もう、引き止めない

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もう、引き止めない

GoodNovel Hoàn thành

結婚式まで後一週間、婚約者の立花晶也(たちばなあきや)が突然、先に初恋の相手と結婚式を挙げて、それから私と結婚するのだと言い出した。 ...

Chương (1)

第1章

結婚式まで後一週間、婚約者の立花晶也(たちばなあきや)が突然、先に初恋の相手と結婚式を挙げて、それから私と結婚するのだと言い出した。 初恋の相手の母親が亡くなり、遺言で二人の結婚を望んでいたからだ。 「夢乃(ゆめの)の母さんは、生前ずっと娘の幸せな結婚を願ってた。ただその遺志を叶えてやりたいだけなんだ。変に勘ぐらないでくれ」 でもその日は、会社が私たちの世紀の結婚式当日に、真愛シリーズのジュエリー発売が決まっていた。 彼は苛立ったように言った。「たかが数百億じゃないか。夢乃の親孝行のほうが大事だろ?本気で金が欲しいなら、他の相手でも探して結婚すればいい」 その冷たい言葉に、私はすべてを悟った。背を向けて、実家に電話をかける。 「お兄ちゃん、新しい結婚相手を紹介して」 第1話 兄は信じられないという様子で言った。「婚約を破棄するってことか?」 「違うよ。彼が他の女と結婚するの」 私は苦笑した。 立花晶也(たちばなあきや)と一緒になるため、家族の猛反対を押し切ってようやく両親の許しを得た。そして真愛シリーズのジュエリー発売日も、結婚式当日に設定したのだ。 なのに、すべて水の泡だ。 兄はしばらく呆然としていたが、やがて口を開いた。「じゃあ、深水涼馬(ふかみりょうま)しかいないな。彼も最近、家族に結婚を急かされていて、相手を探しているところらしい」 私は眉をひそめた。涼馬とは犬猿の仲だ。婚約が決まった日、「結婚なんてすぐに破綻する」と呪いのような言葉を吐いた。その呪いが現実になるなんて。 時間がなかった。私はためらわずに言った。「彼でいい。意思を聞いてみて。ダメならまた考える」 兄はすぐに言った。「聞くまでもないよ。彼なら絶対承諾するよ」 「えっ?」 さらに聞こうとした時、周りに人が集まってきた。 「あなたが晶也さんの婚約者ですね! すっごく綺麗」 「お迎えですか?もうすぐ出てきますよ~。お似合いカップルですね」 私はハンドルを握り、視線を落して自嘲の色を隠した。 晶也は早くから私を同僚や友人に紹介していた。周囲の目には、私たちは誰もが羨むお似合いのカップルに映っていたのだろう。 でも誰も知らない。彼がもうすぐ別の女性と結婚しようとしていることを。 みんなと別れた後、晶也は車に乗り込み、私にネックレスを渡した。 「夢乃(ゆめの)からだ。昨日の葬儀であなたが彼女を辱めたから、後でちゃんと謝っておけ」 そのネックレスは明らかに製品のおまけだ。数日前、晶也のネットの買い物カートで見かけたものだった。 私は淡々と言った。「いらない」 晶也は眉をひそめた。「またわがままを? 葬儀で『彼は彼女の婚約者じゃない』なんて言いふらして、彼女を恥かかせたのはあなただろ。それでも夢乃は気にせず、あなたにプレゼントまで用意したんだぞ? それでも感謝しないのか?」 かつて私を守ってくれた彼はもういない。今、彼が大切にするのは、私じゃない。 晶也はイライラと窓を開け、風に当たっていた。しばらくして、私が機嫌を取る気配もないのを見て、ようやく口を開いた。「まあいい。今日はウェディングドレスのフィッティングに行く約束だったな。気にしない」 今年初めての譲歩だった。 ブライダルサロンに着くと、店員が迎えてくれた。 「立花さん、藤原(ふじわら)さん、おふたり専用でオーダーのウェディングドレス20着とスーツ、すべてご用意できております」 しかし晶也は衣装には目もくれず、スマホを見ながら焦った表情を浮かべていた。 私の視線に気づくと、すぐに携帯をしまい、申し訳なさそうに言った。 「志咲(しさき)、夢乃にちょっとトラブルがあって、すぐ行かないと。