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月を杯に、群山を友に
「三浦先生、決めました。先生の薬学研究所に入って、薬学の研究を続けます」 三浦敬一(みうらけいいち)先生は微笑んで言った。「君の旦那さ...
Chương (1)
第1章
「三浦先生、決めました。先生の薬学研究所に入って、薬学の研究を続けます」
三浦敬一(みうらけいいち)先生は微笑んで言った。「君の旦那さん、あんなに君のことを愛してるのに、君が海外に行って学術研究を続けるのを許すのかい?」
「これは私自身の意志です。彼とは関係ありません」
「そうか。じゃあ、いつ来られる?」
「1週間後です」
「わかった。じゃあ君が来るのを待ってるよ」
「そうだ、三浦先生。先生がこの前開発していた記憶喪失の薬、あれ、まだ治験バイトが足りないんですよね?」
三浦先生の声が急に厳しくなった。「君、それはどういう意味だ?」
「その薬、送ってもらえますか?私が試してみます」
第1話
「三浦先生、決めました。先生の薬学研究所に入って、薬学の研究を続けます」
三浦先生は微笑んで言った。「君の旦那さん、あんなに君のことを愛してるのに、君が海外に行って学術研究を続けるのを許すのかい?」
「これは私自身の意志です。彼とは関係ありません」
「そうか。じゃあ、いつ来られる?」
「1週間後です」
「わかった。じゃあ君が来るのを待ってるよ」
「そうだ、三浦先生。先生がこの前開発していた記憶喪失の薬、あれ、まだ治験バイトが足りないんですよね?」
三浦先生の声が急に厳しくなった。「君、それはどういう意味だ?」
「その薬、送ってもらえますか?私が試してみます」
……
電話をかけたのは、朝の9時半だった。
村濱菜月(むらはま なつき)は布団にくるまってベッドのヘッドボードにもたれかかっていた。
隣に寝ていた人はすでにいなかった。
隣室のゲストルームからは、かすかに艶めいた声が漏れ聞こえてくる。
「……会いたかった?」
「月に一度しか会えないから、時間がすごく遅く感じるの」
「ふっ」男が鼻で笑った。「じゃあ、今日はたっぷり可愛がってやるよ?」
「ちょうど、声を抑えて……菜月さん起きちゃう」
「平気だよ。昨日は遅くまで起きてたし、まだ寝てるだろ」
「ん……やだ、もう……」
この女の子の声、菜月はよく知っていた。
名前は早瀬桜子(はやせ さくらこ)。菜月が4年間援助してきた女子大生だった。
月に1日に家に来て、生活費を渡し、学業や生活について気遣ってきた。
来るたび、寝室の隣のゲストルームに泊まっていた。
大学院の指導教授とインターン先までも、菜月が手配していた。
けれど、この娘の「志」は、自立や努力ではなく、自分の夫を奪うことだった。
そういうことなら、譲っても構わない。
菜月は自分の名前を「賀来澄(かく すみ)」に変えた。
すでに新しい免許証も取り直した。賀来澄は「隠す身(かくすみ)」の意味とする。
一度裏切った者は、二度と信じることはない。
彼の世界から姿を消し、そして記憶を消す薬を飲む。彼のことを、永遠に忘れる。
隣の部屋の声は、ようやく止んだ。
菜月は横になり、まだ眠っているふりをした。
数分後、ベッドのマットレスが少し沈んだ。
重い腕が、彼女の腰に回された。
菜月は胸の痛みをこらえ、その腕を押しのけた。
神崎晨也(かんざき しんや)は、まるで寝起きのように呟いた。
「菜月ちゃん、起きてたの?」
菜月は「菜月ちゃん」を聞いて、キモいしか思わない。
「うん、そろそろ起きないと、仕事に遅れるよ」
晨也は後ろから彼女を再び抱きしめ、肩にキスをした。「眠いよ……もうちょっとだけ、一緒に寝よう」
菜月は、心の中で冷笑した。
昨晩徹夜して頑張ったから、疲れるのは当然でしょう。
「どうしたの?昨日よく眠れなかった?」彼女は皮肉っぽく言った。
晨也は真面目な顔でうなずいた。
「昨晩、夢で悪い竜に君をさらわれて、私は茨の道を越えて君を探してた。
やっと見つけた。だから目覚めたら疲れてる」
「悪い竜なんか、私をさらったりしない」
けれど、自分で離れる。
そして、私は絶対に、あなたに見つけさせたりなんかしない。
晨也は時計を見て「もうこんな時間か、起きないと」と言った。
彼は素早くシャワーを浴び、服を着るとベッドの縁に片膝をつき、彼女にキスした。
「寝坊ちゃん、起きて、朝ごはん作ってあげるから」
