。彼は私が好きじゃないし、私ももう……彼が好きじゃありません。 憎しみ合う結婚になるくらいなら、お互い自由になったほうがいいと思います。 だから、婚約を……なかったことにしてください」 恵子さんは一瞬言葉を失い、目に涙を浮かべていた。 「……本当に、そこまで決めてるの?」 私ははっきりと頷いた。 心に一番重くのしかかっていたもの――それが今、ふっと消えた気がした。 帰る前に、自室に残していた荷物を取りに行こうとした時―― 菜々子が廊下で立ちはだかった。 「あゆみ、お願い……和也くんを返してくれない? 私、お腹に彼の子がいるの……この子には、父親が必要なのよ」 彼女は目を潤ませ、いかにも哀れげな表情を作っていた。 私は眉をひそめ、思わず一歩下がる。 すると、菜々子が急に口元に笑みを浮かべ、私の手をつかんだかと思うと、自ら階段の方へと勢いよく倒れ込んだ。 「あゆみっ、やめて……押さないでっ! 赤ちゃん……私の赤ちゃん! 痛い、痛いよ!」 菜々子が階段を転がり落ち、両足の間から血が滲み出す。 直後、書斎から飛び出してきた和也の目に、その光景が映った。 彼は何のためらいもなく、私の頬を平手で打ちつけた。 「あゆみ……お前、なんて残酷なことをするんだ! お前は人をいじめるくせがあるって聞いたことがあったけど、信じなかった。 けど今度はこの目で見た!言い訳はもうできないぞ! お前さえいなければ、俺と菜々子は今でも一緒にいられた!なんでいつも俺たちの邪魔ばかりするんだ!」 騒ぎを聞きつけて、正治さんと恵子さんが慌てて部屋から出てきた。 菜々子は腹を抱えて、ますます大声で泣き叫ぶ。 和也は怒りに震えながら、両親に叫んだ。 「どうだ、これがお前らが俺に押し付けた婚約者だ!」 私は顔に焼けつくような痛みを感じながら、耳鳴りの中で和也の罵声を聞いていた。 彼の顔は怒りと憎しみに歪み、まるで世界中に裏切られたかのような目をしている。 私は何も迷わず、彼の頬に思いきり二発のビンタを返した。 そして冷たく、突き放すように言った。 「安心して、今日をもって、私はもうあなたの婚約者じゃないから」