ドレスはひとりで見てて。スーツも選んでくれ。あなたのセンスは信じてるから」 そう言うと、タクシーを呼んで立ち去り、私一人を残した。 店員が恐る恐る近づいてきた。「藤原様、スーツはご自身でお選びになりますか?」 私は視線を戻し、うなずいた。 スーツは選ぶ。ただし、晶也のためではない。 新郎が替わったのだから。 車で家に帰ると、晶也は一晩中帰らないだろうと思っていたが、夕食前に彼は現れた。 晶也は大きな歩幅で近づき、手に弁当箱を持っていた。 「街中を探し回って買ったんだ。海瑞の夜食」 私はそのお菓子を見た。 普段より3つ少なく、一つには明らかな歯型がついていた。誰かがかじった跡だ。 30分前、林夢婷がタイムラインに投稿していた。 写真には、今目の前にある料理が映っていた。 【主人が夜遅くなのに夜食を買ってくれた!お疲れ様、ちゅーっ】 私は自嘲的に箸を置き、食欲を失った。 「食べたくない。捨てて」 晶也は一瞬、不機嫌な顔をしたが、怒りを抑え、私の隣に座って愚痴をこぼす。 「今日の夢乃は本当に可哀想だったよ。うちの親が彼女の家に乗り込んで『金もないくせに、まともな持参金も用意できないのか』って怒鳴ってさ、夢乃は泣きそうになってた」 「夢乃は帰国したばかりでお金もない。だから、あなたの持参金を一旦彼女に渡したい」 彼の押しつけがましい口調に、私は吐き気すら覚えた。 私は彼を見て皮肉たっぷりに言った。「つまり、私はあなたの妻の持参金まで用意しろってこと?」 第2話 以前、私は晶也のことを本気で大切に思っていた。彼が口を開けば、何でも与え、何でもしてあげたかった。 でも今、彼自身の手で私は現実に引き戻された。 林夢乃(はやしゆめの)が帰国して以来、彼の行動はすべて彼女のため。 私が彼の未来を共に歩むはずの人間であることなど、もう忘れてしまっている。 私の返答に、晶也は激怒した。「どういう意味だ? 嫌だって言いたいのか?夢乃は僕の親友だ。彼女を満足させられないなら、お前なんかと結婚しない」 そう吐き捨てて、ドアを叩きつけて去っていった。 苛立ちを抑えきれず、公園へランニングに出かけた。 一周走ったところで、涼馬から電話がかかってきた。 あの仏頂面の涼馬のことを思い浮かべ、2秒躊躇してから応答した。 「一度僕の船に乗ったら、もう僕のもんだ。逃げたら、縛ってでも連れ戻すからな」 第一声から、まるで脅し文句だ。 私は黙ったまま聞いていると、涼馬は続けた。 「マイナンバーカードを先に送れ。婚姻届を出す」 「気が変わるのが怖いからな」 涼馬、あんた何かおかしい。 私は頭の中で、彼が結婚を口実に私を苦しめるシナリオを一万通り思い描いていた。 それでも、ようやく言えたのは一言だけだった。「結婚式で会いましょう、深水さん」 すると突然、背後から晶也の声が飛んできた。 「僕たちの結婚式に深水涼馬を呼ぶつもりか? 許さない」 彼はまるで敵を見るような目で私を睨みつけた。 「藤原志咲、深水涼馬と付き合うなと言っただろう。あいつはあなたに下心がある。結婚式に招待なんかしたら、黙っていないからな」 私はまだ一言も返していないのに、彼は捨て台詞を吐いた。 晶也は昔から涼馬を毛嫌いしており、理由もなく敵意をむき出しにしていた。付き合い始めた頃、涼馬と頻繁にメッセージのやり取りをしているのを知ると嫉妬して爆発し、その後私は自然と涼馬との連絡を絶っていた。 だが今、彼は「深水涼馬はあなたに下心がある」と言ったのか? 問い詰めようとしたその時、夢乃がふらりと晶也の肩にもたれかかった。 「涼馬、痛いよ」 初めて気づいた。二人が指を絡めて手を繋いで散歩していたことに。 晶也は咳払いをしたが、手を離そうとはしなかった。 夢乃は甘ったるい眼差しで晶也を見つめ、わざとらしく私に謝罪した。 「志咲さん、ごめんなさい。晶也と式の段取りを確認していただけなの。気にしないでね」 「あなたが私を襲わせた件も、お母様のお墓を荒らしたことも、私は口外しない。でも晶也を傷つけないで。本物の愛は試しちゃいけないものよ」 茶番劇なんて見たくない。