晨也が出ていったあと、菜月は怒りをぶつけるように歯を磨いた。
先ばかり桜子をキスした唇で、自分をキスするなんて、想像だけで吐き気がした。
階下に降りると、すでに二人がダイニングに座っていた。
晨也は主の席に、桜子はその左側に。
黄色のワンピース姿で、いかにも清楚な雰囲気を漂わせていた。
菜月を見ると、にっこりと甘く笑って言った。
「菜月ちゃん、おはようございます」
菜月は「うん」だけと返した。
桜子は笑みを浮かべたまま言った。
「お義兄さんが作った朝ごはんはもうできたよ。どうぞ」
菜月が席につくと、晨也が粥をふうふうと冷まして彼女の前に置いた。
「菜月ちゃん、熱いから気をつけて」
桜子が隣で羨ましく言った。
「いいな、菜月さん。こんなに大事にされて」
菜月は作り笑いで「あなたも大事にされてるじゃない」と返した。
昨晩も「可愛がられて」だと忘れた?ずっと朝方まで。
晨也はニッと笑った。
「違うよ、君を大事にしているのは君は私の妻だ。この一生大好きな女性だから」
「じゃあ桜子は?彼女のことも、どうして気になるの?」
「だって君が援助してた子だろ? 妹みたいな存在だって言ってたし、私にとっても妹だよ」
「そうか」
菜月は自分の粥を彼の手から奪い返した。
「もう吹かなくていい。冷めたら食べるから」
晨也は彼女の態度が変わったと気づき、彼女の手を取って唇にキスした。
「どうしたの? 朝から不機嫌だね。ご飯が口に合わないか、食べたいものがあれば、作ってあげるよ」
菜月は手を引っ込めて訊いた。
「晨也、私を愛してる?」
「もちろん。みんなも知ってるよ。私がどれほど君を愛してるか」
「じゃ、男は二人の女を同時に愛することって、あると思う?」
晨也は眉を少しひそめて答えた。
「ほんとの愛はただ一人に向けるものだ。余計なものは入ってはいけない」
「もし、あなたの気持ちが変わる日が来たら、そのときは正直に言ってください。私は身を引くから。でも、嘘はつかないで。私の愛情は貴重で、ピュアでないといらないわ」
晨也は笑った。
「安心しろ、私はこの一生、君だけを愛する。誰にも君の代わりなんてならないよ」
「もし、現れたら?」
「あり得ないさ」
「もし私を騙したら、あなたの元から離れるわ。そして、あなたのことを永遠に忘れる」菜月が言った。
第2話
晨也は笑いながら言った。「そんな日が来るわけないし、君が私から離れるチャンスも与えない」
そう言いながら、また菜月を抱きしめようとした。
だが、菜月はもうそういうことに嫌悪した。
晨也の体には、まだ人に不快かつ甘い匂いが残っている。
あれは一夜を共にした男女の間にだけ残る匂いだった。
菜月は立ち上がった。「スプーンを取ってくるわ」
晨也もすぐに立ち上がった。「私が取ってくるよ」
「いいわ、自分で行けるから」
菜月はキッチンへ向かい、蛇口をひねって開けた。
流れる水の音で、彼女のすすり泣く声をかき消した。
彼女が弱いわけではなかった。ただ、昔は非常に幸せだった。
愛に包まれていた日々を思い出すと、胸が締めつけられた。
孤児院で育ち、虐げられ、嫌われたので、彼女は心を強く持たなければ生きていけない。
もともと、恋愛も結婚も考えていなかった。客に無理やり酒を飲まされて、死んだとしても、誰かに助けを求めることは望まない。しかし、その時、晨也が現れた。
下劣な男性のお客さんたちから彼女を救い出した。「この子は、俺のものだ」
最初は晨也もその中の一員に過ぎないと思われ、彼女の見た目に惹かれて、自分のものにすると狙うだけだ。
だが彼は、何もしなかった。
ただ優しく言ったのだった。
「早く帰りなさい。ゆっくり休んで。今日の嫌なことは全部忘れ、明日を新しい一日にしよう」
その後、晨也は彼女の生活によく現れた。
たまに、会社での商談だったり、偶然でカフェで出会ったりするとか。躾もいいし、礼儀も正しくて、けど、誰でも彼は彼女に好意を持っているのをわかる。
付き合ってから、晨也は菜月を宝物のように大切にしてくれた。どんなに自分が我慢して、辛くても、彼女に手を出そうとはしなかった。
「結婚するまでに、君には後悔するチャンスがある。私は無理矢理にしない。心から私の妻になりたいと思ってくれる日を待ってる」
だが、この縁談は晨也の両親に反対された。
菜月は晨也と家族の関係を壊したくないので、泣きながら別れと言った。
しかし晨也は、彼女の手をしっかりと握って、「大丈夫、泣かないで、私が連れて行ってやる」と言った。
その後、彼はゼロから事業を立ち上げた。両親からの圧力に耐え、ストレスを解消するため、お酒を飲んで、肝臓も壊れてしまった。
そしてあの日、晨也と菜月は交通事故に遭った。
その瞬間、晨也は彼女を外へ突き飛ばし、自分はトラックに激突された車ごと通りから飛び出した。
車は激しく転がり、自ら燃え上がった。命は何とか取り戻したものの、意識はまだ戻らなかった。菜月がそばにいる時、彼は少し反応がある。
その姿を見て、晨也の両親はようやく悟った。息子がどれほど菜月を愛しているかを。
そして、ようやくこの婚約を認めてくれた。
菜月はこの貴重な縁談を大切にしていた。
彼女をここまで愛してくれた彼を、誰よりも大切にしていた。
しかし、思わなかったのは結婚してたった三年で、彼の心は他の女に向いてしまった。
「菜月ちゃん、大丈夫?なんでそんなに時間かかってるの?」
「大丈夫よ」
菜月は涙を拭き、蛇口を止めて、スプーンを手に戻ろうとした。
けれど手が震えて、スプーンを落としてしまった。
拾おうとしゃがんだそのとき、意外にテーブルの下に隠された秘密が目に入った。
桜子が、菜月が買ってあげたヒールを履いて、そのつま先で晨也の脚を撫でていた。徐々に上へ、膝、太もも、そしてあそこ……
そして、大きな手が彼女の足首を掴み、弄んでいる。
「またいたずらか?」
「大丈夫、菜月はまだ戻ってこないから」
「いい子にして、彼女の前では騒ぐな。あとで外で……」
菜月はわざと大きな音を立てて、二人はようやく静かになった。
席に戻ると、二人はまるで何事もなかったかのような顔をしていた。
晨也は菜月に料理を取り分けて言った。「菜月ちゃん、野菜たくさん食べて、体にいいよ」
桜子は相変わらず無垢な「妹」の顔で彼女を羨ましく見つめた。
「私も晨也みたいな人と付き合えたらいいのになあ…」
菜月は冷たく言った。「きっと見つかるわよ」
桜子は菜月の言外の意味に気づかず、また褒め言葉を続けた。
「そんなことありえないよ。晨也はこの世で一番素晴らしい男性だ。私にはそんな幸運ないから」
「あるわよ」と菜月が言った。
そのとき、菜月の携帯が鳴った。
「もしもし、村濱さんですね。お荷物が届いています」
今回は、晨也が彼女より素早く立ち上がり、ドアを開けて書類の入った封筒を受け取った。
差出人を確認した晨也の顔が青ざめる。「南空国際事業部……君はチケットを買ったのか?どこへ行くつもりなんだ?どうして私は聞いてない?」
第3話
「ポイントで交換したギフトよ」と菜月は言った。
晨也は胸を撫で下ろし、安心したように笑った。
「びっくりした……君が私を置いて行くのかと思った」
菜月は彼の手から封筒を取り上げた。
「あなたは私を裏切っていないなら、離れる必要はないでしょう?」
晨也は「そうだよね。私の心には君だけしかいない」と言いながら、笑った。
この言葉、かつての彼女ならきっと感動していた。
だが今は、心はすごく平気で、何の感じもなかった。
「菜月ちゃん、何を交換したの?見せてよ」
「たいしたものじゃない、ただの記念コインよ」と断った。
「南空国際が記念コインなんてあったの?」
「ええ」
そう言って菜月は寝室へ戻り、封筒を開けた。
中には、静かに1枚の航空券が入っていた。一週間後、ロンドン行き。
「賀来澄」の名義で買った。
同時に彼女のスマホには、国際便の荷物追跡情報が表示されていた。
三浦先生が送ってくれた「記憶喪失薬」も、だいたい一週間以内に届く予定。
7日後が、彼女が晨也の世界から完全に消える日だった。
階下から晨也の声が聞こえてきた。
「菜月ちゃん、具合悪いの?」
「昨日よく眠れなかったの。少し眠るわ」
「分かった。じゃ、ゆっくり休んでね。桜子は午後に授業があるし、私も会社へ行かないといけないから、彼女を学校まで送っていくね」
「分かった」
菜月は寝なかった。彼女は2階の窓際へ行き、外を見下ろした。
桜子が晨也の腕にからみつき、まるで跳ねるウサギのように嬉しそうだった。
彼女が晨也の頬にキスをすると、彼はその頭を掴んでキスを返した。
そして、頬から、唇へ。
さらにその先へ……
その後の様子は菜月には見えなかった。
二人は車に乗り込み、揺れる車体しか見えない。
車がようやく静かになったところ、菜月はスマホの時間を見た。
1時間40分。
二人はよく似合うようだ。そういうことに。