背を向けて立ち去ろうとした。 「そこまで望むなら、今夜でもお前を殴って、お母さんの墓でもぶっ壊してやるわ」 バチン! 晶也が私の頬を思いきり叩いた。 「藤原志咲、そんなに卑劣な女だったのか」 彼の眉間に怒気が渦巻き、胸を荒げていた。 私が卑劣? 他人の一言を真に受け、私と過ごした五年の歳月には、ひとかけらの信頼もないの? 怒りが全身を駆け巡り、晶也に詰め寄ろうとすると、夢乃が前に立ちはだかった。 「志咲さん、お願い。式が終わったら晶也を返すから」 「私の周りの人も、晶也も傷つけないで」 彼女は跪こうとした。 晶也は慌てて彼女の腰を抱き、私を睨みつけた。 「藤原志咲、金持ちの娘だからって好き放題するな!」 「僕がどれだけ嫌いか知ってるだろう? 結婚したいなら大人しくしてろ」 彼は式前まで二人の前に現れるなと警告して去った。 だが翌日、晶也から連絡が入った。 開口一番、怒鳴り声が響いた。「藤原志咲、本当に林伯母の墓を掘ったのか!?お前がそんな女だとはな」 私は戸惑い、助手に調査を依頼すると、衝撃的な事実が判明した。 夢乃の母親は……死んでいなかった。 第3話 どうりで夢乃があそこまで狂気じみたことをし、母親の墓を掘り返してまで私を陥れようとしたわけだ。 死は全て偽装だったのだ。 私は晶也にメッセージを送った。【林夢乃の母親は死んでいない。真実は送ったメールに書いてある】 読むかどうかは、もう私には関係ない。 飛行機のチケットは三日後、涼馬が自ら手配してくれた。 晶也が戻ってきた時、私は荷物をまとめていた。 服の半分は捨て、一部は南市へ送る準備をしていた。 「どうして急に片付け始めた?」晶也は疑わしげな表情を浮かべた。 「引っ越しなの」と私は適当に答えた。 彼は一瞬黙り、不自然さに気付かないまま独り言のように続けた。 「藤原家の会社は南市にあるから、結婚後はそっちに移住する予定だ。早めに準備するのも悪くない」 そう言うと、鋭い目で私を睨みつけた。 「夢乃の母親の件は早めに謝ってくれ。結婚式当日でいいだろう?それでいいな?」 言い終えると彼はスマホを放り、マイナンバーカードを探しに行った。今日は夢乃と婚姻届を提出する日だ。 夜になっても彼は戻らなかった。スマホを開くと、夢乃からのメッセージが飛び込んできた。 写真には晶也と彼女がペアルックでベッドに並んで寝ている姿が写っていた。 私は目を閉じ、胸の奥が鋭く締めつけられる。 その感情を必死で押し殺し、スマホの画面を消した。 深夜、枕元のスマホは一時間おきに振動した。毎回、夢乃から送られてくる晶也との動画の挑発だった。 翌朝、涼馬からメッセージが届いた。 【藤原さん、花が咲きました。ゆるりとお戻りください】 添付されていたのは、婚姻届二通と、 一鉢の見事な赤い牡丹の写真だった。 あの時何気なく贈った花を、彼がまだ育てていたとは。 言葉では言い表せない感情が胸に湧き上がった。 私は一言だけ返信した。【わかった】 スマホを置いて仕事のファイルを整理していると、いつの間にか晶也が帰宅していた。 彼は普段使いの荷物を詰めながら言った。「僕は夢乃のところに暫く泊まる。一人で婚礼の準備じゃ手が回らないからな。あなたは後日の式に遅れずに出席しろよ」 その後、ただの手伝いだから騒ぐなと長々と説明してきた。 「ええ、行かない」と私は俯いたまま答えた。 昨夜を境に、彼への最後の情も完全に消えていた。 晶也は私の平静な様子に言い知れぬ不安を覚え、躊躇した。 だが夢乃の甘える姿を思い出すと、スマホを握っていた手の力が緩んだ。 志咲は自分を愛しているのだから、何か問題が起きるはずがない。 そう考えると安心し、私にかまうことなく姿を消した。 彼の去り行く背中を見ながら、私は一通の電話をかけた。 その夜、広場にヘリコプターが着陸した。 一人の男性が近づいてきた。「藤原様、ご手配のヘリが到着しました。三十分後に南市へ安全にお送りします」 私は頷き、封筒を手渡した。 「明日、これを婚礼会場に届けて。新郎新婦への私の結婚祝いだ」