昨日徹夜しても、また足りないか?家に出たばかり、もう一回やりたくてたまらない。
そして、車が走り去ったとき、菜月はようやく長く深い息を吐いた。
自分の衣類を整理し始めた。
三浦先生は「この薬を飲んだら、この前のことは全て忘れてしまう」と教えたから。
彼女は衣類を整理した後、種類によって、メモを貼った。
日用品や日々の習慣も、細かく記録しておいた。
最後に、ジュエリー専門店へ向かった。
指から婚約指輪を外し、店員に差し出した。
店員は恐縮しながら尋ねた。
「奥様、他の指輪に替わるのでしょうか?婚約指輪だと思いますが、ご主人様と一緒にご来店されますか?」
「いいえ、溶かしてください」菜月は答えた。
「えっ?」
「溶かしてって言ってるの」
「かしこまりました……」
30分後、菜月は小さな赤いベルベットの箱を手に取り、店を出た。
帰宅すると、ちょうど晨也が家から飛び出してくるところだった。
家の中には警察、ボディガード、家政婦たちがいて、騒然としていた。
晨也は目を赤くし、彼女の姿を見つけるなり、強く抱きしめた。
「菜月ちゃんどこ行ってたんだよ、心配で死にそうだった」
その抱きはあまりにも強すぎで、息が詰まりそうになる。
警察官が笑って言った。
「神崎さん、これで安心でしたね。奥様、ご無事でよかったです」
家政婦も口を揃えた。
「奥様、旦那様が帰宅した時、あなたはいらっしゃいませんでした。しかも服がきちんと分類されていたから、家を出るのかとパニックになって……」
「そうです、奥様。旦那様はさっき一流の探偵を探せと命じて、もし奥さんが見つからなければ全員クビすると」
晨也はまるで宝物を扱うように、菜月を抱きしめていた。
「菜月ちゃん、どこ行ってたんだ?怪我は?寒くなかった?お腹は空いてない?」
菜月は少し距離を取り、淡々と答えた。
「ただ散歩に出ただけよ」
「でも、電話が通じなかった」
菜月はポケットから電源が切れたスマホを見せた。
「充電切れよ」
「じゃあ、あの整理された服は何だったの?」
「デザインが古いから、寄付しようと思って」
晨也はようやくほっとした。
「君が行かなければ、それでいい。菜月ちゃん、お願いだから、私を置いていかないでくれ。君がいなくなったら、私は崩れてしまう」
第4話
茶番はついに終わった。
警察が帰るとき、彼女に笑いながら言った。
「いやぁ、俺も長い間行方不明の事件を担当してきたけど、神崎さんほど奥さんを大切にした男は初めて見ましたよ。大事にしてあげてくださいね。もう心配させちゃだめですよ」
晨也は菜月の前に立ち、他人に自分の奥さんを責めるのは嫌そうだ。
「菜月ちゃんはただ買い物に出かけただけだ。心配するのは私の勝手で、彼女のせいじゃない」
警官は苦笑して肩をすくめた。
「はいはい、まあ奥さんが無事なら何よりです。おふたりが仲良く過ごすのが一番ですから」
菜月は頭を下げ、丁寧に警官たちを玄関まで見送った。
晨也は、その間ずっと彼女の背後にぴたりと付き添い、離れようとしなかった。
彼はふと、菜月の手にある小さなジュエリーボックスに気づき、ぱっと表情を明るくした。
「菜月ちゃん、新しいアクセサリー買ったの?」
「これ、あなたにあげる」
「えっ、私に?」
「うん。一週間後、あなたの誕生日でしょ。そのプレゼント」
「ありがとう、菜月ちゃん!今開けてもいい?」
「その日に開けましょう」
一週間後、その日は晨也の三十歳の誕生日。そして彼女の飛行機は、その日の朝5時に出発する。
彼が目を覚まし、ジュエリーボックスを開けて、小さな塊になったプラチナと、ひと粒だけの寂しげなダイヤが見えた時。
菜月はすでに記憶を消す薬を飲み、国外へと行ったはずだった。
ふたりの始まりはこの指輪だった。
ならば、指輪で終わらせ。
その後数日間、晨也は彼女が再び姿を消してしまうのを恐れているかのように、すべての仕事をキャンセルし、一日中ずっと家にいた。
手料理を作り、一緒にドラマを見たり、ふたりで公園を散歩したり。
菜月には錯覚のような感覚があった。まるで付き合い始めた頃に戻ったかのように思えた。
あれほど愛し合い、お互いに忠実で、目の中には相手しかいなかった頃に。
しかし、スマホに届いたメッセージが、その幸せを全部打ち砕いた。
【菜月、あの日、私たちのこと見てたよね】
【車の中で私と晨也が関係を持ったの、知ってるんでしょ。でも本当は、あなたが私を支援し始めた4年前から、私たちはもうそういう関係だったの】
【私は18歳のときから、すでに彼の女だった。もう「義兄さん」なんて呼びたくない】
【菜月のおかげで、学業もできるし、見聞も広めた。そして、この世で一番素敵な男にも出会えたの】
【彼は簡単に私のこと手放せないよ。見てみろ】
その後に続いていたのは、一本の動画。長さは1時間40分。
その時点で、菜月はその内容を察していた。
晨也が水を買いに行く間に、彼女は動画を開いた。
狭い車の中で、欲望に歪んだ晨也の顔。
彼は桜子をシートに押しつけ、彼女がどんなに泣こうが叫ぼうが構わず、動きを止めなかった。
桜子は彼の胸元に指で円を描きながら、甘く囁いた。
「こんなことして……菜月に顔向けできるの?」
彼は鼻で笑いながら言った。
「男にとって愛と性は別物なんだ。菜月のことは本気で愛してる。でも、お前の身体も手放せないんだよ」
「じゃあ私はずっと名前も立場もないまま?」
「それ以外なら、欲しいもの全部あげるよ」
「じゃあ、子どもが欲しいって言ったら?」
彼は少し考えたあと、こう言った。
「じゃあ今日はあれナシで、そっちのほうが気持ちいい」
もう耐えられなくなった菜月は、動画を閉じた。
晨也が水を手に戻ってきた。
「菜月ちゃん、水。店長に頼んで、ちゃんと温めてもらった。女の子が冷たいもの飲むのは良くないから」
彼女は水を受け取った。確かに温かい、少し熱いくらいだった。
晨也は彼女の顔を暖かい両手で包み、心配そうに眉を寄せた。
「なんで顔がこんなに冷たいんだ? 顔色も良くないし、どこか調子悪いの?」
菜月は彼の手を避けて顔を背け、静かに答えた。
「いいえ、さっき変な動画見ちゃって、ちょっと気分悪くなっただけ」
「そんなのはすぐスワイプしちゃえばいい。嫌なものは、見ないこと」
「うん、見ないよ。永遠に見ない」
第5話
夜になって、晨也は菜月を海辺へ連れて行った。
周りは賑やかで、晨也は菜月を抱きしめて歩き、誰にも彼女がぶつからないように気をつけていた。
そのとき、空に大きな花火が打ち上がった。
続いて二発目、三発目。
数えきれないほどの花火が夜空を鮮やかに照らした。
「わあ、誰かのプロポーズかな?すごく綺麗!」
「こんなにたくさんの花火……H市中の花火を全部買い占めたんじゃない?」
「ロマンチックすぎる!もしこんなに花火を上げてくれる男性がいたら、絶対に結婚する!」
その言葉を聞いたとき、菜月は少し笑った。
若い女の子はやっぱり騙さやすい。花火ひとつで心がときめき、簡単に一生を託してしまう。
でも、自分はそうじゃない。
晨也は「男は愛と性を分けられる」と言った。
けれど、菜月にとってはそれは絶対にありえない。
彼がどれだけ「愛している」と言っても、裏切りは裏切り。許せるはずがない。
「菜月ちゃん、見て」
晨也は夜空に打ち上がった花火を指差した。
それは英字の「K」だ。続いて「Z」、「S」、「Y」もある。
KZSY――神崎晨也のイニシャル。
そして、大きなピンク色のハート。
さらに「M」、「H」、「N」、「K」も現れた。
MHNK――村濱菜月。
晨也は耳元で囁いた。
「菜月ちゃん、ずっと愛してるよ。ずっと一緒にいよう。歳をとっても、最後まで、いいか?」
菜月がまだ何も言わないうちに、晨也は片膝をついた。
そして、周囲の人々の前で大声で叫んだ。
「晨也は菜月を愛してる!一生一緒にいるって誓う!絶対に心変わりしない!」
すぐ周りに拍手が鳴り響いた。女の子たちの驚きと憧れの声も混じっていた。
「もしかして、彼女にプロポーズですか?」と、ある女の子が聞いた。
晨也は笑って首を振った。
「私たちはもう結婚して四年になりましたよ」
「じゃあ、今日は奥さんの誕生日?記念日とか?」
「どちらでもありません」
「じゃあ、どうしてこんなに」
晨也は菜月を見つめて、熱い眼差しで言った。
「ただ、私の妻に伝えたかっただけ。どれだけ愛してるかを。最近、彼女が少し元気なかったから、もう一度笑ってほしかった」
再び賞賛の声が上がった。
菜月は周囲の羨ましいく眼差しを一身に浴びた。
でも、彼女だけが知っていた。
彼女の夫は、四年間ずっと浮気だった。
彼は他の女の手を繋ぎ、キスを交わし、この四年の間で何度体を重ねたのか、もう数えきれなかった。
小さな女の子がペンライトを手渡してきた。
「姉ちゃん、これプレゼント!お兄ちゃんとずっと一緒にいてね!」
菜月は晨也に尋ねた。
「子どもまで仕込んだの?」
晨也は笑って答えた。
「いや、違うよ。たぶん私たちの愛に感動して、純粋に応援してくれただけじゃないかな」
菜月はペンライトを返した。
「ありがとう。でもお姉ちゃんは、そのプレゼント受け取れない」
少女は首をかしげて聞いた。
「なんで?」
だってお兄ちゃんとお姉ちゃんの「愛」は、綺麗なものじゃないから。
嘘と裏切りと隠し事に満ちた関係。
それは、無邪気な子どもが憧れるものじゃない。
そして、価値もない。
晨也は女の子を慰めて言った。
「ありがとうね。姉ちゃんのペンライトは私が買ってあげるよ。パパとママのところに戻ってね」
女の子は「お兄ちゃん、絶対にお姉ちゃんと女の子を産んでね。お姉ちゃん、すごく綺麗だから、きっと赤ちゃんも可愛いよ!」と言った。
晨也は笑って、「よし、頑張ります」と返した。
戻ってきた彼は、菜月に言った。
「菜月ちゃん、女の子作らない?」
「そんなに子どもがほしいの?」と彼女は聞いた。
「いや、どっちかというと二人きりの時間が好き。でもさ、女の子って、愛する人と子どもを産んで欲しいって思うもんでしょ?」
「それは、さく……」
菜月は口をつぐんだ。
危うく「桜子」と言ってしまった。
本当は聞きたかったが、晨也と桜子の関係は一体何なのか。これからも不正な関係は続くのか。この三人は、この先どうなるのか。
でも、彼の首に、数日前につけられたキスマークがまだ残っていた。
それを見て、彼女は視線を逸らした。もう見たくも、聞きたくもなかった。
ここで泣き叫ぶ女にはなりたくなかった。
彼女はプライドがあった。
だから、彼が変われないなら、自分が変わる。
記憶を消して、誰も自分を知らない街へ行って新しい人生を始めよう。
「菜月ちゃん、さっき、さく……って?」晨也が聞いた。
「うん、多くの女の子はそう思ってるって言いたかった。でも、私は違う」
「私との子ども、欲しくないの?」
「うん」
「痛いのが怖い?それとも体型が変わるのがイヤ?菜月ちゃん、そんなこと気にしないで。どんな姿になっても、私は君を愛してるよ」
「帰ろう」
「怒った?ごめん、菜月ちゃん。私が悪かった。子ども欲しくなければ、無理に作らなくていい。二人きりでずっと暮らしても悪くない」
菜月の足が止まった。
そう、彼女が産まなくても、代わりに産んでくれる女がいる。
あの日、桜子と車の中で一時間四十分やり続けたなんて。
もしかしたら、今ごろもう妊娠しているかもしれない。
「菜月ちゃん、一体どうしたの……?」
リンリンリン!
電話が鳴った。
晨也は画面を見て、少し苛立った様子で電話に出た。
「この間は連絡しないで言ったよね?今は妻と一緒に……」
向こうは何が言ったかわからないが、その言葉を聞いた彼の目つきが一瞬煌めいていた
「わかった、今すぐ行く」
電話を切って、菜月に言った。
「菜月ちゃん、ごめん。会社で急に用事があって、タクシー呼んであげるから、先に帰っててくれる?」
「自分で呼ぶから大丈夫。会社の方が大事、早く行って」
「うちの菜月ちゃんはほんとに優しいな。じゃあ、着いたら連絡ちょうだいね。無事に着いたって」
第6話
晨也の車は病院の前に停まった。
桜子は泣きながら彼の胸に飛び込んだ。
晨也は彼女を抱きしめて慰め、自分のスーツを脱いで彼女の肩にかけた。
そして、彼は片膝をつき、桜子の下腹に耳を当てた。
桜子は恥ずかしそうに彼を軽く叩き、口をパクパクさせながら甘えるように言った。
菜月の車はちょうどその場を通りかかった。彼女は桜子の言葉をはっきりと聞いた。
「赤ちゃんはまだ1ヶ月だよ。何が聞こえるの?」
なるほど、桜子は本当に妊娠していたのだ。
だから彼はさっき出かける時、あんなに動揺していたのね。
運転手が尋ねてきた。
「お嬢さん、ここで停車しますか?」
「とめてください。でもドアは開けないで、料金は倍払います」
タクシーのガラスにはのぞき見防止のフィルムが貼られており、彼女からは外が見えるが、晨也と桜子は中が見えない。
彼女は、晨也が満面の笑みで桜子を抱き上げ、病院の前で人目も気にせずくるくる回るのを見た。
桜子は嬉しそうに笑いながら叫んだ。
「あなた、早くおろしてよ。赤ちゃんに気をつけて!」
もう「あなた」と呼んでいる。
数日前までは「義兄」だったのに。
晨也は桜子をそっと地面に降ろした。桜子は彼の首に腕を回して尋ねた。
「男の子と女の子どちが好き?」
晨也は「女の子かな。今日海辺で可愛い女の子を見かけて、すごく可愛かった」と答えた。
桜子は不満そうに唇を尖らせた。
「見てたよ。海辺で菜月さんに花火を打ち上げてたでしょ?しかも二人のイニシャル、真ん中には大きなハートもあるわ」
「嫉妬してるの?」
「うん、私も欲しいよ」
「でもH市だと菜月に見られちゃうかも」
「じゃあ、他の都市に行こう?赤ちゃんを授かったお祝いにさ」
「でも、菜月が……」
「あなた、言ったじゃない。妻の地位以外は全部私にくれるって。花火くらいもできないか」
晨也は明らかに機嫌が良さそうで、少し悩んだ末に答えた。
「国内だとメディアに撮られかねないから、モルディブに連れていくよ。休暇だ」
「いいわ、あなたが一番大好き!」
夜の光の中、晨也は桜子の顔を両手で包み、キスを交わした。
ピピッ――
後ろからクラクションの音が鳴った。
運転手が菜月に言った。
「お嬢さん、後ろの車が促してますよ」
菜月は視線を戻した。
「行きましょう」
車がゆっくりと発進し、ミラーの中で晨也と桜子の姿はどんどん小さくなり、やがて完全に視界から消えた。
ブブッ――
彼女の携帯が再び震えた。メッセージの通知だ。
桜子から写真が送られてきた。
妊娠検査の診断書だった。
そこにははっきりと書かれていた:「妊娠4週、切迫流産の兆候あり」
【菜月、私、晨也の赤ちゃんを授かったの】
【でもあの日、車の中で彼があんなに激しくて、今日出血しちゃって、お医者さんには切迫流産の兆候があるって言われたの】
【でもね、赤ちゃんはパパに会って安心したみたい。今はとっても元気。あと8ヶ月で生まれるんだって】
【さっき通りかかったタクシー、あなたが乗ってたよね?】
【あなた、不倫した夫なんて受け入れられないでしょ?彼を私に譲って。私の赤ちゃん、私生児にはしたくないの】
菜月はたった【ご希望どおりに】を返信した。
家に近づいた頃、晨也から電話がかかってきた。
「菜月ちゃん、無事に家に着いた?」
「うん、着いたよ」
「それなら安心だ。そうだ、ひとつ言っておくことがある。急に出張が入って、3日くらいかかると思う……」
「いいよ」
菜月は彼の言葉を遮った。
晨也は少し戸惑っていた。
「菜月ちゃん、怒ってるの?行くのをやめるよ。今すぐ帰って君のそばにいる」
電話の向こうから、女性の不満げな声が微かに聞こえた。
きっと桜子だろう。約束したモルディブの旅行はそう簡単に諦めるわけがない。
菜月は言った。
「怒ってないわ、行ってきて」
「本当に?3日で戻るから。戻ったら私の誕生日なんだ。君と一緒に過ごしたいよ」
菜月は鼻で笑った。
「またね」
「菜月ちゃん、約束して?帰ってくるまで家にいて。勝手にどこか行かないで。君がいなかったら私は気が狂うよ。前のことはほんとにびっくりさせた……」
菜月はそのまま電話を切った。
彼はどうして、愛していると言いながら、別の女と体を重ねられるのか。
菜月には理解できなかった。
でももう、理解したいとも思わなかった。
電話がまた鳴った。
今度は晨也ではなく、宅配便だった。
「村濱さん、荷物の受け取りお願いできますか?」
菜月の車はちょうど家の前に着いた。
彼女は荷物を受け取った。それは「記憶喪失の薬」だった。
包みの中には、英語の説明書が入っていた。
そこにはこう書かれていた「この薬を飲むと、過去の記憶をすべて失います。二度と記憶は戻りません。服用は慎重に」
第7話
この夜、菜月はぐっすりと眠れた。
翌朝早、彼女は慈善団体のスタッフと約束をして、整理したすべての服を寄付した。
日用品や晨也から贈られたすべてのプレゼントやラブレターも、彼女は葬儀場に持っていった。
そして職員に金を渡し、それらすべてをきれいさっぱり焼いてもらった。
桜子からのメッセージは、やはり予想通り届いた。
【モルディブって本当に綺麗!菜月、あなたのおかげで晨也に出会えたの。本当にありがとう。彼がいなかったら、私なんかこんな高級なリゾートに来るなんて無理だった〜】
その上、彼女は大量の写真まで送ってきた。
全部、晨也の写真だった。
彼女に日焼け止めを塗る晨也、彼女にロブスターを焼く晨也、彼女を抱きしめてキスする晨也。
菜月は写真を開くことすらせず、携帯の電源を切って、出発の最終準備を始めた。
晨也が出発してから二日目、菜月は銀行へ向かった。
「菜月」名義のすべての口座から現金を引き出し、それをポンドに両替。
そして、すべての銀行口座を解約した。
続いて、彼女は市役所へ行き、「菜月」という戸籍を抹消した。
夜には仲の良い女性の友人たちと食事をした。
新しい身分で人生をやり直すことに、彼女は何の不安もなかった。自分の能力を信じていたし、名前が変わってもきっと素晴らしい人生を切り開けると信じていた。
でも、大切な友人たちとの別れは少し寂しかった。
その席では、自分が去ることなど一切口にせず、ただ楽しく食べて、歌って、「菜月」としての最後の日を笑顔で過ごした。
それでも桜子は彼女を手放そうとしなかった。
彼女が一日中携帯の電源を切っていたが、夜に電源を入れると、メッセージが一気に届いた。
【新米パパはもう赤ちゃん教育や離乳食の勉強を始めたの。なんて素敵な男性なの!菜月、彼を譲ってくれて本当にありがとう】
添付されていた写真には、晨也が写っていた。
金縁の眼鏡をかけ、ペンを片手に読書をしていた。
その本の名前が『胎教ガイド』でなければ、金融マーケティングとか学術論文とかを研究しているかと思われる。
それだけではなく、机の上には本が山ほど重ねている。
幼児教育の本以外に、『妊娠中の注意点』『産後うつ病の予防』『30日で産前の体型に戻す方法』などもある。
晨也が気にしているのは、もはや子供だけではなかった。
知らぬ間に、桜子は彼の心の中にも深く入り込んでいたのだ。
肉体が裏切れば、心もいずれ裏切る。それは時間の問題だ。
菜月はふと考えた。もし晨也が帰宅して自分がいないと気づいたとき、また前のように慌てるのか?警察に届けて、探偵まで雇うのか?それとも今回はどうでもよくなっているのか……
「きっと出かけただけで、すぐ帰ってくる」としか思わないのかもしれない。
彼の心の中には、子供とその母親しかいないのかもしれない。
自分の存在する場所は、どんどん小さくなり、やがて消えていくだろう。
もう考えたくなかった。
彼女はすでに「去る」と決めたのだから、彼が後悔しようがしまいが、もう関係ない。
ただ一つ確かなのは彼を離れ、彼を忘れることに、彼女は一切の後悔はないということ。
最後の日、彼女は12時間たっぷり眠った。
目覚めたときには、気力に満ち、顔色も輝いていた。
鏡の中の自分に、大きな笑顔を向ける。
外出時、彼女は荷物ひとつも持っていなかった。
彼女の物はすべて寄付か焼却済み。
手元にあるのは、小さなショルダーバッグひとつだけ。
その中に入っていたのは【賀来澄】という名前の運転免許、パスポート、ビザ、ロンドン行きの航空券。
そして、記憶消す薬だ。
菜月という名前に関する最後の繋がりは、今持っている携帯電話だけだった。
彼女はそれでタクシーを呼んだ。
「空港までお願いします」
支払いのとき、彼女は口座の残高すべてをドライバーに送金した。
車を降りてすぐ立ち去ろうとすると、運転手が慌てて追いかけてきた。
「お客様、間違えてますよ。運賃は13000円ですが、300000円を送っていました」
菜月は微笑んだ。
「そのまま受け取ってください。空港まで送ってくれてありがとう」
「空港までお送りするだけなら、運賃で十分です。本当に、そんな大金は受け取れません!」
「あなたが私を連れて来てくれたのは、ただの空港じゃないの。私の人生をやり直す出発点よ」
運転手と別れると、SIMカードを抜いて折り、携帯電話と一緒にゴミ箱へ投げ捨てた。
これで、菜月に関するすべては、完全に処理し終えた。
彼女は係員に紙とペンを借り、自分自身に宛てて一通の手紙を書いた。
【賀来澄へ
この手紙を開いたとき、あなたの人生が新しく始まる。
過去にこだわらないで、あなたが誰だったのか、もう知る必要はないわ。
私を信じて。堂々と前に進んでちょうだい。
あなたには、どんな人生でも輝かせる力がある。
そして、「一生君を愛する」なんていう男の言葉は、二度と信じてはいけない。
人の心は変わるもの。永遠に頼れる人なんて、どこにもいないの。
信じられるのは、自分だけ。
どうか、自分自身を大切に。
以上】
手紙を書き終えた彼女は、それをポケットに大切にしまった。
目覚めた後すぐに読めるように。
アナウンスが流れる。
「賀来澄様、間も無く出発の時間になります。H25搭乗口までお越しください。ご協力いただき誠にありがとうございました」
菜月はバッグから薬を取り出し、一気に飲み干した。
そして、振り返ることなく飛行機に乗り込んだ。